第20話 正式契約

『ヴェロニカさんの主な仕事は、主に二つ。まず、そこにいるミツルへの魔法指導。主に魔法の仕組みや、ビルド構築のアドバイスなどです』


「魔法の概念指導をヴェロニカに頼む、理由をお聞かせください」


『我が世界には魔法や魔力などの概念がないため、魔法に馴染みがありません。ヴェロニカさんの存在は大きいんです。もう一つは、我がヴィッカーズ研究所の、財政管理ですね』


 マリエの説明を、ロニの母親はコクコクと聞いていた。


「わかるんですか?」


「ヴィッカースさんとは、取引しておりますから」


 なら、話が早い。


 モニター越しでも、臆せず会話をしている。おそらく、同じような取引を、ギルドでも行っているのだろう。



 その後も、マリエは雇用形態など、逐一説明をした。


 住む家があって、メシが出て、仕事があって、金をもらえる。


「あらためて、ミツルさん。マリエさん。ヴェロニカをお預け致します」


 一通り聞いて、危なくないとわかったのか、ロニの母親はようやく落ち着きを取り戻す。


「この子はまだ子どもですが、自分の力を過信して暴走するほど、頭まで幼くはありません」


「は、はあ」


 うまいな。ロニをうまいこと、抑え込みやがった。

 

 これでロニは、もうヘタに動けなくなったぞ。


 ロニもわかっているのか、口数が目に見えて減った。


「それではヴェロニカ。あちらでも元気で。たまにでいいから、連絡をちょうだい」


「はい。手紙を書きます」

 

 こうして、正式にロニはうちの預かりとなる。


「ロニ、今日は実家に泊まりなさい。親御さんと話すことも、たくさんあるだろうし」


「いいよ。異世界、初めてでしょ? 道案内をする」


「それは、日を改めよう。もう遅いからな」


 時間はもう、夕方になっていた。


 異世界の宿ってのも、気になっている。宿泊の仕方を覚えておくのも、いいかもしれない。


「ウチに泊まっていけばいいのに」


「女性ばかりの家に、こんなオッサンが泊まれるかよ。じゃあギルドでな」


 オレとキナ子は、ロニの家を出た。


 適当な宿を見つけて、宿泊する。


 宿でやっている店で、メシにした。

 

「うん、うまい!」


 米粉の麺や、少し酸っぱめの鶏肉など、クセが強い。外観は西洋風なのだが、味付けは東南アジア系だ。でも、キライじゃない。むしろ、もっと異世界感があってもいいかも。


「オレたち地球人と、似た味覚でよかったぜ。虫が皿に盛り付けられているのを、覚悟していたくらいだし」


『その可能性は、低いでしょう。気候的に、可食性の虫がいる可能性がゼロに等しいです』


「そんな豆知識はいらん」

 

 ご丁寧に、ロニはおすすめの宿リストと、紹介状まで書いてくれていた。

 スイートとまではいかないが、それなりのサービスを受けられるらしい。


「すいません。ちょっといいか?」


 オレは、ホテルマンを呼び出す。チップも忘れない。初めてチップを使うのが、異世界とはね。海外旅行に行ったことが、ないもので。


「このホテルやら異世界やらってのは、地球からの冒険者もちょくちょく遊びに来るのか?」


 オレが聞くと、ホテルマンは首を傾げた。


「私どもは、見たことがございませんね。あなたが初めてかと」


「よその異世界も、そんな感じなのか?」


「我々は、こちらのことしか」


「ありがとう」


 更にチップを上乗せして、ホテルマンにお礼を言う。


「さて、明日から忙しくなるぞ」 


 違法ダンジョンの情報を、異世界でも集めなければ。

 


◆ 幕間 ロニの日記 その二 ◆



 中庭に出て、私は雪精犬ノーマンにエサを与える。地球産のドッグフードというものを、あげてみた。母が物産展で、買ってきたものだ。


 ジェラーノには度々物産展が行われ、地球産の物品が売買されている。

 

 母は珍しいものがあると、研究費として買い取るのだ。


 私の旺盛な好奇心は、母親譲りなのかも知れない。


「くううん」


 スンスンと匂いを嗅いだ後、ノーマンはガツガツとフードを食べ始めた。


「おいしい、ノーマン?」


 ワウワウ、と、ノーマンは私の顔まで舐め始める。


「これで、遊びな」


 私は、スケルトンの骨をかじらせた。ダンジョンで、倒したものである。


 ノーマンはガリガリと、スケルトンの骨を弄ぶ。


「お前とも、お別れだね」


「ワウン」


 私は告げると、ノーマンは寂しそうに鳴いた。私がいなくなることを、わかっているんだ。


「ダメだよ。お前は連れていけない。危ないからね」

 

 名残惜しそうに、ノーマンが身体を擦り寄せてきた。


「だから、今日は思いっきり甘えていいよ。ここで、いっしょに寝ようね」


 ノーマンを抱きながら、わたしは庭で横になる。


「寒くない? 温かいココアでも持ってきましょうか?」


「平気。ココアはお願い」


 私がいうと、母はキッチンへと向かった。


「ノーマン。お前は、お母さんを守ってね」


 白いノーマンの毛を撫でて、私はウトウトする。


 ココアの、いい香りがしてきた。


 母も、中庭のベンチに座る。


「今日は、お母さんも外でお話してもいいかしら?」


「うん」


 星空の下で、私は遅くまで、母に地球での出来事を話した。

 

 

(第二章 完)

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