第七章 モンテルの過去と真相


マグリットはベルギーに帰国した。



鳥取の旅で得た果実の手応え、北脇との対話、そして何より自分の内側で起きた変化は、彼にとって絵画以上に“現実”だった。



彼はかつてモンテルと語り合ったカフェを訪ねた。



しかし、そこにモンテルの姿はなかった。



「彼なら、しばらく見ていませんよ」



店主はそう言って、少し首をかしげた。



落胆しつつも街を歩くマグリットの目に、ある新聞の見出しが飛び込んできた。



「モンテル、裏の組織に関与 若返り細胞の研究が国家の監視下に」



目を疑った。あの飄々とした男が――?



記事によれば、モンテルは国家から起訴され、「果実の熟成を逆行させる細胞」の研究を通じて、記憶や味覚を操る可能性がある技術を開発していたという。



果実を未熟に戻す技術、それは保存のために用いられるはずだった。



しかし、一部の組織がその技術を人間の「記憶の操作」に転用しようとしていた。



マグリットは、自分が市場で手に入れた青リンゴが、モンテルの研究の副産物だった可能性に思い至る。



「もしあの果実が……加工されていたのだとしたら……」



彼の哲学「認識が実体を作る」は、単なる夢想ではなく、現実に起きうる科学現象だったのかもしれない。



その晩、マグリットは枕元に果実を置いて、眠れない夜を過ごした。



翌朝、彼のもとに一通の封筒が届いた。



差出人は、モンテルだった。





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