第一章 遭遇②

2.

 半日後。やや日が傾いてきた夕刻、パーティーは目的の遺跡にたどりついていた。遺跡までの道のりは簡単だった。途中までは街道に沿って歩き、その後には森に入ったが、森では木々に目印となる紐が巻きつけられており、迷うことはなかった。『探し屋』のドーソンは、きっちりと仕事をするタイプのようだ。

「これが魔導機文明時代の遺跡か……」

 ブルーアイが興奮気味につぶやく。目の前の地面には、最近できたばかりと思われる直径1mほどの穴が開いていた。オレンジ色の陽光に照らされた穴の底には、明らかに人工的なものと思われる石造りの床や壁が見えた。地面にあいた穴は、遺跡の通路の天井部分にあたるようだ。

「中は暗そうですね。わたしとダグは暗い中でもものが見えますが……」

 そう言ってトレイシーが、ブルーアイに目を向ける。

「ボクには何にも見えないから、たいまつをつけよう。ボクは武器が使えないから、たいまつはボクが持つことにするよ」

「わかった。では早速進もう」

 ダグの言葉を合図に、三人は意を決して、穴の中へと飛びこんだ。


 遺跡の探索は、順調に進んだ。

 降りたった通路から少し進むと扉があり、それを開けると5m四方の部屋があった。扉に罠はなく、鍵もかかっていない。初めての遺跡探索に緊張していた三人には、やや拍子抜けなくらいだった。たいまつで照らしてみると、部屋は倉庫のようで、金属製のラックに用途不明の機械の部品とおぼしきものがずらりと並んでいた。三人にはそれらの価値はわからないが、無造作に置かれている様子からは、それほど価値のあるものはなさそうだった。

「これは、なんでしょうね?」

 ふと、トレイシーが声を上げた。部屋の中ほどに設置されたテーブルの上に、細長い木箱があった。長い辺が30cmほど。フタは開いていて、中には布がつまっている。

「布の上に……何かがあったのかも」

 布は、不自然に凹んでいて、ちょうど長さ20cmほどの細長い何かが収められていたように見える。考えてみれば周囲の部品にうずたかく積もっているホコリが、この箱の内部にはまったく見られないようだ。

「つまりこの箱は最近開けられて、中の何かが持ち出された、ということのようですね」

 トレイシーはそう結論づける。もしかしたら中身がどこかに落ちていないかと周囲を見回してみるが、それらしいものは見当たらなかった。

「めぼしいものは探し終えたかな。あとは……あの扉だね」

 ブルーアイが、部屋の奥を指さす。この部屋に入ったときの扉とちょうど反対側の壁に、そっくりな扉がもうひとつある。

「では、開けてみましょう」

 トレイシーがおもむろに扉に近づくが、扉の奥から何か音が聞こえて立ち止まった。

「奥から何か聞こえます……これは、機械の駆動音?」

 ウィーン……ドゥルルルルル……ウィーン……

 他の二人も近づいて耳を澄ませてみるが、確かに何かが動いているような音が聞こえている。

「何かがいるみたいだ……もしかしたらあの箱の中身を持ち去ったものがいるのかも……開けてみるか?」

 ダグが振り返って残る二人に尋ねる。そのときに、ブルーアイが持つたいまつが目に入った。

「何かがいるのだとしたら、そのたいまつは消した方がいいかもしれない」

「でも、これがないとボクは何も見えないよ?」

 ブルーアイが不安げに言う。

「そうだな。でも、オレとトレイシーは見える。たいまつをつけたまま行くのと、消してから行くの、どっちがいいかな」

「相手も、暗闇で目が見えるかもしれないですよ」

 腕を組んで考えはじめたダグに、トレイシーが言う。ドワーフにエルフにルーンフォーク。人族の中にも、暗視が効くものは多い。モンスターならさらに多様だろう。

「まぁ、逆に向こうが灯りを持っている可能性もある。でも、もし真っ暗闇にたいまつを持って入ったら、格好の的になってしまうな」

「君たち二人が見えるというなら、任せてもいいな。見えなくても君たちを魔法で強化するくらいならできると思うし。たいまつは消していこうか」

 ブルーアイがそう提案すると、ダグがうなずいた。

「うん、そうしよう。いざとなれば、オレが守る」

「わかった」

 ブルーアイがたいまつを消すと、あたりは暗闇につつまれた。だが、ダグとトレイシーには、目の前の扉がはっきりと見える。二人は顔を合わせてうなずき合うと、ゆっくりと扉を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る