第8話 兄の帰還と新たな決意

俺が四歳になった頃のことだ。朝の訓練を終え、汗をぬぐっていると、村の門の方から人だかりができているのが見えた。

胸が高鳴る。

あの背の高い影は……。


「……ノーツ兄ちゃん!」

駆け寄る俺を見て、兄ノーツはいつもの笑顔を浮かべたが、どこか元気がない。

剣術学校でさらに鍛えられたその身は、姿勢も所作も見違えるほど洗練され、剣士としての風格がにじみ出ている。

けれどその瞳の奥に、かすかな翳りが見えた。

「兄ちゃん、どうしたの?」

俺が問いかけると、兄はふっと笑ってから俺を抱きしめた。

「アルゴ……早く来てくれよ~……!」

その声は少し泣きそうで、俺の肩口に顔を埋めて震えている。

「学校で、俺……強すぎて、相手がいないんだ。みんな本気でかかってこない……」

大きくなった兄の体温が、胸にじんわり伝わってくる。

あの元気いっぱいだったノーツが、こんな弱音を吐くなんて……。


久しぶりに再会した兄は、剣術も礼儀作法も完璧に磨き上げられ、すっかり一人前の戦士になっていた。

だが、戦う相手がいないのでは、強さを試すこともできない。

そのことが、彼をどれほど苦しめているかが伝わってきて、俺は胸が締めつけられた。


「俺、もっと強くなって、兄ちゃんと戦えるようになるよ!」

そう言うと、ノーツは涙を拭って「頼んだぞ」と笑ってくれた。

その笑顔は、いつも通り優しくて、そしてほんの少し過保護で……俺はその腕の中で小さく頷いた。


さて、その頃の俺はというと、能力開発に頭を悩ませていた。

剣の技や魔法の基礎はすでに十分身についている。

だが、ゲーム開始時に使えるはずの「危険予知」と「能力転写」は、いまだ発現しないままだった。

(ゲームでは……兄がドラゴンに殺されて、その時に発現したんだよな。ってことは……フックは命の危機?)

考えるたびに、心の奥に冷たいものが広がる。

命の危険がなければ能力は開かれないのかもしれない。

でも、そんな状況を作るなんて――。


俺は悩んだ。

このまま技術を磨き続けるか、それとも本当に命の危険のある場所を目指すか。

ふと横を見ると、兄が優しい瞳でこちらを見ていた。

あの少し過保護な兄が、もし俺が無謀なことをしたら、どんな顔をするだろう。

胸の奥でため息をつき、俺は小さく笑った。

(……しょうがないね。)

そうだ、焦ることはない。

いつかその時が来る。

その時まで俺は、最終盤の技だって練習しておく。

未来を変えるために。


魔法使いの老女と傭兵のおじさんは、俺の提案に目を丸くしたが、すぐに笑って頷いた。

「いいでしょう。やれるものならやってごらん。」

「俺たちがついてる。どこまででも鍛えてやるさ。」

 その日から、俺は再び苛烈な訓練へ身を投じた。

兄の優しい声が、耳の奥で何度も響く。

(待っててね、兄ちゃん。次に会うときは、俺もきっと――)


剣を握る手に力がこもる。夕暮れの空を見上げ、俺は胸の奥に新たな誓いを刻んだ。

俺はまだ四歳だ。

だが、この世界で生きる限り、止まるわけにはいかないのだ。

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