第12話 ラプンツェルの種の話

 2年C組で、トミー・ユキ永の「ぱせり姫の物語」を読まなかった生徒はいなかったと思う。

 学級委員としてうるさいことを言えば、中学校に漫画コミックスやアニメ雑誌などの持ち込みは禁止されていた。でも大学ノートに描いたオリジナルストーリーを、校門で検閲したところで没収は無理だ。あの頃はやってないが学年主任で進路指導の鬼・俵先生は火曜ごとに張り付いて、少年ジャ●プを20冊くらい没収したことがあると朝礼で威張っていた。


 黒い魔法によって「あらゆる武力、投石もいっさい通用しない」法則で防御された塔から姫を脱出させるため、王子は知恵と工夫と、動物たちとも意志疎通できる能力を駆使する。

 最初は姫に意志を伝えることさえ出来ない。レターを結んだ矢を窓辺に放つと金属の鏃がへし曲げられ、逆に射手に向かってきて逃げまわることになったり、イケメンに描かれていたがキャラはコミカルだった。

 グリムの原作にはエロティックなところがあるし、14歳中2と言えば性的なことに興味の芽生える年頃。なのに女性に暴力的に想いを押し付けない(押し付けられない)王子のキャラは、むしろ女子から支持された。かぐや姫の物語の無理難題に似ていたかな? 私は天然でぽやんとしたぱせり姫派だったが、しゅっとした美形なのにバタバタとコミカルな動きの多い王子派の女子も多かった。


 永竹アキエも王子派だった。

 遠縁の……うちのおじいちゃんの弟が婿入りした大きな種屋さんの子。草花の種や苗や、盆栽などを広い敷地に置いて商売していたお家の。裏番の噂があってピアス穴をバンソウコウで隠しているアキエは大きなお家のだった。授業中は大人しくしているが、休み時間になると男子と馴れ馴れしく話しをしだすけど。。

 アキエは王子のキャラが大好きで、漫画作者のトミー……富田くんが一年生でノートの漫画を同級生に見せだした初めの頃からのファンだった。


「漫画を描く才能」をアキエからはじめて聞かされた、会話の中で。

 国語も英語も美術も音楽でも目立ってないアキエの口から「才能」という言葉が軽やかに飛び出したので、私はびっくりした。

 休み時間に軽く言えるものじゃない、私には絶対言えない。

 自分にないものだから、工藤くんの勉強の才やピアノの才能、富田くんの美術とストーリー漫画の才能。

 それがきっとアキエにもあった、クラスの浮いた男子としゃべれて、進路指導の先生にはっきり「高校進学しない、美容師の専門学校に行くから」と言う自我の強さ。クラスの誰と比べてもくっきりしていたというもの。

 私にそれはなかった。形も色も……ぼんやりして感じる、小菜田せりとそんなにちがわないと思っていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る