第20話 夜の小学校に忍び込んだ三人組
今年は梅雨明けが遅れて、天気予報は、毎日当たらなかった。
雨の日が曇に変わり、晴れの日は雨になって、雨の日に晴れた。
そんなふうに、天気が、ころころ変わった。
昨日の予報で、土曜の朝方は雨だったが、知らぬ間に大型の台風にかわって、魔法をかけられたかのように大嵐になった。
そして、
ことりが入寮した日の夜、そして、子ぎつねランが過去に行ってしまった夜、三人は、樊籠小学校に忍び込んだ。
そのうちの一人、
「トイ、もう十分だろ?これ以上は、守衛が怪しむぞ!」
「もうちょっと待って、あと少しだから」
「これじゃない、これでもない!」
この独り言が、かれこれ二時間以上続いている。
理科室に入った時は、月明りが差し込んでいたので明るく感じたが、秘密の地下室は、想像していた以上に暗かった。
懐中電灯だけでは覚束無い。
理科室の奥に、秘密の階段はあった。
赤い絨毯を捲めくると、真鍮の取っ手があったのだ。
「マジで、あったな」
春人が、顔をしかめると、トイが急かした。
「だから、見つけたって言ったでしょ、ほら、早く!」
一番力持ちの春人が引っ張ると、ギイイッと気味の悪い音を立てて、床が
最初にトイが降りて、次に
木の階段が、ぎしぎし鳴るのを聞きながら、春人は、床を閉めずに降りて行った。
そして、地下に着いて驚いた。
「何だ、これ。図書室と同じじゃねーか」
地下の新聞保管庫と、部屋の作りが全く同じだった。
古新聞で、全ての棚が埋まっているのだ。
トイは、特に驚きもしなかった。
「うん、思った通りだ」
そう言って、すぐさま棚を漁り始めたのだ。
「何探してるんだ?手伝うぜ」
「ありがとう、でも、気持ちだけでいいよ」
春人は、手伝おうとしたが、トイに断られて、仕方なく後ろで待った。
それは、龍絵も同じだった。
「かび臭いね。それに、埃っぽい」
龍絵は、眉をひそめて、ずっと鼻をつまんでいたが、色々と限界が来たらしい。
「トイ君、まだ?わ、私もう帰りたいよぉ~。雷も、凄い鳴ってるしぃ。ここ、電気も付かないんだもん」
龍絵が、遂に泣き言を洩らし始めた。
超絶怖がりの龍絵にしては、辛抱強く耐えた方だ。
校舎に入る前から怖がっていたが、トイの為に頑張ったのだ。
しかし、今は、春人の背中にくっついて、放れようとしなかった。
「おまえなあ、だから、朝言ったんだよ!」
言い方は乱暴だが、顔つきは、
ほんの少し距離は置いたものの、龍絵の傍に、ちゃんといる。
もし、龍絵が手を繋いでくれと泣き付けば、多少の文句を言いつつも、ぎこちなく差し延べるに違いない。
「ハ、ハル君、ぜんぜん怖くないの?」
龍絵は、すっかり怯えて、春人のTシャツの裾を握り締めた。
「あのなあ、学校なんて毎日来てるだろ?怖がる方がおかしいぜ。懐中電灯もあるだろ?」
春人の右肩が、突然ぐんと下がった。龍絵が、Tシャツを引っ張ったのだ。
「だって、昼と夜とじゃ、全然違うもん。それに、小っちゃいの持って来ちゃったから後悔してるの」
「はあ……三人分あるんだから、問題ねえだろ。だいたい、先週の日曜は、母ちゃんの学校、西野小に行ったんだろ。しかも夜に」
これ以上引っ張られては、裾が伸びきってしまう。
春人は、何とか龍絵の気を紛らわそうとした。
「おまえの母ちゃん、ドジだよなあ。一週間に一回は、テスト用紙を置き忘れて帰るだろ。付き合わされるお前も、大変だよなあ」
しみじみと言う春人に、龍絵が頷いた。
「子供が一緒にいると、おばけが寄って来ないって言うの。それ、本当?」
消え入るような声で龍絵が尋ねると、何とも無慈悲な答えが返ってきた。
「おばけか……上手いこと言うな。確かに、おばけ学校みたいなもんだよな」
春人が答えた後、雷の落ちる音が、地下室まで響いた。
「ひゃああっ!」
龍絵が、春人の背に飛び付いた。
そうとう近くに落ちたのか、バリバリドッカーンと物凄い音が聞こえた。
春人は、警戒して待ったが、今度は落ちなかった。
「おい、大丈夫だから放れろ」
春人が振り向いた時、龍絵の大きな両目が、はっきりと見えた。
涙が溜まって、今にも零れ落ちそうだ。春人は、ギョっとした。
「おばけなんて言わないでぇ~」
「ばっ、ばか、おまえが先に言ったんじゃねーか」
春人は、うろたえた。これは、泣き出す一歩手前である。
龍絵の小声は掠れて、いつもの愛らしい表情は、強張っていた。
鼻を
「自分で言うのと、人が言うのとじゃ、違うんだもん~」
何とも理不尽な言い分だ。背中の一部が、ひやっとした。
龍絵が、顔を押し付けたからだ。春人は、肩をすくめて怒った。
「どう違うんだよ!おまえの考えを、押し付けるな!」
「ひ、ひどい。う、うえええん」
春人が、一喝すると、龍絵は、声を上げて本格的に泣き出した。
背中が、どんどん濡れていく。最悪だ。
春人は、はあっと溜息を吐いて言った。
「おまえ、怖がりの上に、泣きみそだよな。母ちゃん似か?」
急に、泣き声がピタリと止んだ。同時に、春人の背骨に衝撃が走った。
「いってっ!」
「ママは、泣きみそなんかじゃない!」
龍絵が、頭突きをしたのだ。
「ママは、一人で、私を育ててるんだから!学校の先生って、大変なのよ!」
龍絵は、憤慨したが、それは、春人も同じだった。
「じゃあ、泣くな、泣きみそ!俺の母ちゃんだって、一人で頑張ってんだ!俺は、看護師の息子だから、プライドってもんがあるんだ!おまえみたいな根性なしとは、格が違うんだよ!」
「わ、私だって先生の子なんだから!プライドがあるわ!」
負けじと龍絵も言い返したが、春人は、さらりと交わした。
「そうかい。じゃ、放せ。そんで泣くな。あやすのが、めんどくさい」
龍絵は、黙って言う通りにしたが、放れる際に、ブビビイッと鼻をかんで、シャツでぬぐった。
「おまえなあ!」
春人が文句を言おうとした時、トイが声を上げた。
「あった、あったよ!」
高らかな感声に、二人は、少なからず驚いた。
こんなにも興奮したトイは、初めて見る。
「あったよ、あったんだ。ついに見つけたよ。これだよ!」
トイは、すっかりのぼせていたが、春人は完全に苛立っていた。
「で?何を見つけたんだよ」
春人が、冷やかな眼差しを向けると、トイは、目を輝かせて話し始めた。
「天鬼没塔が、樊籠小学校の七不思議にされた理由だよ」
「意外だな、七不思議に興味があったのか」
春人が呟くと、トイが答えた。
「あるわけないでしょ。僕が好きなのは、謎解きとマラソンだけだよ」
トイが、けろりと答えた。
「見つけたかった記事は、天鬼てんき没塔ぼっとうが、樊籠はんろう小学校の七不思議になった理由なんだ。この北校舎が、天鬼没塔と呼ばれる
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