どぶ川に潜る

かどみなかずき

『どぶ川に潜る』

三十年手入れがなされず、大きく深くのびのび育ったどぶ川があります。悪臭が鼻を突き破るようです。あまりにも濁り、水と呼んでもいいのか分からないほどぬるぬるしています。手を入れてみると、そこは冬のようなやさしさが欠片もない、魂から底冷えさせる世界でした。手に足に顔にふれる粘液質が、話しかける気はないけどそそぐ視線のようで、どこまでもまとわりつき、わたしからふれようとするとしかとするようににげていきます。水面からすこし伸び上がり、空気を心臓でかためるように吸い込んで、一気に潜ります。下品な好奇心を裂いて進むように底を目指します。からだが破裂しそうになるぎりぎりまで進みます。ミルクティー色しか見えない世界を、ひたすら見つめながらです。前方をかいている手になにかがあたることを願いながらです。見つけ出すためにくりかえしくりかえし潜っているのです。見つけ出すために。“なにを”見つけ出したいのか今はまだ言えません。姿形が何ひとつ分かっていないからです。それをしっかりと握ってそれのひかりを見たときに、浮かんでくる名前をとても楽しみにしています。

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