短編〜過去作置場〜

綿詩あや

イヤホン・デイズ(仮)

僕らの世界には、死んだことを理解していない人間が多数いるらしい。 普段は人に見つかることもなく、生前と同じ行動を繰り返している。


例え幽霊でも、話しかけた人間から反応がなかったら、自分が死んでいるって気づくと思うだろ?

だけど、あいつらの脳内では、相手は自分のことを認識してて、さらに会話までしてることになっているそうだ。


故に、気づかない。


傍から見れば生きてる人間と遜色ないが、

一人芝居をしているように見えることが多い。


そんな世界が視えている僕の、

小さな物語を話そうか。


ーーーーーーーーーーーーーー


僕の朝はいつも1人だ。

単身赴任で父さんは長いこといないし、

母さんは数年前に病気でこの世を離れている。


一人でいる時間が長い分、朝ごはんは手馴れたものだ。今では、お昼のお弁当を準備しても、時間にお釣りがくる。



出来立ての朝食をテーブルに置き、テレビをつけて情報番組を流す。ニュースやトレンドを聞き流しながら、トーストを齧る。


コーヒーは馴染みの喫茶店で買った豆を、毎日ミルで粗めに挽き、ペーパードリップして飲む。唯一と言っていい、僕が欠かすことのない習慣だ。



一つ言い忘れたが、僕の家には

毎日怪奇現象が起こる。

それも、こんな早朝からだ。




ー7:30ー 僕が朝食を食べ終え、台所で食器を洗っていると、必ずヤツはやってくる。



ーードスンッ。



2階の僕の部屋で、重たい何かが落ちる音がする。

少し間を開けてから、キィ…と、ゆっくり扉が開く音がする。



ーーダダダダダダダダダッッ



部屋を出る音と同時に、ものすごい勢いで階段を駆け下り、廊下を走り抜け、こちらに向かってくる。


扉は荒々しく開けられ、現れたヤツは迷いもなく台所にいる僕の〝ポジション〟をめがけて、突進してくる…。 もちろん、逃げ場などない。


僕の少し手前でヤツはジャンプし、まるで獲物を捕らえる猫のごとく飛びついてきた。



「おかーさーん!!!

今日の朝ごはん何ーーっ?」

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