第24話 懲りない転入生


 木の葉と奏は、寝たふりをしていた。 

 新しいルームメイトは、たった一度の失敗くらいで観念する柔な性格ではない。

 ことりは再び森へ行く、容易に想像はついた。

 ことりが窓から出て行くと、木の葉は、溜息を吐きながら起き上がった。


「案の定だな」


 奏も、起き上がって、音もなく閉められた窓を心配そうに眺めた。


「どうする?迎えに行く?」


 奏の質問に、木の葉が、素っ気なく答えた。


「ほっといても、死なねえよ」


 奏が、首をすくめて眉をひそめた。


「そこは、心配してないよ。輝龍きりゅうさんの息子だからね。ただ、さっきの会話、聞こえたでしょ?僕は、色んな意味で心配だよ」


 奏は、電気を点けると、窓の外に目を遣って顔をしかめた。


「ねえ、見て。いつのまにか、嵐になってる。樊籠はんろう小学校の真上と、その周辺だけ、様子が、おかしいよ」


 木の葉は、立ち上がって窓辺に近付くと、外の様子を窺った。


「奉公屋の仕業じぇねえな。多分、妖怪が、いるぜ。あっちの方が、よっぽど心配だ」


 雷が、ゴロゴロ鳴って、雨は、ザアザア降っている。

 しかし、樊籠はんろう小学校の右隣に建つ西野小学校、特に小守寮の近くには、全く何の影響も及んでいない。


 ことりが抜け出した時、既に激しい雨は降っていた。

 しかし、暗闇のせいもあって、全く気が付かなかった。


「木の葉、実はね」


 言いにくそうに、奏が口を開いた。


「寮母さんに牡丹餅を売り付けられる前に、ハル君から連絡を貰ったんだ。夜の校舎に忍び込むって」


 「はああ!?」


  木の葉が、絶叫したので、奏は慌てて止めた。


「静かに!他の寮生が、起きちゃうよ。明日の朝、食事が終わったら、皆は帰省するんだから。僕らは、帰れないけどね。男子寮から三人、女子寮から三人、計六人が犠牲者だよ」


 木の葉が、鼻息を荒くして言った。


 「クソッ、何だよ、その拷問!納得いかねえ。影に追い回される方が、よっぽどいいぜ」


 その言い分には賛同できなかったので、奏は、さっさと会話を終わらせた。


 「進んで引き受けた優しい子たちがいるって噂になってたから、瀬奈たちだ。僕らの夏休みは、罰掃除で終わるよ、木の葉のせいでね」


 奏は、最後の一言を強調して言い添えた。


 「分かった、サボろうぜ。で、あいつらを助けに行く」


 木の葉が、引き出しを開けて、ズボンとTシャツを探し始めると、奏が呆れた風に言った。


 「サボるも何も、騒ぎを起こしたら、寮から追い出されるんだから、掃除のしようがないよ。ことり君が妨害作戦に参加するなら、僕らも同罪になるし、ハル君たちの助太刀をしても、同じ事だから」


 「へえ!俺ら、ついてるな」

  

  罰掃除から解放される喜びが上回って、木の葉は、にんまりした。


 「木の葉のポジティブな所、いいと思うよ。全然ついてないけどね」


 奏も、引き出しから、お気に入りの半袖ボタンシャツを取り出したが、不意に思い付いた。

  

 「先に、荷物をまとめよう。先生の話は、どこかおかしいと思ったけど、新校舎を楽しみに待っててね~なんて笑顔で言われたから騙された!」


 奏が、地団太を踏んで悔しがったので、木の葉は、目を丸くして驚いた。


 「おまえが、ブチ切れてんの初めて見たぜ。気持ちは、分かるけどな。夏休み明けに、『建設工事は延期になった』そう寮母が言えば済むわけか」


 木の葉も悔しがったが、荷物をまとめる案には賛成した。


「ことりの分は、どうする?」


「荷解きが、全部終わってないから、心配いらないよ」


 さっきまで散々心配していたくせに、奏は、あっけらかんと答えた。

 その後で眉根を寄せると、険しい声で言った。


 「先生たちは、森だけ潰せれば、それでいいんだ。新校舎の建設は、カモフラージュだよ。工事なんて御金の無駄、時間の浪費だからね。奉公屋だけでなく、妖怪にとっても、不利になるものがあるんだ。それを消せば、ハイ完了って寸法だよ」


 「よっぽどのもんだな。何だろ、すげえ気になる」


 興味を惹かれて、木の葉は考え込んだ。それは、奏も同じだった。


 「うん、それが分かれば……本当は、知らない方がいいのかもしれないけど」


  二人は、頭を悩ませたが、結論は出なかった。

  秘密が何なのか見当もつかない。

  けれど、一つだけ明確なことがある。


  「相当やばい計略に、首を突っ込むって事だぞ。奉公屋は、子供にも容赦ねえ」


  「下手すると殺されるかもね。小学生の能力だけで、片付くレベルじゃないよ。関わらないのが利口だけど、同じ学校の子たちを消されるのは胸糞わるい。死亡ニュースはなかったけど、いくらでも操作できる。奉公屋のバックには、チハさまがいる。チハさまの一番弟子、爝火しゃっかも……」


  顔を暗くして歯切れが悪い奏を見て、木の葉が、ばしっと言った。


 「ことりの父ちゃんも、敵かもしれねえな。西野小は、裏切り連中の宝庫だぜ。俺も、おまえに同感だ。こんなクソみてえな学校、通う気には、もうなれねえ。それに、瀬奈たちを止める方が無理だな。結花は、偽装工作も徹底できるぜ」


 「うん、彼女の能力は、未知数だ」


 「作戦とやらを聞いてねえから、何する気か知らねえけど、あいつらは放っておけねえ。やるしかねえな」


 木の葉と奏は、腹をくくった。


 「やるしかないよ」


 ふうっと息を吐いて、二人は、着替え始めた。


「あいつら、スマホ、持ってると思うか?」


 先に着替え終わった木の葉が聞くと、奏が、ボタンを留めながら答えた。


「多分、持ってないよ。ハル君は、家を出る前に連絡をくれたし、トイ君も、根は真面目だからね。スマホ持ち込み禁止の学校に、持って行く習慣は、身に着いてないと思う」


 荷作りを始めた二人は、暫し黙々と手を動かしたが、遠くで鳴る雷を聞くうちに、妖怪の仕業でないことを感じ始めた。

 二人の頭に浮かんだ二文字は、『魔女』だった。





 



 

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