自由のはじまり
【sideルシアン2世】
僕はルシアン・オーレリアン・ド・サン・リュミエール2世。
随分長ったらしい名前の主人公だ。
光の侯爵領であるリュミエール家の嫡男。
つまり、ここアルセリオ帝国の未来の選帝侯だ。
つまり、選帝することも、されることもある。侯爵さまにも、王様にもなれる立場。
実質、王子さまな貴公子。
おまけにテンプレート通りの金髪碧眼。
誰も、僕のこと名前で呼ばない。
長すぎるんだろうな。殿下、あるいは王子と呼ばれた。父上や母上ならば、きちんと呼んでくれるのだろうけど、お二人は忙しい。
そんな、滅多に呼ばれるものではない。
なんだかなぁ。
真面目であれ!
なんでもできるようにおなりなさい!
別に文句はないけど、息が詰まる。
王子さまってずいぶんと、肩身が狭い立場なんだね。童話ならこんな時……お姫さまなら、魔法使いだか、王子さまが助けに来てくれるらしい。
この程度のこと、しかも、王子のことなんて、助けてくれないんだろうな。
むしろ、助けなさいって怒られる。
なんだかなぁ。
モヤモヤした気分の時、初代は森に出かけたらしい。まあ、ありがちな癒しだ。
小鳥やリス、木漏れ日って癒されるもんね。森とまでは行かないけど、木でも眺めようかな。鳥くらいはいるだろう。
屋敷の外れの林檎の木。
5mくらいかな?秋には林檎も実る。
誰も来ないし、いい気分転換の場だ。
いや、今日に限って誰かいるなぁ?
木の上に、髪を靡かせて歌っている子がいる。光を受けて、髪や身体がきらきら光っているように見える。
澄んだ声をしていて……とても、綺麗だ。
鳥が自ずと集まってくる。
君は……誰? もしかして、精霊?
それなら、契約すれば魔法使いになれるかな?魔法が、使えれば救われるかな?
日差しと君が眩しくて、思わず一瞬目を閉じた。
あれ?
次に目を開けると、林檎の木には誰も、
いなかった……幻、だったのだろうか?
「待って、精霊さん……!!」
【sideシャルル2世】
ルシアンは真面目そうな顔して意外にねぼすけだな。
ルシアン「うぅん、精霊さん……まちが……た。シャルル? シャルルゥ?」
うん、本当に夢に見るなんて器用な子だな。私には真似できないよ。
悪いけど、朝だし、起きてね。
ちょっと、気分が悪いから、多少は乱暴でも、構わないよね?
シャルル「はい、はーい、あなたのシャルルですよ。おはようございまーす!」
やや、乱暴に布団を引き剥がす
ルシアンは、ベッドの端にころころ転がって驚いて目を開ける
「……ほんとに、いる……」って呟いた。
幻だったのか、夢だったのか、現実だったのか──わからない。でも確かに、僕の精霊は、今ここにいた。
んん?なんか、ぼそぼそ言ってるけど聞き取れないなぁ。
シャルル「寝ぼけてるなら、冷やしましょうか?」用意した濡れタオル片手に目元を拭って笑う。なんだか、涙目になってるね?
悩み事?それとも悲しい夢だったのかな。
まぁ、侯爵子息で未来の選帝侯だもんね。
何かしら、重圧やら思い悩んでいること、あるんだろうね。
嫌なものだな。生まれつき、何になるか決められてしまうなんて。そんなことで、悩んだり、馬鹿にされたり。
ましてや、卑屈になるなんて、死んでもごめんだ。いつだって自由でありたいし、この子もそうであれば、いいね。
「私は自由でありたい」心の中でそっと呟く。
シャルル「ほら、朝食の時間ですよ。食べて元気出してください」
ルシアン「……シャルルは自由だね?」
シャルル「ルシアンは、自由じゃないの?」あ、うっかり敬称つけ忘れた。……なんで、嬉しそうに笑うのかな?
変なやつ。でも、その笑みは──不思議と、私の胸を軽くした。
いやいや。私はよくできた従者ですよ。
(その笑みひとつで、胸が少し、軽くなるなんて──あり得ないでしょう?)
【sideルシアン2世】
ルシアン「……時々、シャルルって、すごいわかりやすい、というか。可愛いよね」
シャルル「減らず口を叩くのはよしなさい」ピシャリと、言い放たれた。
ルシアン「真顔で怒らないでよ、怖いな」
──地雷でも踏んだかな。氷みたいな表情の上に、声音も揺らぎひとつない。まるで猛吹雪だ。
ツンドラ?
なんだよ、幼馴染ならツンデレになれよ。……畜生。
「──ツンドラモード発動。僕の精霊さん⭐︎は氷属性も使う……今日の日記に、書いておこうか」ルシアン談
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