第6話「ハンドグリップ・白系」

 井戸寺からガイド本に載っている老舗ラーメン屋を目指すタケゾウ。

 背中のバッグの上にシャム猫が乗っかっている。


「なあ、死神、引導いんどうってのは何なんだ?」

 タケゾウの質問にシャム猫が答える。

「引導は死の宣告だ。または死ののろいだな。お前は結願までに答えを見つけなければ死ぬ。神仙道になっても天道に恥じる行ないをすれば死ぬ」


「やはり、あれは本当の話なんだな。しかし、神仙道って、俺は何も知らないぞ、これからどうすればいいんだ?」

「そうだな〜昔の兵法者みたいに背中に旗を立てて歩いたら、興味の有る人が寄って来るんじゃないか?」

「背中に旗か、カッコ悪いな……」


 🙏🙏🙏


 歩いて小松島の有名な老舗ラーメン屋にやってきた。

 タケゾウのバッグには段ボールで作った旗のような物にマジックで黒く『神仙道』と書かれていた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 ラーメン屋の前で杖をついた老人に声をかけられた。

「これ、神仙道やってるの?」

 老人はタケゾウの書いた段ボールの神仙道の旗を杖でコンコンと叩いた。

「あっ、これはなんでもないんです……」


「そうなのか、大鷹おおたか仙人の関係者じゃないのか?」

「大鷹仙人?」

 タケゾウは初めて聞く名前だった。


「まあいいや。お兄ちゃん、この店に入るのかい?」

 タケゾウは頷く。

「お遍路さんだろ。お接待するから、一緒に食べよう!」

 老人に誘われ店に入った。


 🙏🙏🙏


「たしか、神仙道だったな、高知県に有名な仙人がいて、わしも昔、教えてもらったんだ。当時のわしは体調が悪く不安感が強かったんだ。何件か病院に行って血圧とかの薬をもらったけど、とくに異常は無いって言われたんだ。しかし、体は重いし寝つけないんだ。お寺で厄払いをしてもらったが、効かなくて、友達から大鷹仙人のことを聞いて、わらにもすがる思いで高知県まで行ったんだよ」


「仙人って、本物の仙人なんですか?」


「本物かどうかは知らないが、自称仙人だ。病気治しが得意らしく、小さい爺さんだった」

「爺さん?」

「わしが合ったのは20年くらい前だった。もう亡くなったらしいけどな」

「あっ、亡くなったんですか……」


「酒とタバコと女が好きな人でな、病気の相談でいくと10万円もかかるんだぜ!」

「10万円! 相談だけで?」

「そう。直接会って話すだけで10万円だ。ただ、治らない相手からは金は取らないし、金の無い人には逆に金をやるんだ」

「金をくれる?」


「お遍路さんは、巡拝中に金の無くなる人はいっぱいいて、大鷹仙人の所にいくと問いを出され、それに答えられると金がもらえたんだ」


(問いを出され、答えられたら? まるで薬師如来様みたいだ……)


「変わった人だったが、腕がいいんだ。しかも、よくわからんやり方で病気を治すらしい」


「よくわからんとは、薬草とか祈祷ですか?」


「いや、そういうのもあるみたいだが、わしは、ほら、これだよ」

 老人はポケットからプラスチックでできたトゲのついたオレンジ色のハンドグリップを出した。


「これと、プラスチックの青竹踏みをもらってな、あと、手の指と足の指の揉み方を習った」

「青竹踏みですか?」

「家に帰って、カミさんに話たら、騙されたんだよって、そんな物、100円ショップで売ってるもんじゃないかって言うんだ。オレもそうかと思って、庭にハンドグリップを捨てたんだ」


「このハンドクリップと青竹踏みで10万円ですか……」


「そうなんだよ。でも、寝る時に教えられた手の指のもみ方をしていたら寝てしまったんだ。もしかしてと思って、次の日に庭に捨てたハンドグリップを探して使ったんだ。青竹踏みも使った」

「変化はあったんですか?」


「寝付きがよくなった」


「効果があったんですね」

「わしは末端の血液がうっ血してるから、全体の流れが良くないって大鷹仙人は言っていた。その時は言われている意味がわからなかったんだ。四つ足動物は心臓に血液を戻すのに手足を動かすなんて言われてもな」

「それは、なんか聞いたことありますよ」


「不思議な事に、ハンドグリップと青竹踏みを使うと体調がいいし不安な気持ちも無くなったんだ。手の指と足の指ももんでいるし、毎日使っているよ。オレの御守りだなハッハッハ……」


 🙏🙏🙏


 ラーメンが来た。

 白いスープの白系徳島ラーメンと言われる物で豚骨と鶏ガラを乳白色に白濁させたスープである。


 南無大師遍照金剛、南無大師遍照金剛、南無大師遍照金剛と三度唱えてラーメンを頂くタケゾウ。『中華そば 生玉子入り 肉大 ライス大』である。

「もっとくどいのかと思ったけど、マイルドな味ですね」

「わかるか!? この店は老舗でわしは子供の時から食べているんだ。昔は、大阪南港と小松島を結ぶフェリーがあって、この辺は人で溢れていた」


「豚骨スープというのは珍しいのでは?」


「それは、この近くにハムの工場があって、昔は豚骨が大量に安く手に入ったようだ。今はハムの工場からは買えないらしいがな。徳島のラーメンは茶系、黄系、白系とあるが、昔のなごりで豚骨が使われることが多いようだ」

「なるほど、そういう事情があるんですね」



 📜📜📜神仙道ワンポイント。

 徳島県には茶色・黄系・白系と言われるラーメンがあります。

 茶系は、豚骨スープと鶏ガラに茶色い醤油ダレ、甘辛く煮た豚バラ肉と生卵と白いごはんで食べるスタイルである。

 黄系と言われるのは、豚骨と野菜、鶏ガラで透明感のある鶏の脂の黄色い黄金色のスープである。

 白系と言われるのは、豚骨を乳白色に白濁したスープと鶏ガラを合わせた白っぽいスープのラーメンである。


 心臓と肺は一体の臓器です。

 飛行機で言えばエンジンと燃料を送るポンプのようなものです。エンジンが停止すれば落下です。

 心臓も血液を欲しがります。第2の心臓と言われるふくらはぎを動かすため、足首を動かす運動、さらに第3の心臓、握力で心臓に血液をまわせば心肺機能は安定し、心配事も減るでしょう。

 簡単にできる導引、ハンドグリップでの握力強化でした。

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