第14話 大好き
みっちゃん……。
光姫は昨日、しんどかったから休んだんだ。だから、あやのんとれんれんからみっちゃんが早退した事は後から聞いた。
なんだかみっちゃん…弱っていってて。その辛そうな顔をみると、光姫は泣きそうになっちゃうから……。
何か出来ないのかな…みっちゃんの為に。少しでも元気づけることが出来ればいいのに。
夏の暑さは顔をひそめて、湿度の高さが鬱陶しい。嫌な胸騒ぎがする。雑踏の中、探していた三人を見つけた。
「あ〜!遅いで光姫!ほらほらっ、早速行くで!」
「ごめんねっ!今日はいっぱい楽しも〜!」
「今日のために髪巻いてきたんだぞ!!綾乃みて!」
「うんっ…可愛いで……恋…//」
みっちゃんが優しく微笑んでくれる。
「ねっ、光姫ちゃん……浴衣、すっごく似合ってる」
嬉しくて……でも切なくて。
「ありがとっ。みっちゃん…手、繋ごっか」
「…………うん……」
その手は少し冷たくて、指の柔らかさだけが伝わってきた。
◇◇◇
「ほら!たこせんあるぞ!!そういえば光姫、たこせん食べたいって言ってたよな?」
れんれんにそう言われて頷いた。あやのんはずっとソワソワしてる。緊張してるんだろうな。
あやのんは今日、れんれんに想いを伝えるつもりだ。そのため、花火が上がるちょっと前くらいに別行動する予定だ。
絶対に成功してほしいな……。れんれんはいつも何かあったらすぐにあやのんに話すし、あやのんが居ないときは目に見えて落ち込んでる。
そんな二人なら大丈夫だと思うんだあ。
「な〜恋……良かったらさ……その…あ〜んってしてくれんっ?////」
「な、ななな……綾乃っ、でも…恥ずかしい……ぞ…////」
な、なんて初々しいんだぁ……。見ててキュンキュンしちゃうな。お互い耳まで真っ赤だ。
「光姫ちゃん、二人のことばっか見過ぎだよ〜……?私のことも見て欲しいな……」
その表情は頬を膨らませて妬いているというよりは、凄く淋しそうで……。蛍火のように消えてしまいそうな美しさを纏っていた。
「うっ、ごめんみっちゃん」
「浮気は駄目だよっ……ふふ」
お祭りの華やかな雰囲気に対して、みっちゃんは物悲しげな顔をしている光姫を気遣って和ませようとしてくれる。
「みっちゃん……」
「みっちゃんだよっ。どうしたの光姫ちゃん。浮かない顔して」
「ねえ…………抱きしめてもいい?」
「うんっ………えへへ」
みっちゃんはそっと体を寄せてくれる。靡いた髪からふわっと甘い匂いがした。
(みっちゃん…………)
腕の中の華奢な女の子はいつもよりか弱くて、小さかった。気づかなかった。いままでずっと。
柔い肌に、少し冷たい体温。光姫は勝手にみっちゃんの事、しっかりしてて強い子だって……そう思ってたんだ。本当はこんなに儚くて、繊細な女の子なのに。
「みっちゃんも、浴衣とっても可愛いんだあ。後で二人で写真とか撮ろうね」
「光姫ちゃんっ。約束だよ!」
「海夏、光姫〜。うちらちょっと向こうの屋台見てくるわ〜!」
あやのんは少し早いけど、別行動するようだ。たぶん、光姫とみっちゃんのこと思ってそうしてくれたんだろう。
仲良く話しながら歩くあやのんとれんれんは、いつもよりほんの少し肩を寄せ合っていた気がした。
「そういえば二人でお祭り回るなんて久しぶりだね〜。光姫ちゃん何か見たいものある?」
「……みっちゃんが見たいもの何でもっ!」
二人で人混みを手を繋いで歩いていく。立ち並んだ屋台。光姫たちを照らす橙色の光は暖かい。
二人とも口を開かない。ただ、繋がった手からお互いを感じていた。心地よく、切ない沈黙。
やがてみっちゃんは、懐かしむように語りだした。
「光姫ちゃんは覚えてるかな…?私と光姫ちゃんが初めて会ったときのこと」
「忘れるわけないよっ。みっちゃんは命の恩人で、あの日からずっと……光姫の憧れだったんだあ…」
「ふふっ、嬉しい。でもね、あの日すっごく怖かったの。もちろん光姫ちゃんの方がよっぽど怖かったと思うけど…溺れてる女の子を見て、助けられなかったらどうなるんだろうって考えると………足が竦んじゃって」
「でも、みっちゃんはすぐに大人を呼んでくれた……みっちゃんが居ないと、光姫は今ここに居ないんだよ」
だからこそ、みっちゃんが困ってるときは助けてあげたい……何でも寄り添ってあげたいのに。
「今、みっちゃんは……きっと困ってることとか、悩んでる事あると思うんだ……」
「…………うん」
「あのっ……光姫に話すだけでもいいからっ…力になりたくて……」
臆病な光姫は踏み込むことが怖かった。光姫の言葉は尻すぼみに小さくなってしまって…………。もしみっちゃんに拒絶されたら…、光姫は生きていけないと思うから…。
みっちゃんは時々、酷く不安そうな顔をする。今にも泣いてしまいそうなその表情に、毎回心配しても……みっちゃんは『心配しないで』って……辛そうに笑うんだ。
付き合っているのに、お互い大好きなはずなのに。横を歩くみっちゃんは触れられないほど遠い。
「光姫ちゃん…………そんな悲しい顔しないで。
――――あっ!そうだ、私飲み物買ってくるね。光姫ちゃんもうなくなっちゃったよね。すぐ戻るからここで待ってて?」
みっちゃんはそう言って歩き出す。どんどん遠のく背中が小さくなっていく。
なんでかな……ここで追いかけなきゃ、二度と会えないような…そんな気がして。これ以上離れたら、光姫はきっともう追いつけない………。
―――――気づけば呼び止めようと体が反応してた。躊躇うより右足が出るほうが早かったんだ。
離れていく下駄の足音を、必死に手繰り寄せる。
「ねえ!待って、みっちゃん!!―――」
掴もうとしたみっちゃんの左手は触れることが出来なかった。
そこに誰もいないみたいに……。元から存在しなかったように。
光姫は、目の前で起こったことが信じられなかったんだ。
「…………光姫ちゃん……」
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