あの日の時計
古本市で昔の恋愛小説を数冊買ってホクホクしているハレア。その隣には猫背で髪で顔が覆われ、表情が一切見えないリールが屋敷に帰ってきた。
「リールさんも結構本買いましたね」
「古書にしかない魔術の本も結構あるから……」
「その時計……」
リールは本と一緒に時計を抱えている。ハレアはその時計に見覚えがあった。カミュレスがコレットにあげた魔具だ。
「これ……、ちょっと壊れてるから修理してって言われて……」
「そっか~!」
ハレアはその場では納得したふりをしたが、少し疑問があった。
(魔具の修理なら、魔道具店のカミュレスに依頼すればいいし、コレットとリールは初対面だからリールが魔具を作っていることは知らないはず……)
そう考えてはいても、「まあいっか~」と深くは思わないのがハレアである。
―――
それはハレアがドレスを合わせるために別室に通され、コレットとリールの二人になった時である。
「そういえば、魔道具店のイケメン店員分かります?」
「は、はい……。見たことは……」
「実はその人から時計の魔具をもらいまして、私が持っていても持て余してしまうのでハレアさんにあげようと思っていて……」
コレットはそう言いながら、カチカチとなっている時計型の魔具をバッグの中から取り出した。
「これ……」
リールはその魔具を見て驚いた。リールもその店にはいたものの、入り口付近にずっと立っていたため、あまり商品は見えていなかった。コレットがもらった魔具も詳しくは見えなかったのだ。そしてこの魔具は古代のものである。一応は動いてはいるが、本来の使い方をするには部品と魔力が足りずただの時計となっている、珍しいものだ。この魔具の価値をあの魔道具店の男が知らないわけがない。ただ単に、街の魔道具店に置いておくには持て余してしまうものだからあげたのだろう。
「これ時計なんだと思うんですけど、時間は合わせられないし、カチカチっていう秒針の音が一定じゃなくて、なんだか気持ち悪くて……。ハレアさんは魔術学校の出身だから何かに使えるかなって持ってきたんですけど……」
リールはそれを聞いてすぐに思ったのは、ハレアにはこんな魔具は使いこなせないと。
「ぼ、僕が預かっていてもいいですか?」
「ま、まあいいですけど……」
コレットはどうせ帰る屋敷は一緒なようだし、ハレアに持たせるよりこの男に持ってもらおう、くらいの軽い気持ちでリールに魔具を渡した。
―――
「じゃあ、僕はこれで……」
リールは古書と時計を抱えて足早に自分の部屋へと向かった。
「お嬢、おかえり!リールとだいぶ仲良くなったみたいだね」
ルードが玄関先まで迎えに来てくれた。
「ただいま戻りました!リールがドレス、選んでくれました!」
「えっ?アイツが?」
ルードは驚きを隠せないようだ。
「はい!店員さんにお目が高い!って言われてましたよ!センスがいいんですね!」
「へ~、リールが……。俺も早くお嬢のドレス姿見たいな!」
ニコニコとリールのことを語るハレアを見て、ルードはあまりいい気持ちはしなかったが、変わらない笑顔でハレアを出迎えた。
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