第8話 皐月の視線、芽依の気遣い
皐月との夜を過ごして以来、吾郎の心にはまた一つ、重く甘い秘密が加わった。結月との関係だけでも深い罪悪感を抱えていたのに、今度は同い年の姉である皐月と、家族には決して知られてはいけない一線を越えてしまった。その罪の意識は、吾郎の心をさらに複雑に揺さぶった。
そして何より、皐月の態度が露骨に変わったことが、吾郎をさらに苦しめた。家族でリビングに集まっているときも、食卓を囲んでいるときも、皐月は吾郎に熱い視線を送ってくる。それは、二人だけの秘密を共有していることの優越感と、吾郎を独占したいという独占欲が入り混じった、獣のような視線だった。
夕食の時間、吾郎は居心地の悪さを感じながら箸を進めていた。向かいに座る皐月は、吾郎のユニフォームの汚れ方について、楽しそうに話している。
「ねえ、吾郎。今日の練習、また転んだでしょ?膝のところが泥だらけだったんだから」
皐月がそう言うと、吾郎は「別に…」と曖昧に答える。その時、皐月は他の家族には聞こえないほどの小さな声で、吾郎だけに聞こえるように囁いた。
「…ちゃんと見てるからね」
その言葉は、吾郎の耳元で甘く響き、同時に彼の心を強く締め付けた。吾郎は、皐月からの視線に耐えきれず、顔を俯かせた。
そんな吾郎の異変に、おっとりしているはずの芽依が真っ先に気づいた。芽依は、静かに吾郎の顔を覗き込むと、他の家族の誰にも悟られないように、そっと吾郎の皿に肉じゃがを乗せた。
「吾郎くん、もう疲れてるんでしょ?無理しないでね」
その言葉は、吾郎の心に深く突き刺さった。芽依は、吾郎の身体的な疲れだけでなく、心の疲れにも気づいているようだった。その優しさが、吾郎の罪悪感をさらに深くえぐった。
食事が終わり、吾郎は逃げるように自室へと向かった。ドアを閉めようとすると、芽依がそっと吾郎の部屋に入ってきた。
「吾郎くん、大丈夫?」
芽依は、吾郎の顔を心配そうに覗き込む。吾郎は、芽依の優しい瞳に、自分の罪が映し出されているような気がして、思わず目を逸らした。
「大丈夫だよ、芽依姉さん。ちょっと、疲れてるだけだから」
吾郎がそう言うと、芽依は吾郎の手をそっと握った。その手は、温かく、柔らかかった。
「無理しなくていいんだよ。吾郎くんは、一人で抱え込みすぎるところがあるから」
芽依は、吾郎の顔をじっと見つめながら、そう言った。その瞳には、吾郎を深く理解しようとする、強い意志が宿っていた。
吾郎は、芽依の優しさに触れ、心が温かくなるのを感じた。しかし、同時に、結月と皐月、そして芽依という三人の女性との間で、自分の心が揺れ動いていることに、吾郎は気づかされる。
吾郎は、芽依の優しさに甘え、彼女の身体にそっと身を寄せた。芽依は、吾郎の行動に驚きながらも、吾郎を優しく抱きしめた。
「吾郎くん…」
芽依の甘い声が、吾郎の耳元で響く。その声に誘われるように、吾郎は芽依の唇に自分の唇を重ねた。
そのキスは、結月との情熱的なキスとも、皐月との力強いキスとも違っていた。それは、温かく、優しく、そしてどこか切ないキスだった。吾郎は、芽依とのキスに、心が安らぐのを感じた。
二人は、しばらくの間、静かに抱きしめ合った。部屋の中には、二人の吐息と、かすかな温もりが満ちていた。
吾郎は、芽依を抱きしめながら、静かに目を閉じた。それは、新たな罪悪感と、新たな快楽の始まりだった。
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