魔力対策①
「ヨーレンさん、先ほどはすみませんでした。小屋は大丈夫ですか?壊れたりしてませんか?」
夕食時、ハレアがヨーレンに対して平謝りをした。
ハレアはインハート伯爵家の女主人であるが、使用人は少なく主人であるキルシュは屋敷に帰ってくることはほぼないので、食事はヨーレンの家族と一緒に食卓を囲むのが習慣になっていた。もちろんそこにヨーレンの次男のリールはいない。カカリやモーネが食事を部屋に運んでいるそうだ。
「小屋は大丈夫でしたよ。屋根が何枚かはがれたくらいで。もともと古い建物だったので……」
ヨーレンは穏やかな笑顔で答える。
「いやぁ~、流石に父さんのバリア壊す威力って……。お嬢、魔力ありすぎだろ」
ルードが手に持っているフォークを空中でくるくると回しながら呆れた声を出す。ヨーレンが「んんっ」と軽く咳払いをするとルードはフォークを持ち直し、せかせかと食べ始めた。
「えっ!?パパのバリアって壊せるの!?えっ!?」
学校に行っていて昼間の出来事を大まかにしか知らないモーネは食事をする手を止めて驚く。
「すみません、私小屋の中見てなくて……。バリア壊してたんですね……」
しゅんとハレアの眉毛が下がる。
「いいのよ~!パパのバリアもきっと年で衰えてたのよ~!奥様が気にすることじゃないわ!」
カカリは気を遣った様子でハレアを励ます。
「でも、実際どうすんだよ。数日魔力ため込んだ程度でアレって相当だぞ。お嬢は実家いた時はどうしてたんだよ」
「実家にいた時は壊してもいいこれくらいの魔石がいくつもあったので、毎日それを破壊してました……」
ハレアは両手で握りこぶし程度の丸を作りながらケロッと語る。
「はぁぁぁぁぁあああああ!?!?」
カチャッとその場にいた人たちの手が止まった。ルードはハレアをまん丸く飛び出た目で見て大きい口を開けて叫んだ。
「いや、魔石って魔力放出に使うもんで、アレに魔力注入じゃなくて破壊するって……」
ルードが言葉に詰まる。
そう。魔石は魔力が込められている石のことだ。魔術師の魔力がそのまま入っている。魔石に魔力を注入するには一定の力で魔力を入れ続けなければいけないため、相当な集中力と繊細さが必要だ。高度な技術を持った魔術師しか魔石を作ることができない。
ハレアはそんな繊細な作業はもちろんでできない。
魔石に魔力を注入する際、一定以上の魔力を入れると石が魔力を弾いて、魔術師自身が危険な目に合う。そして、凄まじい魔力を魔石に浴びせた場合、石は魔力を弾かずに粉砕されたように粉々になる。石に込められていた魔力は辺りに飛び散る。しかし、こんな事は魔術学校の先生や帝国魔術師の人でもできない。できても赤ちゃんの爪程度の小さな魔石を破壊するくらいだ。そのような芸当をハレアは毎日握りこぶし程度の大きさの魔石で行っていたのだ。
握りこぶし程度の炎の魔石一つあれば、半年の家庭内の料理と風呂に使用できるほどだ。そのため、平民にとっては値段もそこそこある。
「ろっ……ロンダム伯爵家はお金持ちなんですね……」
ここの食事風景では珍しく少しの沈黙の後、モーネが絞り出すような声でそう言った。
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