第7話 巨人
領主は百手巨人ヘカトンケイルを召喚してワイバーンの注意を引いている。
「……孤児院が危ない」
俺の独り言にモモが素早く反応した。
「アネット、グラディス。あんたたちは隠れてなさい。孤児院にはあたし一人で行く」
「おぬし正気か?」
「あたしの実力は知っているでしょ。この辺りの魔物なら問題ないわ」
「じゃが……」
「モモ。これを持っていけ」
俺は肉体の一部を切り離してインカムを作り出した。
「何これ?」
「Tフォンだ。これがあれば遠く離れた相手とも連絡を取り合える」
世界を包み込むほどの長い腕を持つ怪物テューポーンから名前を借りた多機能通信機。
「え? ……これ、相当ヤバい代物じゃない。こんなもの何処で手に入れたのよ?」
「その話はまた今度な。今は時間がない」
「そうね。じゃあ、行ってくるわ。——強化外骨格:
ベキベキベキベキと不気味な音を立ててモモの全身が赤く染まっていく。
鬼人族に産まれつき備わっている能力、皮膚の硬質化だ。
モモは身体能力を強化して建物の屋根に乗って壁の外に向かった。インカムに視神経を繋げて彼女が見ている世界を俺の網膜に映し出す。
凄まじい移動速度だ。
壁を飛び越えると武装した領民たちが門の前で樹木を張り巡らせて守りを固めていた。
ゴブリン、オーク、トレント、スライム、ゲイザー、サイクロプス。普段は敵対している魔物たちが一堂に会している。何らかの術で操られているのだろう。見える範囲にいるものだけでも物凄い数だ。
モモはまっしぐらに孤児院に向かった。
孤児院の扉に突進していた単眼の魔物ゲイザーを斬り伏せる。
「みんな無事?」
「その声、モモお姉ちゃんなの!?」
「今はこんな姿でごめんね。だけど安心して、近づいてきた魔物は全てあたしが倒すから!!」
魔物を倒していくモモの後ろ姿を見て、子供たちの瞳から怯えが消えた。
孤児院は彼女に任せておけば安心だろう。
視界を元に戻す。
古代都市の真上でワイバーンの群れが百手巨人ヘカトンケイルに襲い掛かった。巨人は無数の手のひらから石ころを生み出し、四方八方に投げ飛ばした。ワイバーンの翼が弾け飛び、地上へと落ちていく。
いくら数を揃えてもヘカトンケイルには通じていない。
力の差は歴然だった。
「がはははははっ、素晴らしいぞヘカトンケイル!! あのワイバーンをこうもあっさりと倒してしまうとはな。この力があればオレが王になることも夢ではない!!」
「喜んでいられるのは今の内ですよ」
邪神教のリザードマンが高所から領主ゲズールを見下ろす。
「なんだと?」
「スタンピードはただの時間稼ぎに過ぎません。ほら来ましたよ。空を見て下さい」
全長90メートルの巨大生物が宇宙から飛来した。
宇宙怪獣ジャギド——。
電動ノコギリの鋏を持つノコギリクワガタ。
「邪神様に仕えている神獣、ジャギドです」
「なっ!? あんなものが落ちてきたらこの町は滅びるぞ」
「もとよりこちらはそのつもりですよ。邪神様の力を思い知りなさい!!」
大怪獣ジャギドが激しい摩擦音を掻き鳴らして勢いよく突っ込んだ。
巨人と怪獣の激突。
電動ノコギリに斬り刻まれて巨人の腕が何本も吹き飛んでいく。巨人の血肉になっていた魂たちの絶叫が都市全体に響き渡った。
劣勢を強いられていた巨人だが、怪獣の腹部と頭部を掴んで力尽くで引き裂いた。
「ルオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「そんな馬鹿な!?」
「がははははっ、ヘカトンケイルは最強だ。もう誰も逆らえない。オレさまは無敵だ!!」
スタンピードを引き起こしたリザードマンは魔力を失ってこの世を去った。彼の行動に違和感を覚えた俺はアネットと共に電波塔に侵入した。
壁には邪神教団のシンボルであるXのタペストリーが飾られている。
螺旋階段を降りていくと宇宙船の指令室が綺麗な形で残されていた。俺を怪人に改造した秘密結社に対する怒り、戦闘員たちと船内で過ごした懐かしい記憶、複雑な感情が呼び起される。
「……きらきらしてて、きれいな場所」
「どうやら邪神教団はここを拠点にして活動していたみたいだな」
「おっと、まさかここを最初に嗅ぎ付けてくるのが子供とは驚いたよ」
俺たちの目の前に青年が立っていた。
最近どこかで見た気がする。
「……鍛冶師見習いの人」
「そうか、店主に追い出されていた男か。あのときとは何だか様子が違うな」
俺は人間の姿になって収納魔法で片手剣を取り出して構えた。
「わおっ! 擬獣化術師も一緒なのか。2対1は分が悪いね」
「あんたはここで何をしているんだ」
「僕の目的はね。世界中のダンジョンを目覚めさせることだよ」
初めて会ったときと一人称が変わっている。こちらが素の状態なのだろう。
青年は異空間から赤黒い塊を取り出して中央の装置にかざした。どす黒いオーラが装置に吸い込まれ、魔王の魔力を感知して真っ赤なランプが点滅した。
≪邪悪な魔力を感知しました。勇者育成施設を起動します≫
船内のモニターに世界各国の映像が映し出される。地中に埋もれていたダンジョンの入り口が次々と飛び出した。船内に蓄積していた魔力が全て解き放たれて映像が途切れる。
「やはり僕の思っていた通りだ。魔王の魔力が鍵になっていたんだね」
「……何故、ダンジョンを目覚めさせたんだ」
「ダンジョンは異星人が造り出した建造物でね。僕は彼らの科学技術を解明したいんだ。その全てを手に入れたいんだよ」
彼はビームサーベルのスイッチを入れて詰め寄ってきた。振り下ろされたビームサーベルに片手剣を当てる、……が、恐るべき斬れ味で剣身が溶けていく。ギリギリのところで回避した。
相手の油断を誘うためとはいえ、買ったばかりの剣が壊されてしまった。
「今ので死なないんだ。キミ、なかなかやるねぇ。……この剣の斬れ味、すごいだろう。名前はビームサーベル。鍛冶屋で埃をかぶっていたものなんだ。見てよ。この無駄のない造形、人を殺す以外の全てが削ぎ落とされているんだ。人間の愚かさの極みがこの中にはぎっしりと詰め込まれているんだよ。美しいね。うっとりしてしまうよ」
青年の心に触れて邪神力が急激に高まっていく。
恐るべき悪意の持ち主だ。邪神の後継者候補としてキープしておこう。
と、そのとき。
近衛兵が指令室にやってきた。
「そこの男。魔王の心臓を盗み出した国賊の一味として逮捕する」
「ちょっ!? 行動が早すぎない。魔物の群れは無視したってこと?」
「巨大な魔物はこの町の領主が倒した。スタンピードはほぼ収束でいいだろう」
「近衛兵が来るなんて想定外だよ。降参だ。大人しく捕まるよ」
「犯罪者の戯言に付き合う気はない。ロックバレット」
彼らは一斉に石弾を飛ばして青年を気絶させた。そして町に平和が戻ってきた。
事情聴取から解放された俺とアネットは魔力の残滓を頼りに宇宙怪獣ジャギドの亡骸を回収しに向かった。頭部と腹部はすでに持ち去られていたが電動ノコギリ型の鋏は残っていた。
「……これ、高く売れるの?」
「いや、お金に代えるわけじゃない。今からこの鋏を使って怪人を生み出すんだ」
口内の肉を噛みちぎり、魔力を込めながら鋏に向けて発射。次の瞬間、肉片と鋏が融合して周りの地面を引き寄せて人型の生き物に変化した。
チェンソーの怪人が爆誕。
「英雄を導く最恐の怪人。名前はジェイソンだ。とりあえず悪い奴を片っ端から倒してきてくれ。まずは悪人を間引きたい」
「ウーッ、わるいやつ、ゆるさない」
「ほどほどにな」
陽が沈み、アネットを孤児院に置いてきた俺は一人で牢獄に侵入した。鍛冶師見習いの青年がどこであれだけの地球知識を手に入れたのか気になった。彼の背後には大きな組織が存在するのかもしれない。秘密結社クリプティックの子孫がいる可能性もゼロではない。
俺は蛇の姿で監守の目を掻いくぐり、牢獄の様子を確認した。
時すでに遅く、青年の死体が転がっていた。自害したか何者かに先を越されたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます