第15話「黄金バット」

 タケゾウが海岸の道を歩いていると、後から軽トラックがゆっくりと近づいてきた。

 タケゾウを追い抜くと足を止めるように止まった。

 一瞬、襲われるのかと身構えた。


「あ〜っ、怪しいものじゃない。中岡シンイチの弟でシンジと言います」

「昨夜泊めてもらった中岡さんの……」


「やっぱりそうだ。あ〜っ、これか。神仙道、達筆だね」

 軽トラックの男はタケゾウのバッグに掲げている神仙道の旗を見ている。


「アニキは、あ〜見えて書道が上手くて、書道教室を開いていた時期もあるんだ。大きな賞ももらっているんだが、あんたの書いてある旗を見て震えたって言うんだ」


「これは俺が書いたものじゃないですよ」


「わしは書道は素人だからわからんけど、アニキから神仙道が現れたって電話で聞いて、急いで探しにきたんだ」

「俺をですか?」

「そう、あんただ。黄○バットと同じ神仙道なんだろう?」


「黄○バットは知らないんですけど、中岡さんも言ってましたね」

「黄○バットはあだ名だ。頭がツルツルで金歯があるんだ。足が悪くて杖を付いていて『ハハハハハハ』とかん高く笑うので、このへんのものは黄○バットと呼んでいる。本名は、大鷹さんだ。もう5〜6年前に亡くなったんだよ」


(やはり、大鷹仙人か……)


「実はな、わしの孫が、もう2ヶ月寝たきりなんだ。バイクで転倒して首の骨が折れたんだ」

「それは病院でしょう……」

「手術はしたんだ。医者は成功したと言ったんだが意識が戻らない。それで、あんたの技で意識を戻してくれんか?」


「俺の技で? 俺にはそんな凄い技は知りませんよ……」

「アニキは蘇ったと言ってた。それに、神仙道だろ! その字を見ればわしでも本物だとわかる。頼む、とにかく孫を見てくれ!!」

 軽トラックの男はタケゾウに真剣に頼むものだから、見るだけならと、ついつい断われなくて一緒に病院にいくことになった。


 🙏🙏🙏


 病院に行く途中、昼めしに、魚が旨いと言う店に連れて行ってくれた。

 名物だと言う、カツオのタタキとウツボの唐揚げが出てきた。

 バッグの中でシャム猫のテトラがバタバタしている。


「わしは30年ほど前に脳卒中で左半身がうごかなくなったんだ。病院でリハビリをしたが、やっと歩ける程度だった。知り合いが何でも治す大鷹さんのことを教えてくれたんで行ってみたんだ」

「脳卒中ですか」

「左半身がフラフラで感覚がないんだ。左手も使い物にならなかった。大鷹さんに見てもらったら、2年くらいが勝負だって言うんだ」


「2年ですか?」

「2年やってダメだったらダメだろうって言うから、どうせ仕事もできないから必死に教わったよ」

「やっぱり料金は10万円ですか?」


「いや、金はいらないって……大鷹さんが金を取らないってことは治らないかもしれないって事なんだ。それでも、溺れる者は藁をも掴むってやつで、毎週通ったよ」


「大鷹仙人は施術してくれたんですか?」

「いや、大鷹さんは、『合気の術』というのを使うんだ、『野球で言えばバットの素振りを教えるようなもので、本人がヒットを打てるようになるかどうかは本人しだいだ』って言ってたよ」


「なるほど」


「大鷹さんは、病気治しの腕は良いが、口が悪いんだ。毎週一回、病人を集めて行法を教えるんだが、綺麗な女の人には丁寧で手取り足取りなんだが、わしら中年おやじには雑だったな〜。わしらは、大鷹さんをスケベジジイとか黄○バットと呼んでいた。行法に集まっていたのは、脳卒中や目玉の飛び出たのや末期がんがいたな。完全には治らないんだが、日常生活は出来るようになる人は多かった」


「それは凄いですね!」


「ああ、そうだよな。わしも仕事に戻れるようになったから感謝しなくちゃいけないんだが、どうにも性格が破綻していてアル中なんだ、酒呑みながら教えるし、教えながら寝るし、オレは薬師如来様の使いだとか神仙道を授けられたとかよく言ってたけど、法螺ばかり吹くから、話のどこまでが本当なのかわからなかったよ」


 🙏🙏🙏


 病院に着いた。

「これが孫のシンタロウです。脳死ではないので、意識が戻ってもおかしくないらしいが、戻らないんだ」

 タケゾウは般若の目を使う。

(シンタロウの体に黒い影が張り付いている。これは死神か?)

 タケゾウは死神のテトラを見る。

(あの黒いのは死神なのか?)

(ノーコメント。わしは何も言えない)

 シャム猫はバッグの中に入ってしまった。


「とりあえず、足をもんでみます」

 シンタロウの祖父は心配そうにしているので、一応、足をもんでみるが、黒い影はガッチリと寝ているシンタロウを捕まえている。

 内心、これは死神だと思った。巣に架かった獲物を捕まえた蜘蛛のようで、ここまで捕まっていれば、俺にできることは無いだろうと思っていた。


 足裏の首と頭の反射区に反応があるんだけど……あの影が押さえているから無理だろうな。


「どうですか?」

 心配そうに聞く祖父。

「足に反応はあるんですが、効かないみたいですね」

「そうですか……この子、小学生の時にアニキの家で書道習ってたんですよ。弘法大師の書をお手本にしていて、学校で賞をもらうことが多かったんです。できれば、その旗を見せてやってもいいですか?」


「ああ、これ。どうぞ」

 タケゾウはTシャツを縛っている紐をほどいて老人に渡した。


 老人は孫の顔の前にTシャツを見せた。

「お前の好きな弘法大師の字に似てるだろ?」

 老人は手を滑らせ、Tシャツを孫の顔に落とした。

 すると黒い影が孫から離れた。


 タケゾウは、直感的に、これはチャンスだと思い、すぐさま足裏の首と頭の反射区を押した。

 すると孫の首が動いた。

 まさかと思い、老人はTシャツを取ってみると、孫の目が開いていた。


「大日如来様……」

 孫が目を見開いている。


「シンタロウ、意識があるか?」

 祖父がたずねるとシンタロウの体が動いた。

「大日如来様が光って体を押さえてる者がいなくなった」

 祖父は何のことかわからないが、とにかく孫の意識が戻り喜んだ。


 🙏🙏🙏


 黒い影がシャム猫の死神に近づくとシャム猫がこう言った。

「残念だったな、あきらめろ。あの男は弘法大師様に気に入られたんだ」

「あの光は弘法大師様ですか、ビックリして離れてしまった。もう1〜2日で持っていけたのに。あなたは死神ですか? 私らより位の上のような気がしますが?」


「わしは薬師如来様の直属の死神だ」

「なるほど、ひょっとして十二神……いや、出過ぎたことで……私は失礼します」

 黒い影は消えて行った。



 📜📜📜神仙道ワンポイント。

 内陸で暮らすタケゾウは、魚介類はあまり食べません。いぜん血生臭いカツオを食べたことがあり、ちゅうちょしているタケゾウを見て、シャム猫のテトラはカツオのタタキを喜んで全部食べた。

 テトラにカツオのタタキを食べられたのでウツボの唐揚げはタケゾウが全部食べた。

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