セカンドパーティー ~次男次女の冒険記~

粗挽アキラ

【プロローグ】 「次男次女」

総数一億人の人族を束ねる世界最大の超巨大帝国。




 その帝国の支える四大貴族の名を知らぬ者はいない。




 ──「北」の領地を支配するその貴族は、


 500年間洗練されてきた独自の剣術を継承し、


 数多くの《剣士》を排出した。




 ──「東」の領地を支配するその貴族は、


 蓄積された医療知識と弓の技術を独占し、


 数多くの《治療師》と《弓使い》を排出した。




 ──「西」の領地を支配するその貴族は、


 多種多様で強力な魔術を代々受け継いでいき、


 数多くを《魔術師》を排出した。




 ──「南」の領地を支配するその貴族は、


 尋常ならざる強固な肉体を持って生まれ、


 数多くの《戦士》を排出した。




 これらの四大貴族は、時には帝国の矛となり、時には盾となる。


 歴史上最も強大な国と呼ばれた帝国は、最強と呼ばれた四大貴族を抱え、このまま永遠の繁栄を享受するかに思われた。








 それは突然の出来事であった。




 大陸の極東に"魔王"が誕生したのだ。


 


 ある日を境に、世界は闇に飲み込まれていくこととなった。




 大陸の極東の島に居着いた魔王は、数多くの魔族と魔獣を従え、東から西に塗りつぶすように徐々に版図を広げていった。




 人類はおぞましい巨悪に対して恐怖した。




 大陸の最西端に位置するこの巨大な帝国も、魔王軍の侵略に対する危機感を募らせるばかりであった。




 魔王が誕生してから202年。




 そこで皇帝は、帝国最高戦力である四つの一族、すなわち四大貴族を城へ呼び寄せた。




 四人の当主に向けて、皇帝は言った。




「我が帝国最強の戦力である、君たちの"長男長女"を魔王の討伐へと向かわせてほしい」




 四人の当主は、それに二つ返事で了承した。




 それぞれ一人ずつ招集された長男長女たちは、パーティーを結成し、討伐へ向けて出発した。










 彼らの活躍はめざましいものだった。




 四大貴族の長男長女で結成された「ファーストパーティー」の大戦果は、世界中の人々の耳に届いた。




「たった四人で人類の要塞に居着いた二万匹の魔獣を葬った」




「魔王軍の幹部の一人を破り、もう一人を封印した」


「8年間硬直状態だった南部戦線を902キロ押し上げ、人類の版図を7%広げた」




「四人の戦果が多すぎて冒険者の仕事が激減し、とある地域で冒険者のストライキが起きた」




「襲ってきた狼人間529体の死体をギルドに納品し、狼人間の牙の市場価格が前年比で68%下落した」




「パーティーと偶然遭遇した魔王軍の魔人が自らの命を終わりを悟り、目の前で辞世の句を読み始めた」




 あらゆるところで魔王軍を打ち破り、人々を助け、すぐさま英雄として称えられる様になっていった。


 


 まさに「ファーストパーティー」は、名実ともに人類最強であった。




 この物語は、そんな伝説のパーティーが魔王を打ち破るまでのお話──




 








 ではなく。




 皇帝はつ・い・で・にもう一つもパーティーも魔王討伐に向かわせた。


 


 そのパーティーは先ほど紹介した最強の四人の、弟と妹だけで構成されている。




 つまり四大貴族の"次男次女"である。




 王はその次男次女の四人組に、長男長女たちが出発した時に渡した金銭の三分の一の金貨を持たせて、しれっと帝国の首都から送り出した。




 その四人組が送り出されたのは、ファーストパーティーが出発してから五年後の話であった。




 長男たちの眩しい活躍の影に隠れて




 彼らはそこそこ活躍したり




 まあまあ戦果を挙げたり




 たまに失敗して兄貴たちと比べられたりしながら冒険を進めていくこととなる。




 まばゆい光を放つ英雄たちを背を追いかけて




 期待と落胆の視線に惑わされ




 劣等感にまみれて落ち込んでも




「まぁなんとかなるでしょ」と励ましあう。








 皇帝は彼らを「セカンドパーティー」と名付けた。

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