世界にダンジョンができたせいでセミリタイアに失敗した男、冒険者になって無双
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一章 FIRE失敗民による、逆襲のダンジョン攻略
第1話 FIRE達成者、ダンジョンができて無事死亡……
「誰だよ! 全世界インデックスファンドを買っておけば安泰だ、って言ったやつ!」
ダンジョンへ向かう準備をしながら、オレはそう思った。
採掘道具になりそうなツルハシとスコップ、魔物解体用のナイフ……。
「携帯食はなににしよう?」
ツナ缶と焼き鳥缶でいいか。しぐれ煮もいいな。いや、水筒も足すと重くなるからいいや。
なけなしの資産を取り崩しつつ、集められたのは、これくらい。
キャンプ用品に毛が生えた程度の、装備一式である。
いっそ焚き火台とかも買っちゃおうかって、衝動的に思ったこともあった。荷物になるから、やめたけど。
富裕層はいち早く、【アイテムボックス】を買っていたな。異次元にアイテムを収納するため、軽くなる。だが、バカ高い。
まあいいか。こっちは「仕事」でやるんだ。多少の不自由は、仕様と考えよう。
かたやリッチ様は、「余暇」でダンジョンに潜っていらっしゃる。
住む世界が違うのだ。
「他人との比較は、病むからイカン」と、経済系YouTuberも言ってたじゃん。
「よし行くか」
オレは、家を出る。
ダンジョンのあるポイントへ、電車を乗り継いだ。
あーっ。バイクか車があったら、荷物を載せられて楽なんだけどな。
窓の景色に、山が目立つようになる。というか、ビルの周辺を土や木々が侵食していた。
コレこそ、ダンジョン化現象である。
ダンジョンは基本的に、発生に場所を選ばない。
世界にダンジョンができる現象、及びその影響による大恐慌を、人々は【ダンジョン・ショック】と呼んだ。
とはいえ、数年で株価が一定額回復したり、ダンジョンにまつわる治安・法律が整ったりと、ずっと以前からダンジョン侵食は始まっていたように思われる。
通称【ダンジョン・ショック】が起きて、数年。
財産の九割を全世界投資信託にブチ込んでいたオレは、路頭に迷った。
そんなヤツらは、オレだけじゃない。
オレは電車の座席に座りながら、SNSを覗く。
[FIRE失敗したので、再就職します]
[アメリカの死亡は、現大統領で予想できたけどさ。異世界がこっちに来るなんてな]
[それな。新型感染症リスクさえ、予測できなかったのに。こんなリスク、誰が想像できるんだよ? どんなアナリストでもムリじゃん]
[マジで投資の世界って、なにが起きるかわからんのな]
[転移してくるなら、ゲームの世界にしろよ]
SNSでは、オレのようなFIRE失敗民がウジャウジャいた。
出るわ出るわ、グチの嵐が。
[FIRE民、ざまぁ]という、ひがみの声も。
「うるせえ。日常的に、【自己責任】という言葉を浴びせられたこともねえくせに」
厚手の服に着替えながら、オレはひとりごつ。
「他人との比較、ダメゼッタイ」と言われても、ついついSNSを見てしまう。
内心、同族を探して、傷ついた自分を安心させたいんだろうな。
とはいえ、こっちだって氷河期の意地がある。
ダンジョンは、資源が豊富だと聞く。
また、ダンジョンで強くなると、元の世界でも健康を維持できるらしい。
ダンジョンに潜って、五〇代くらいの身体機能を得た七〇代もいる。
現に一攫千金を狙う低所得者たちは、こぞってダンジョンに入っているらしい。
オレも、その一人だ。
ダンジョンでできたツケは、ダンジョンに払わせる。
経済系YouTuberの一部も、「資産が目減りしているので、ダンジョン探索を始めた」と報告が。
配信者って、いいよな。そういう副業もできて。
垂れ流している配信では、「異世界の貴族令嬢様が行方不明になった」とか話題にしていた。
まあ、オレには関係ないか。
電車が、目的地についた。
この付近は、比較的初級のダンジョンばかりで、魔物も大した強さではない。
それでも、心霊スポットに行くような勇気が必要になる。
「近場で見ると、ゾッとするなぁ」
ここに入るのかよ、と。
「よしっ」
気を取り直して、冒険者ギルドへ。
さて、受付行くぞー。
カウンターに、受付のお姉さんがいた。
オレはカウンターから、記入用の書類を取る。記入用の机まで移動して、必要事項を書き終えた。
ほとんど、役所と変わらない。
たまに獣人の職員を、見かける以外には。
「あの。お願いします」
受付のお姉さんに、必要な書類を渡す。
「
オレは、手の甲にQRコードを印刷してもらった。
このタトゥーは、ステータスを視認できる装置だ。
コードを読み取らせると、バイタルやステータスをスマホで確認できる。
スマートウォッチを持っている場合、連結してAR表示も可能だ。
そのほうがかっこいいので、オレもそれに設定する。
このコードには、魔法を人間の体内に浸透させて、
「異世界の言語を話せる機能」が備わる。
また、異世界で手に入れた力を現実で使わせないように、リミッターの意味もあるのだ。
異世界からの使者が、友好的な人でよかったぜ。
さらに迷子時のアラーム機能と、死亡した際のシグナルにも使う。
「ありがとうございます」
「ソロでよろしいのですね?」
「はい。今のところは」
オレのような低所得者に、声を掛けてくるヤツはいない。
当分はソロでやれるだけやってみて、稼ぐか。
「武器を見ても?」
「結構ですよ。こちらです」
オレは、装備品売り場へ。
「ここは、武器と防具の店だ」
定型句のようなセリフを、店番の男性が口にする。
本物のドワーフが、店番をしていた。
「ドワーフの鍛冶屋さんって、実在したんですね?」
「といっても、オイラは見習いだよ。国に帰ったら、もっと腕のいいやつがいる。ささ、何を買うんだ?」
手頃なサイズのショートソードを、手に取る。
「これをください」
「あいよ。ありがとうな」
お金の管理も、手の甲でもスマート端末系でも、できるのだ。
「物々交換も可能だぜ、どうするよ?」
「じゃあ、これを」
魔物解体用のナイフを、差し出す。
「いいのかい? よさげなアイテムのようだが」
「構いません。ナイフの背で、火も起こせますよ」
オレはドワーフさんの近くにあった金床で、実践してみた。
「いいなそれ。割り引いてやる」
「大丈夫ですよ」
「そうかー。じゃあ、その分オマケしてやろう」
ドワーフさんは、ネックレスをくれる。禍々しいデザインのペンダントが、先についていた。蛇の目のようなデザインだ。
「【蛇毒の瞳】という、毒耐性が上がる首飾りだ。持っていきな。装備品はモンスターもドロップするから、すぐに更新しやすい。その点、こういうのは転売しにくい」
「ありがとうございます」
ドワーフさんと別れて、オレはフィールドに。
オレが訪れたダンジョンは、地下洞窟である。
元々の廃工場に穴が空いて、異空間につながった。
世界にダンジョンが現れたのが、今から五年前。
当時、オレは底辺労働者ボーイを抜けて、無事にFIRE到達と思えた。
FIREを目指した理由は、たった一つ。ゲームで遊ぶためである。
とにかく遊ぶ時間がなく、資産を増やしても虚無っていた。
ただ、金額が上がっていくのを眺めているだけの毎日。
気分転換に、ずっと遊びたかったハクスラゲー、【フュージョン・ワールド】を購入した。
資産を貯めきったら、思う存分ゲームがしたい。
その一心でゲームを進めつつ、金を貯めてきた。
クリアはしたが、フュージョンワールドはクリアしてからが本番である。
このゲームの本質は、アイテム堀りだ。
ハック・アンド・スラッシュゲーの本質は、強いキャラを作ること。
ようやく、報われる。全世界投資信託で、まったくスキのない布陣、と思っていたのに。
その世界に、変革が起きた。世界が異世界とつながって、そこらじゅうにダンジョンが現れたのだ。
主に廃ビルや取り壊された団地、かつて負の遺産と呼ばれたセクターなどを中心に。
カジノ誘致予定だった地区には、闘技場ができていた。
異界からの使者や環境に適応できたのは、ほんの一握り。
しかも、ダンジョンは日本に集中している。
結論から言うと、オレはFIREに失敗している。
どう考えても目減りのほうが多く、財産が五年も持たない計算だ。
どうして、こうなった?
こちとら、就職氷河期である。マトモな就職先もない中で投資に出会い、どうにか今日までやってきた。
投資額は複利の力で膨らんでいき、アッパーマス層の基準である三〇〇〇万まで到達する勢いだったのに。
世界の仕打ちは、これである。
全世界レベルで、株価は暴落した。
ダンジョンの管理も、ほとんど日本が担当している。気弱外交のせいで、余計に世界はパニックに陥った。
缶ジュース一本の値段が三〇〇円になるとか、温泉地かよと。
インフレに加えて、消費税もエグくなったのである。
右肩上がりが保証されていた全世界に投資するインデックスファンドも、右肩下がり中だ。
どこかが下がればどこかが上がることこそ、全世界投資の強みだったはず。
なのに、「異世界」は組み込まれていなかったせいで、だだ下がり中というね。
全世界インデックスに「異世界」が組み込まれるかどうかも、議論中である。
経済が安定するには、もう少しかかるだろう。
この現象は、後に「ダンジョンショック」と呼ばれた。
オレが狩る相手は、大量のスライムである。
「それ!」
ショートソードで、スライムを倒していく。
スライムには、物理攻撃が効きづらいという特性がある。
しかし、ショートソードの切れ味はスライムの柔軟性をものともしない。
無限に湧いていたスライムを、オレはあっさりと倒した。
「よし。確定。なにもかも、ゲームと同じだな」
この世界は、オレが遊んでいたハクスラゲーム【フュージョン・ワールド】と同じだ。
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