第7話 兄、妹を守るため異能バトルに参加


 やべえ、妹に無量空●してしまった!

 なんてことを……やっちまったんだ俺は。兄貴として、最低すぎる……。


「お兄ちゃん、そんなに凹まないで……わたしもう大丈夫だから」

「でもな、咲耶さくや。俺は兄貴なんだぞ。妹を傷つけるなんて……兄貴失格だよ」


 咲耶さくやは小さく首を振り、微笑んだ。


「兄貴失格なんかじゃないよ。助けてくれたし、怪我も治してくれたし」

「……咲耶さくやぁ……」


 思わず妹を抱き寄せる。


『ぎゃー! おねえさまから離れろですのぉ……!』


 帰蝶がひらひらと飛び回る。


「なんじゃおぬし、使い魔のくせに物理干渉できんのか?」


 人間姿の魔王がそう言う。ちなみに今、俺のTシャツを着ている(ぴっちぴち)。


『式神は物理干渉できないんですの!』

「ふぅむ、使えぬのぉ」

『物理干渉できる使い魔がおかしいんですの!』

「我がすごいということか。えっへん!」


 やめて魔王、シャツがパーンしそう。


『てゆーかいつまでおねえさまを抱きしめてますの!』

「おっと、悪い咲耶さくや


 俺はそっと離れる。


「あ……」


 咲耶さくやが、少しだけ残念そうな顔をする。


『おねえさま!? 顔が赤いですわよ!?』

「き、気のせいよ……こほん。それで、お兄ちゃん。これからどうするの?」


「これからって?」

「異世界帰りの元勇者だってわかった。で、これからどうするの?」


 どうするって言われても……。


「平穏な日々を送りたいな。勇者の大仕事は終わったし、しばらくのんびり暮らすつもりだ」


「……無理よ。お兄ちゃん、妖術総監部に目をつけられたから」

「よ、妖術……そうかんぶ?」


「妖術界のトップ。わたしたち妖術師をまとめてる政府の組織よ」

「妖術師って……つまり異能力者みたいな?」

「そう。ただ妖魔を討伐できるのは妖刀使いだけ。だから私たちはエリート扱い」


 なるほど……妖刀使い=選ばれたエリート異能力者ってことか。


「わたしの張った封絶界の中には、ほかの妖術師もいたの」

「つまり……俺と妖魔の戦闘を見られてた?」

「うん。お兄ちゃんが妖魔と、そして……わたしと戦ってるところを」


 だから、総監部は俺を認識したはず、と。


「それは問題ないじゃろ」


 と魔王。


「どうしてだ?」

「勇者とサクヤ以外は気を失っておった。あの雑魚妖魔とやらの気に当てられての」


『おねえさまが戦っていたのは雑魚妖魔じゃあないですわ! 視認できないほど高位の妖魔ですわ!』


「妖魔って位が高いと見えなくなるのか?」

「そう。ほら、音も周波数が高すぎると聞こえないでしょ?」


「ああ……だから帰蝶に敵の位置を教えてもらって戦ってたのか」

「そう。でも実際に見えてないし、動くから当てづらくてね」


 我が妹が単なるやばい厨二病患者じゃなくて一安心だぜ……。


「じゃあ他の妖術師に見られてないなら俺は大丈夫ってことか」

「それに、おぬしを捕まえられるやつなどおらんじゃろう?」


 魔王が続ける。


「どういう意味だ?」

「サクヤは妖刀使いで、総監部からの信頼も厚いエリート。そんな相手を軽くひねるおぬしを捕まえられる者などおらん」


『そ、それは……お、おねえさまだって本気出してなかったし!』


「本気なんてあるのか?」

「……あるけど。あんまり使いたくない」


 その声音には、少し影があった。


「何はともあれ、勇者は自由にすればいい。もし捕まえにくるなら軽くあしらって【記憶消去メモリー・デリート】でもすればよい」


 そっか……気にしなくていいわけか。

 でも――。


「…………」

「な、なに……お兄ちゃん……じっと見ないで……」


『おねえさま!? まさか……この男のこと……』

「ち、違うわよ!? 変なこと言わないで帰蝶!」


 咲耶さくやが帰蝶を握りしめる。


咲耶さくや……いつからこんな危ないことしてたんだ?」

「……そんなに前じゃあないよ」


 具体的な数字は言わない。言いたくないんだろう。


「……ごめんな。おまえがつらい思いしてたのに、兄ちゃんはのうのうと生きてて」


「気にしないで。非術師――妖術を使えない一般人を守るのが、私たちの使命だから」


 無理やり笑っているように見えた。


「……なあ、咲耶さくや。もう戦うのやめないか?」

『何をふざけたこと言ってるですのこの馬鹿兄貴はっ!』


 帰蝶が声を荒らげる。


「ふざけてない。俺は嫌なんだよ。大事な妹が傷つくのを黙って見てるなんて」


「だ、だいじ……」


 咲耶さくやが顔を真っ赤にする。


『おねえさま!? チョロすぎませんこと!?』

「な、何のことかわからないわっ!」


 こほんと咲耶が咳払いしていう。


「……やめられないよ。妖刀と契約しちゃったし」

「妖刀と契約……?」

「契約は……死ぬまで破棄されないの」


 ――だから、戦いをやめられないのか。


「じゃあ……兄ちゃんが手伝うよ。おまえが怪我しないように、一緒に戦う」

「お兄ちゃんが……?」

「おう。家族を守るのは当然だろ」


「か、かか……」

『おねえさま!? だからチョロいですわって!』


 咲耶さくやはこほんと咳払いした。


「ありがたいけど……大丈夫。一人でやれる」

「嘘つけ。あんな雑魚に手こずってたじゃん」

「だからあれは雑魚じゃないってば! とにかく、お兄ちゃんは危ないから関わらないで!」


 そう言って俺の背中を押す。


「いいから! おやすみ!」


 俺と魔王は部屋の外に追い出された。


「どうするのじゃ? 関わらないのか?」

「まさか」

「じゃろうな」


 妹はそう言うが、ほっとけるわけがない。

 勝手に、妖魔から妹を守るとしよう。

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