第16話 仕掛け人の到来
ことりと木の葉が戻る前、知世は、直接男子寮に赴いた。
「念には念を入れないと」
そう言って部屋を出て行ったので、結花と瀬奈は顔を見合わせて、「真面目ね」「真面目だね」と口にした。
「
瀬奈が、モニターを確認すると、知世が、渡り廊下から男子寮に入る所だった。
「はやっ!」
「見せて。まあ、流石ね。映りもいいわ」
結花が、覗き込んで満足そうに言った。
「ともちゃん、今日は、絶好調って言ってたから。それに、ゆいちゃんも流石だよ。隠し場所から、一ミリもずれてない。花を結い付ける能力って、ほんと役立つね。どこにでも取り付けられるって、凄いよ」
「持ち上げないで。大した事じゃないわ」
結花は、モニターに目を向けたまま、にこりともしないで言った。
「凄いのは、知世よ。モニターで映せる能力まで開花させたんだもの。名から得られる妖力、知世の場合は、世を知る能力。まだ初等科なのに、知りたい世の中の情報を、目に見える形に出来るんだもの。抜きん出てる。ただ、不思議にも思うわ。この星型のモニターを、どこで手に入れたのか。まるで本物の星みたいに、キラキラ光る時があるでしょ?」
「もう、ゆいちゃんってば、心配性。知り合いのバーテンダーさんがくれたって、教えてくれたの忘れた?タップして操作できるんだから、人間が作ってるよ。大きさも、ノート型パソコンだし、ちょっとオシャレな普通の機械だよ。ハートマーク機能まで付いてるんだよ?ともちゃんとゆいちゃんの能力を合わせて、監視花が届く範囲内は無言の意思疎通が出来るのも、ハートマークのおかげだよ」
無邪気なニコニコ顔を見つめて、結花が、呟くように言った。
「おめでたい頭ね」
知世が、男子寮に入ると同時に、奏と寮母さんは外に出た。
「さっきの、可哀そうだったね」
瀬奈は、しょぼくれた奏の背中を見て、気の毒に思った。
「寮母さん、牡丹餅を買わせるんだもん。びっくりした!ちょっとくらい、まけてくれてもいいのに」
瀬奈が、頬を膨らませると、結花が、眉をしかめた。
「そうね。後で、ことり君と木の葉に払わせるから問題ないって言ってたけど、今日の奏くんには、ちょっと同情するわ。流石にね」
知世は、隠れた場所から、ことりと木の葉が帰って来たのを確認して、こっそり女子寮に戻った。
そして、知世と入れ替わりに瀬奈が部屋を出た。
「上手くやってよ、失敗は許さないから」
結花が、怖い顔をして言うと、瀬奈が笑った。
「任せて!最高の仕掛け人になるから。いってきまーす」
元気な後ろ姿を見送って、知世が、溜息をついた。
「三人を怒らせないといいけど……」
美少女と書いて悪女と読む、そんな三人の悪事計画を知る由もないことりは、唖然とした。
時刻は、きっかり九時、こんな時間に突然、おさげ髪の女子が男子部屋に入り込んで、平然とドアを閉めたのだ。
「脱走、失敗したんでしょ?」
ウサギ柄のパジャを着て、さくらんぼ柄の枕まで持参している。
「男子寮と女子寮は、分かれてるよね?」
ことりは、戸惑いを隠せなかった。それを見て、おさげ髪の女子が、意地悪く笑った。
「あははは。ことり君って、硬派?」
ことりは、カチンときたが、女子に怒るわけにもいかない。
ぐっとこらえて、なるだけ優しく話し掛けた。
「僕たち、もう寝ようと思うんだ。君も帰った方がいいよ。見つからないように、気を付けてね」
「大丈夫。枕、持って来たから」
悪い意味で、からっとした気性だ。平然と答えたのを見て、ことりは、眩暈を覚えた。
「ここで寝るつもり!?君、女の子だろ?」
「別に、いいじゃない。木の葉と奏くんは、家族みたいなものだし。頭が固いのね。お年寄りみたい。お爺さんよ」
悪気があるのかないのか、どちらにしても、この発言は、ことりの怒りに触れた。
ことりは、顔を真っ赤にして、ドアを指差した。
「お年寄りを馬鹿にする人間は、大嫌いだ!今すぐ部屋から出て行って!就寝前に来て、非常識きわまりない!迷惑だよ!」
ことりは、生まれて初めて女子に怒鳴った。ほぼ金切り声だった。
いっそのこと放り出してやろうかと思ったが、瀬奈 は、丸顔に愛らしい笑みをたたえて、ポケットから三枚の紙を引っ張り出したのだ。
「融通もきかないのね。そんなことより、あんた達、ミステリー・スイーツ園芸部に入らない?勧誘に来たの。これ、入部届。ここに名前を書いて。締切は、伸ばして貰えたから平気」
勧誘者の乱入で、三人は、すっかり毒気を抜かれた。
喧嘩意欲は削がれたが、ことりは憤慨し続けた。
「明日から夏休みなのに、新入部員が集まらなくて、困ってるの。あたししかいないから、先生が、廃部にするって言うの。酷いよね。新しい先生に変わったから、仕方ないけど。今度は、おじいちゃん先生なの。だから、あんた達も入部して。ほら、早く書いて」
ペラペラ喋る幼馴染を見つめて、木の葉は、再びベッドに倒れ込んで背を向けた。
「俺は断る!」
「僕も嫌だな。勧誘じゃなくて、強制じゃないか。そもそも、僕は、土いじりが大嫌いなんだ。知ってるだろ?土の感触が、気持ち悪くてたまらない。考えただけで、ぞっとする!」
奏も、顔をしかめて、窓の外に目を向けた。
ことりは、口を聞きたくなかったので、何も言わなかった。そっぽを向いて態度で示した。
しかし、瀬奈は枕を脇に挟んで、ことりの両手を握り締めたのだ。
「ありがとう!明日から、よろしくね」
「えッ?」
「沈黙は肯定でしょ。まさしく救世主。本当に、ありがとう!ことちゃんの手、骨張ってるのに柔らかいね」
ことりは、これで二回目だと思った。今日は、女子に握り締められる厄日らしい。
「違う!人の話を聞いてよ!僕に触らないで!勝手に、あだ名を付けないでよ!」
悲鳴のような訴えを聞いて、木の葉が、仕方なく立ち上がった。
「瀬奈やめろ。こいつを巻き込むな」
「どの口が言う?手引をしくじったのは、あんたでしょ!」
瀬奈の反論は最もだが、奏も動いた。
「ことり君が困ってるだろ?」
瀬奈の左頬を思い切りつねって、ことりから引きはがした。
「いたたっ!暴力反対!」
瀬奈が顔をゆがめたが、奏は平然としていた。
そして、申し訳なさそうに謝った。
「ことり君、ごめんね。瀬奈は、いつも強引なんだ。口は悪いし、顔つきも高慢で、おまけに態度は横柄だ」
「見れば分かるよ」
ことりは、握り締められた両手を見つめて、心の底から憎らしく思った。
「女子に手を握られて嫌だと思ったのも、人生で二度目だよ」
ぽつりと呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます