追放され ない二人の勇者

@aska3

第1話 これはプロローグであり、理詰めの攻略は二話から始まる

「シオリ、もうお前いなくても大丈夫だからさ。」


丁寧な言い方だった。彼との仲は悪いものじゃないと思っていた。むしろ吐き捨ててくれたほうが嬉しかったかもしれない。できることは全部やっていた、だがやはり、英雄御一行に雑用はいらないということだろう。


「わかったよ。ありがとう」


あの二人には会わないように行こう。手紙ぐらいは書くか。せっかくだし、アイツにも書こう。







平々凡々。部活は新聞部。休日はゲーム、たまに料理。中学はバレー部に入ってみたが、それもやめたので軽く運動をすることを心がけている。熱中するものもなく、いつも通りの日々を送っていた。


暑い夏の日のことだった。

何を思ったか、外を歩こうと日差しの中、見慣れた街を進む。


少し休もう。

いつの日か、ボールを蹴って適当な線をゴールにしていた公園。

「折れてる…」

ベンチの裏に一本、木陰をドロケイの檻にしたナラの木。

通学で通らない道の公園は、いつの間にか姿を変えていた。


いけない、すこし目眩がする。

温まったベンチに腰掛け、コンビニで買ったお茶を開ける。

ぬるくなっていた。








「……二人、召喚された」

「本当か?」

「間違いない。光の柱に影が二つ」

「勇者はいつも一人のはずだ。記録にも例がない」

「儀式自体には問題は見当たらない。乱れも、干渉もなかった」

「ではなぜ二人?失敗か、それとも異常か」

「失敗例に習うなら、こんなに整ってはいないだろう」

「誰かが意図したものか?あるいは世界の意思か?」

「どちらの可能性もあるが、確証はない」

「情報の扱いはどうする?まだ誰にも漏れていないか?」

「六席に限定して伝えている。広まれば混乱は避けられない」

「記録は封印し、外部への伝達を制限せよ、厳重にだ」

「王への報告はどうする?謁見は二人同時か?」

「一度に二人は混乱を招く。分けて呼ぶべきだが、順序が問題だ」

「順序を付ければ、どちらが本物か疑われる」

「それなら事実だけを伝え、判断は王に委ねる」

「王室が混乱する」

「隠すことはできない。情報は徐々に漏れる」

「…機密保持を最大限にしつつ、速やかに王へ報告する」

「他にはどうする?魔術師団、軍部、教会には?」

「術師団には最小限の情報のみ。疑念を持つ者の多い教会は内々にだ」

「軍部は動揺を隠せぬだろう。事態を利用しようとする者もいる」

「軋轢は避けられぬが、統制は我々の責任だ」

「それぞれの動きを注視し、必要なら介入する」

「混乱を防ぐため、情報の流出を厳重に管理せよ」

「この件、我々が責任を持って処理する。安易な拡散は許さぬ」

「……これが過ちか、新たな時代の兆しか」

「歴史は今、動き始めている」



公園にいたはずだった。目を閉じて、開けた。大理石の床が嫌に冷たかった。

僕は、僕達は赤い液体で書かれた模様の上に倒れていた。

「我々は勇者様方のお世話させていただく者です。こちらへ。」


僕達は従うしかなかった。ここは公園よりも涼しい、他にも考えるべきことはあるのに、僕は呑気にもそう考えていた。


「俺は飛鳥馬ヒイロ。あんたは?」

金髪で後ろ髪をまとめた男、僕とともにどうやら召喚されたそいつが話しかけてきた。

「日本人なのか」

少し背の高いその髪を見上げると、染めているようではなかった。

「ああ、地毛だよ。で?あんたは」


「すまん、気になったもんで…足柄シオリ、高校生。」

「マジ?俺も」


「マジって…なんでだよ、お前が日本人てほうが驚くだろ」

「だって死にかけの社畜みたいなツラだぜ?」


「まじか」

「マジマジ。」




その後の僕らは服を変え、いくらかの作法を教えられ、王とやらに謁見した。





「まずは、感謝を示そう。諸兄らにも営みがあり、愛するものがあり、守るものが、平常があったことだろう。それを我らは奪ったとも言える。立場ゆえ謝罪の意を言葉には出来ぬのが苦しい。

門は、国に災い降りかかるとき、異界の力を取り込み、問題を解決するため開く。

このまま送り出しては見殺すも同じである。望むならば今すぐも良かろう。だが我々にはそなたらをいくらかは鍛える用意がある。」


「汝らの言葉を聞かせてもらえるか」



「自分はお世話になります!」怖いくらい眩しい笑顔で飛鳥馬は返事をした。


「ふむ、そなたはどうだ」


「私もお願いします。」権力には従っておくべきだと思う。






二月ほど、訓練場で鍛えられた。学者も関わっているプロジェクトらしい。根性論ではなく、しかしそれ故にこの上なく厳しいトレーニングだった。剣術、魔法対抗術、座学、一般教養、考古学、果ては占星術…休む暇もない、というか休むことも義務に加えられたスパルタ教育。ここは古代ギリシャか?



「シオリお疲れー」

「ヒイロもな」


「しかし俺達は何をすれば良いのかね」

「災いを退けろ…しか言われないし、少しは調べてくれって話だよ」


災い降りかかる時、門は開く

僕達がここにいることが、災いの存在を証明する仕組みだ

問題を調査、発見し、それを取り除く。それが僕らに与えられた仕事

戻れるんだかなんだか知らないが、仕事をしなければ僕らは今日の寝床にも難儀する

これは使命とかではなく仕事なのだ

完遂すれば褒美という形で食うに困ることはなくなるそうだ


僕達は明日、他のメンバーと会う

この世界はダンジョンがある

古代の遺産

超文明的遺骸

一般的に言われている説は古代文明が魔法を作り、城をつくり、その中で生態系ができる

”勇者の門”もその時代のものではないかと言われている

「言われている」

文章も記録も残っていないのだ。あくまで都市伝説の段階でしかない。この分野は学問の最先端らしい

完全踏破されたダンジョンはどれも小さいものばかり

おそらく古代の一般家庭レベルのものではないかと


ダンジョン攻略、溢れ出した生物の駆除、ヒグマ、イノシシ駆除、野菜の収穫、警備、護衛、諸外国の脅威の撃退…

その手の労働力を斡旋する組織として冒険者組合…ギルドがあり、一商売成り立っている。

事の調査をする都合、僕らも入ることとなる

大概は古代の遺産が何かしらで絡むからだそうだ


そして僕らは政治が絡む

教会から協力という形で一名

魔術師会からも一名

ギルドで野良と組まれる前にと、監視だろう

お国の名のもとに組まれるパーティー

その実態はそんなものだ





「修道会から来ました、回復などを得意としています、ノアと申します。」


「サラよ、よろしく!」


サラさんはすこし小さかった


四人での訓練を数日重ねて、都を発った

勇者パーティーとして送り出された

言葉にはされてないが、はたから見ればヒイロが勇者だろう

実際僕に勇者然とした才能はないことがこの二ヶ月でわかった

サポート役、バックアップ、予備、影武者、雑用

うん、雑用が一番ふさわしい肩書なんじゃないだろうか


僕達はいくつか街を越えた

最初の目標は「第八迷宮」

第八は数少ない完全踏破された大型だが油断はできない

道中で装備を整え、小さなダンジョンで鍛える、実戦経験を積む






そして第八迷宮を攻略した



「特に収穫はなかったな」


「ええ、変わった様子もなかったわね」


「レベルも上がりませんでしたし」


「まあ練習のつもりだったからね、次のこと考えなきゃなぁ」


「一旦街に戻るか」


「今日はもう休みましょう」








「おかわり」

テーブルに叩きつけるようにグラスを置く


「飲み過ぎだよ」

「いいから」


「全く第八から尻尾巻いてってのはわかるけどさ…」

飛鳥馬ヒイロは酒場にいた

第八の近くの村ということでかなり賑わっていた

迷宮産の素材が手に入るこの村は名前こそホロル村だがかなり大きい街だった

迷宮に一番近い宿を取った

向かいにあるこの酒場はその手の客でいっぱいだったが

夜も更けた頃、明日に仕事を控える者はもう帰り、静かなものだった


「いらっしゃい」


古い扉が音を立てて開く

店主は夜更けに女性のお客とは珍しいと言いながら、二人にカウンターの席、ヒイロの隣を案内した


「はい、あんちゃんの分」

「お二人は何を?」


「私は甘めのカクテルで」

「おすすめのウィスキーを、ロックで」

「うわマジ?」


ヒイロには聞き覚えのあるはずの声だった

「嬢ちゃんあんた声でかいぞ」

そこまででもないが当たってしまう


「うるさいわね!ってアンタ!」


「あ、サラか」


妙に納得がいった

お子様舌には甘いカクテルか、酒場に憧れってのはあるもんだよな、と


「知り合いかい?はい、まずはロック」

「カクテルは今から作るからな」


「仲間だよ、…じゃあそっちの姉ちゃんはノアか」

寝ぼけ眼では顔がわからなかった

服もどうやら着替えたようで別人のようだった


ノアはしばらくウィスキーを眺めていた

「マスター、同じのを作っといてください」

そう言うと一気に飲み干した


「ロックってそう飲むもんじゃないでしょ!?」


「やっぱサラうるさいぞ」


「アンタも飲み過ぎ!」


ドンッ、とヒイロよりも大きな音を立ててグラスを置く

「わかりますよヒイロさん、アレでしょう?私と同じコト思ってますよね、やり場のないこの感情ですよね?」

俯いたまま呪うように言葉を吐く


「俺今日剣振ってるだけだったぜ?魔法も神秘も使えないけどさ、探索っていうかガイドさんと散歩したかんじよ」


「ええわかります、なんかもう気づいたら第八についてて気づいたら第八出てました」


「あー…そうね、普通何日かはかかるはずよね」

サラはすこし俯いて、カクテルを口に含んだ


「あ?あんたら昨日の今日で第八攻略したのか!?最奥まで?」


その事実を改めて口にされると複雑な気持ちになる

「おれさ、何も出来ないんだよ、回復も魔法も、剣振るだけ、荷物運ぶだけ」


机に叩きつけるような音が響く。二杯目を空にしていた

 「私の回復って……ヒイロさん、何回見ました?」

 ヒイロが少しだけ顔を上げる。

 「……忘れるわけない……アバラと腕、折ったときの、二回」

 「そう、二回ですよ!?」

ノアは少し涙目で怒鳴った。

 「普通、冒険してたらもっと使い倒すでしょうよ、こんな便利な力!僧侶の名折れ!あーーーーーーー!」

サラも黙っていられなかった。

グラスを揺らしながら、口を開く。

 「私だってねぇ……ド派手に攻撃魔法ぶっ放したいのよ。氷漬けにしてカット、氷漬けにしてカットって……」

 「……経験値効率……?」

 「何なんだよそれ! こっちは魔法の演出も考えてきてんのにさぁ……もう、演出とか派手さとかゼロ!」

しばし、酒場に沈黙が流れた。

 「……でも」

ノアがぽつりと呟いた。

 「……あの人がいなきゃ、こうやってゆっくりお酒も飲めないですよね」

 「うん……ここまで無傷で来れてない、確実に」

 ヒイロが、顔を両手で覆いながら、低く笑う。

 「……嫉妬……だよな。あいつ、俺たちが得意なことを何も持ってないって、ずっと言ってんのに……俺たちより上手く旅してんだよ」

 「うん……そう、悔しいんだよね。すごすぎてさ」

「『僕は戦う才能はないから、できることをやるよ』って何回聞いた?嫌味?違うそんなんじゃない、アイツは本心からそう思ってる、わかる、こっち来てずっと一緒だったから、アイツそれ以外の才能は全部あるって」 

ノアが、ふと前を見て言う。

 「……ヒイロさん。修行しましょうよ、あの人いないうちに。びっくりさせてやりましょ」

 「……いや、でも……シオリいたほうが効率いいわよ」

ヒイロが両手を突き上げて叫ぶ。

 「うわあああああああああああああ!!」

誰も悪くないがゆえに、やり場のない思いが酒場に響いた









明日にはこの街を発とうかと、シオリは荷物の整理を終え、次の街までの最短ルートを地図の上で確かめていた

物資は潤沢

馬車のガタツキをいじってみる

ヒイロの剣を磨き、二人の杖を掃除する

――あとは、モンスター発見された地点を確認して、避けるルートを――

 

「なあ、シオリ」


ふいに、ヒイロが声をかけてきた。やけに真剣な表情だった。


「……お前、休めよ。俺たちは、大丈夫だから。」


一瞬、時間が止まった。


「…………え?」


シオリは、乾いた笑みを浮かべた。

心の奥に、冷たいものが広がっていくのを感じながら、彼は小さくうなずいた。


「……分かりました。ご期待に添えず、申し訳ありません。」


その日の夜、三人が宿に戻ると、部屋には一枚の紙が残されていた。




『お暇を頂戴します。至らぬ点も多かったとは思いますが、少しでも力になれていたのなら幸いです。短い間でしたが、お世話になりました。』




紙を握りしめ、ノアが叫ぶ。

 

「だから言ったじゃないですか!もっとちゃんと説明すべきだって!」

「いや、俺とアイツだし……伝わるかなってさ!」


ヒイロの声も荒ぶ。焦りと悔しさが入り混じっていた。

 

「そんなわけないでしょ!あの人、いつも『戦う才能はない』って自分を押し込めてたんですよ!? あんなふうに言ったら、“もう必要ない”って受け取るに決まってるでしょう!?」


ヒイロは走り出した。サラとノアもその後に続く。

夜の街を抜け、草原の道を駆ける。

 ――まだ、遠くには行っていないはずだ。


「シオリーッ!!」


ヒイロの叫びが、月夜に響く。


「お前、必要だから! この旅がここまで無傷だったのは、全部お前の戦略のおかげだし!」

「レベルだって! お前が狩場を効率化してくれたから、俺なんて紫になったんだぞ!」

 「ていうか、レベルがグラデーションから数値に変わるって何!? “視認性が悪いから”って、カラーコードで数値割り当てるやつ人間かよ!!」

 

その声は、まるで怒鳴りながら泣いているようだった。

 

「交渉も、調査も、装備の修理も! 俺たち、剣振ってるだけで魔王倒せそうなんだよ!」

 「ありがとう! 本当にありがとう! お前のおかげで、戦いに専念できる!」

 

声が枯れるほど叫ぶ。

 

「……俺が説明足りなかった! ごめん!」

 

風が止まり、微かに揺れる影。

ヒイロは息を切らしながら、その背に向かって言った。

 

「……俺、クビじゃないのか?」


ゆっくりと、シオリが振り返る。

月光の下、その目に涙はなかった。ただ、どこか、少しだけ――ほっとしたような、呆れたような顔をして。

 

「抜けるって言われたら……こっちが泣いて止めるよ!」

 

ヒイロの言葉に、沈黙のあと――ふっ、とシオリが笑った。

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