祝福

銀の鍵

第一章『解光』

ProLogos

『この世界は現実だ。ただし、現実のカタチをしていない』


――――――――


「ときに、少年。――なんて聞いたことはあるかい?」


 シンクを叩く水音。積み重なった皿を洗う手を止めたのは、そんな言葉だった。


 クッソウ。突然投げ込まれた奇妙な響きに、漢字と意味を与えるべく考える。

 考えて、頭に浮かんだのは、どうにも剣吞けんのんな単語一つだった。


屈葬くっそう……ですか?たしか大昔の葬式ですよね。日本史かなにかの教科書で見たような」


 単語が掻き立てるイメージはひどく曖昧だったが、およそリビングで飛び出すような代物でないことはわかる。もっとも、人のカタチをした「非日常」を前に、そんな常識をかざす意味があるとも思えなかったが。


 一拍おいて、問いの主は答える。ソファーに鎮座する姿はスフィンクスのようにも見えた。

 「謎好き」ということで言えば、たしかに遠からずかもしれない。


「ご名答。屈葬――死体の手足をたたんで葬る、単純で明快な死者へのはなむけさ」


 そう言って。


 稀代の名探偵は、少年のように笑った。

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