この世界から姿を消したいと思うような日常の中にでも花が咲くような事があれば私は救われるのかな。

玉井冨治

第1話

うっかり偏差値の低い高校に進学してしまった。

一年前の私の高校の選び方は迂闊そのものである。

誰に何を言われようと、どんな慰めの言葉を貰おうと、この選択をしたのは私なのだから悪いのは私である。


朝起きて、(ああ、今日も学校があるのか)と少し嫌な気持ちになる。

友達などいない。

他の生徒との雰囲気が合わないのである。

元々いた環境が違いすぎるような、同じ日本で同じ土地で育った人達だとは思えないような。

そんなおかしな感覚が今もまだずっとある。

学校に行くのが嫌だから朝起きたらゆっくりと支度をする。

だが遅刻は何としてもしたくないので、ギリギリのラインで出発できるように準備はしてある。

朝ごはんは毎日決まって納豆と生卵をかけた白米に、きゅうりやなすのお漬物、それから母が作ってくれる味噌汁の組み合わせである。

早く食べてしまっても勿体ない(と言い聞かせているが、早く出発することになるだけなのが嫌だと言うのが本心なのだ)ので、ぼそぼそとゆっくり口を動かして食べる。

家族にやり過ぎだと思われる程に咀嚼してから飲み込む。

食事が終わると空になった食器を片付ける。

平たい物を一番下に、その上に茶碗、更にその中に汁椀を、最後にその中にお詰め物の小皿を入れると、空のコップの中に箸を入れて、もう片手に皿を持って落とさないように台所へ持って行く。

とぼとぼとした足取りで洗面所へ向かい、顔を洗い、保湿をし、髪をとかしたら支度が終わる。

自転車での通学時間は約三十分程である。

元々坂の多い地域ではあるが、家から学校までの坂の量は異常である。

その数、六つである。

高速道路の下の県道を走って行くのだが、家を出てから五分と経たずにまずは登り坂がある。

登りきったら直ぐに降り坂があり、降ったらまた直ぐに登り坂が現れる。

六つの坂はその繰り返しで連なっている。

学校は最後の坂を降って、自転車を五分程走らせると見えてくる。

学校が見えてくると少し胃がキリキリと痛み出してくる。

だが、家に帰るとなると同じように坂を登ったり降ったりを繰り返さなくてはならない。

引き返すのも億劫なので結局、学校へ行くのである。


学校の校門では毎朝数人の教員が門前に立ち、登校してくる生徒の髪型や服装に目を光らせている。

全く持って、無駄な努力である。

校門で待ち伏せして服装頭髪検査を勝手にやっていたとしても、入口だけきちんとして校内で崩すのだから。

私は校則などには興味などないが、校則を破る理由もないので一応守っている。

だから、イメージだけで教員は私を呼び止めることは無い。


「徳間さん。」


声など誰からもかけられるはずがないのに。

今までに無かった事が起きたので少し驚いてしまった。

一体誰が、何の用で私になんか話しかけるのだろうか。

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