第24話「金子ススム・四万十川」

「ウルトラマラソン?」

「四万十川ウルトラマラソンって言うのは、10月中下旬に開催されるマラソン大会で、日本陸上競技連盟公認なんだよ。60kmと100kmのマラソンがあって、朝にスタートして14時間以内にゴールできれば完走なんだ。それで、いまから練習してるんだよ」


 四万十川に近い民宿で足心官道をしていると、50代くらいの男性からウルトラマラソンのことを初めて聞いた。

 タケゾウは四万十川の事も知らなかった。


 🙏🙏🙏


 翌朝、タケゾウが出かけると、昨日会った男性が声をかけてきた。

「お兄ちゃん、四万十川にいくなら乗せて行くけど、どうだい?」


 タケゾウは、別に歩いて参拝する事にこだわっているわけではない。四万十川にも興味が湧いてきたので、一緒に車で行くことにした。

 男性の名前は金子ススム。48歳だった。


「金子さんもウルトラマラソンを走るんですか?」

「うん、走るよ。去年、初めて参加したんだけど80kmでリタイアしたんだ。今年は完走を目指している」


「100kmを走るなんて、完走出来る人はどのくらいいるんですか?」

「う〜ん、たしか、半分くらいは完走するみたいだよ。本気で走る人がほとんどだね」


「走ることで何か変わるんですか?」


「ランナーズ・ハイって知ってる?」


「いや、なんですかそれ?」

「走っていると脳内物質が出てハイになるんだ。脳内麻薬みたいだけど、脳が出すんだから合法だよ。ハッハッハ!」

「気持ちが良くなるんですか?」

「そう。苦しい、痛い、でも走れるようなら走り続けると、ある時点で痛みが無くなり多幸感が頭にあふれ、自分の体の感覚も無くなるんだ。わかるかな? わからないだろうな〜 お大師様もこうおっしゃっている『知識ではなく、自分の中に仏があると気づく体験をするためには、まずゼロ(空)の状態になる必要があります』ってね」


「お大師様が空ですか……お前は、頭の中が空っぽだと母親に言われましたけどね……」


「ハハハハハハ、息子に気を使わない、いいお母さんだね。どう言ったらいいのかな? 密教では座禅や過酷な修行をして神様や仏様に近づくんじゃないかな? 我々一般人は修行のやり方もわからないから、ひたすら走ることで我執がとれて神様や仏様の宇宙意識に近づく気がするんだ」


「宇宙意識ですか……気持ちが変わるんですか?」

「自分の小さな考えを超えて、仏様の声を聞くような感じなのかな? ボクは小さな出版社を経営してるんだけど、今年に何か閃きがないと、来年は倒産だからね。ハッハッハハッハッハ」


「それは大変ですね」


「大変、大変! 経営が悪化して社員の給料が払えなくなり、銀行に借金したんだけど、それから、パニック障害になって、人と会うのが怖くなるし、電車に乗ると呼吸が苦しくて、仕事もできなくなったよ。借金っていうのは、精神の負担が大きいんだね」

「借金ですか……」


「心療内科や精神科にも行って薬も飲んだけど、なかなかよくならなくて、とりあえず歩いてみた」

「お遍路ですか?」

「いや、高知はお寺とお寺の距離が長いから、お遍路ではなく、ただ歩いたんだ」

「すると良くなったんですか?」


「車で誰も知らない所まで行って、ただ歩いて帰るんだ。四万十川で手長エビを取ったりして。そしたら、少し気分が良くなって、少し走るようになったら、ウルトラマラソンのことを知って去年は参加したんだ」

「皆んな、そんな感じで走るんですかね?」


「さあ〜、人のことは知らないけど、100kmを走ろうっていうのは、半端な気持ちではないと思うよ」


 🙏🙏🙏


 車は有名な沈下橋ちんかばしに着いた。

 沈下橋は車での走行は控えるよう看板に書かれている。二人は車から降りて沈下橋を渡る。

 

「四万十川は196kmもある四国最長の大河だけど、台風が頻繁にくる土地柄で、昔から洪水の被害が多く、こういう欄干の無い橋になったらしい。台風に逆らうのではなく、洪水になったら橋が沈むようになっているんだ。まるで、お大師様の教えみたいだろう?」


 タケゾウは、「うん、うん」と頷きながら、杖を突いて沈下橋を歩いた。

「お兄ちゃん、杖を突いて橋を渡るとお大師様に嫌われるよ」

「えっ、どうしてですか!?」


「別に杖を突いても誰かに咎められるわけではないけど、お遍路をする人は橋の上で杖を突くことはしないんだ」

「本当なんですか?」

「お大師様は修行しているころ、泊まる場所が見つからず、川に架かる橋の下で野宿したことがあり、今も四国で修行しておられると信じられているので、橋の下で眠っておられたら眠りの邪魔になるので、お遍路さんは、橋の上では金剛杖を突かないという風習があるんだ」


「なるほど、民宿でも、夜中に足音を立ててトイレに行く人は、目が覚めて嫌ですもんね……」



 金子氏は前日から四万十川に仕掛けていたエビ取りの罠を回収して、車に積んであるキャンプ用品で手長エビを油で揚げてくれた。



 📜📜📜神仙道ワンポイント。 

 マラソンをすると、人によっては走る振動で血液中の赤血球が壊れて貧血になる人もいるそうです。

 まぶたの下を広げ、鏡を見ながらあっかんべー😜で粘膜が白っぽかったら貧血かもしれません。


 マラソン意外でも体を振動させるサッカー、バスケットや、足を強く打ち込む剣道、空手などでもやり過ぎると赤血球が壊れる人はいるそうです。

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