第18話 訪問者は、好みのタイプ
「あんた達も、入部する気になった?」
説明し終えると、瀬奈は、期待を込めて尋ねた。
木の葉と奏は、悲愴な顔つきで頷くと、いやいや名前を記入した。
その後、ことりの勉強机に入部届を置いて、ベッドに入った。
「ちょっと!作戦は聞かないの?」
不満げな声が二人の背を追い掛けたが、木の葉と奏は、耳を塞いだ。
「もう十分、聞いた」
「僕ら、寝るよ。今夜は、くたびれたから」
瀬奈は口を尖らせたが、「二人には明日でいいや」そう言って、ことりに向き直った。
そして、瀬奈が、妨害計画を話し終えた時、誰かが、ドアを連打した。
コンコンコンコンッ
「やべっ。今度こそ寮母かも!」
木の葉は、ぱっと体を起こして、瀬奈に目で合図した。
「隠れろ!」
予期せぬ訪問者は、返事を待たずにドアを開けた。
しかし、中に入ろうとはしなかった。
「どこに隠れても無駄よ!」
木の葉と奏は、胸を撫で下ろした。訪れたのは、奏のいとこだった。
ことりは、文句なしの美人だと思った。
背は百六十五センチそこらだろう。
顔立ちは、奏に似ていた。
髪が長くてサラサラ、手足も細く色白で、すらりとしていた。
しかし、吊り目で、見るからに性格がきつそうだ。
「瀬奈、出て来なさい!帰るわよ!何時だと思ってるの!」
声まで、きつかった。
瀬奈は、ことりの背後に素早く隠れたが、木の葉に引っ張り出されて、ドアまで連行された。
「助かった、持って帰ってくれ」
「迷惑かけたわね」
きつい美人は、木の葉に微笑むと、ことりにもペコリと頭を下げた。
「次からは、もっと早く迎えに来てよ。九十九人目の被害者を救う為に、僕らも入部する羽目になったんだから」
奏は、三枚の入部届を、いとこに手渡した。
それを受け取ると、知世は、再度ことりを見て、深く頭を下げた。
瀬奈が、ことりに手を振った。
「ことちゃん、おやすみ。また明日ね!」
「うん、おやすみ」
ことりは微笑んで見送ったが、二人が去ると、三人とも息をついた。
「嵐が去ったな」
「ほんと、ようやく静かになった」
「いい子だけど、男子部屋で寝るのは感心しないから、迎えに来てくれて良かった。さっきの美少女は、誰?」
瀬奈も、見た目は可愛いが、ことりのタイプは、知世だった。
そんな事は、恥ずかしくて口にできないが、聞く時、少し顔が赤くなった。
それで、鋭い奏にはバレたが、木の葉は気付かなかった。
「 僕のいとこだよ」
「だから似てたのか!」
腑に落ちたことりに、奏は、釘を刺した。
「先に言うけど、瀬奈より面倒な性格だよ。瀬奈も知世も、美少女と書いて悪女と読む、そう陰で噂される悪魔のような女子だから」
「悪女!?」
若干大げさな気がして、ことりが、木の葉を見ると、木の葉が無言で頷いた。
「誇張なんかじゃないよ。部活内容を知ったんだから、分かるでしょ?計画も聞いたよね?」
今度は、ことりが、無言で頷いた。
「ほんと、助かったな。これで眠れる」
木の葉は再度ベッドに入ろうとしたが、はっとして奏に向き直った。
「瀬奈のせいで、嫌なこと思い出したぜ。なあ、あれ、一年前だよな?三年の男子が三人、校長は悪い妖怪だって大騒ぎしたの覚えてるか?」
部屋の中に、切迫した空気が漂い始めた。
「停学になったね。二組の子たちだった。担任は、坂口先生だったね。自宅で療養させるとか言ってたけど、戻って来なかった」
木の葉の顔が、瞬く間に恐怖で曇った。
「あいつらの妖怪話が、真実だった可能性はあるか?」
木の葉が怯えた声で聞くと、奏も青ざめて
「ううう、最悪だ、僕も思い出した。十分あるよ。赤目守りのように良い妖怪ばかりじゃない。奉公屋は、正義のヒーローでも何でもない。妖怪の味方だ。ほとんどの奉公屋は、依頼内容によっては、平気で人も殺せるし、仲間だって裏切れる。先生達が、本当は、心汚れた熟練奉公屋だとしても、おかしくはない」
木の葉は声を落として、奏に問い掛けた。
「タエの母ちゃん、冬子先生も?」
奏が、悲しそうに目を落として、ぼそぼそと話した。
「裏切りは世の常だよ、裏に大物がいるとしか思えない。正しい奉公屋は、ほんの一握りだ。その一握りを育てる為に建てられた小学校なのに、酷すぎる」
ことりは、二人の顔を、かわるがわる見ていたが、話が進むにつれて少しずつ青ざめていった。
「あいつら、死んだのか?」
木の葉の唇は、少し震えていた。
表情は強張り、両手の指先も徐々に冷たくなって、両手をぎゅっと組み合わせた。
木の葉は、掌に残る体温を無意識に求めた。
奏も、硬直した体を何とか解そうと、しきりに両腕をさすった。
「分からない。でも言い切れる、戻ってくることは、二度とない。一年前から始まってたんだ。先生達は、きっと知ってる。校長先生の正体を承知で追い出さないってことが、確実な証拠。共犯なんだ」
「お盆の森を潰すことと関係があるのか?」
木の葉が、消え入るような声で聞くと、奏も蚊の鳴くような声で答えた。
「僕は、赤目守りを追い出すことと関係があると思う。ねえさまに聞いたことがあるんだ。何十年前の話だか知らないけど、おばば様が、赤目守りをお盆の森に迎え入れて、亡くなる前日に、森を守る後継者に赤目守りを選んだって話だよ」
ことりは、口を挟まずに、大人しく二人の会話を聞いていた。
「一年前の夏だったよな。俺もおまえも、全ての奉公屋、妖怪たちが、葬儀に参列した」
木の葉が言うと、奏も頷いた。
無論、ことりも出席したが、記憶が曖昧なのだ。
(姉さんと出席した筈だけど、記憶が途切れ途切れで……理由があるのかな?まさかと思うけど、記憶が
「おばば様が亡くなってから、新校舎の建設、ひょっとすると嘘かもしれない」
奏の顔色が土色に変わって、その顔が、だんだんと憤怒の形相に変わっていくのを、ことりは、黙って見ていた。
(赤目守りの件では、薄情な性格だと思ったけど、正義感や、仲間意識は強いのかもしれない)
「工事の中断とか、いくらでもごまかしはきく。夏休みは、全ての児童が、帰省させられる。親のない子たちは、各担任の家か、親族の家で過ごす。寮に残っちゃいけない」
「そんな話、聞いてねーぞ。俺ら、明日も、いるじゃねーか。何から何まで初耳だぜ」
木の葉が、鼻に皺を寄せると、奏が、深い溜息をついた。
「先週、クラス会で、
これを知って、ことりは、嘆かずにはいられなかった。
(悪運続きだ!)
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