第6話 来る村人たち
とある娘が私の前に跪き、顔を下に向けたまま泣きながら言いました。
「私は3度、無視をしました。」
と、声を震わせながら言うのです。
その娘は、人間たちの世界ではどうやら美しくはないそうでした。よく私の眼の前でいじめられていたのです。毎日同じ服で洗っても汚れは落ちず、髪は水で洗っているのでごわついていました。それでも私は他の人間と同じように見えるのです。
娘は続けます。
「一つは誰かが通ろうとしたときに気づけず、私が先に通り過ぎました。その人は杖を使っても歩くのが困難なおばあさんでした。あろうことか私は心の中で、通るのか分かりにくいな、と思ってしまいました。きっと立ち止まるのも困難だったはずです。
二つは音楽を頭の中で流しながら、地図を見て歩いていたときでした。
すみません、と勇気を出して震えながら道を聞いてきた女性に気づかずに、そのまま歩いていました。一瞬遅れて気づきましたが、今更遅いと思って無情にも歩き去りました。あそこは都会だたので、ずっと無視され続けたことでしょう。無視される悲しさは知っているのに、相手にそれをさせました。
三つは紙ゴミでした。見覚えのあるゴミで、もしかしたら気づかないで落としたのか?と思いました。けれど、前から落ちているようにも思えて、考えているうちに、汚いから拾いたくないと結論を出して、そのまま放置しました。もし私が落としたゴミだとしたら?
私は何もしなかったのです。
でもその日は私は知らないおばあさんに優しさをもらいました。
店でごはんを食べていたときのことです。
そこでは自分で食べた器を返却口に返す、という仕組みでした。でも私は初めて入るので知らなかったのです。
そこで隣の、何かを呼んでいるおばあさんに、これは自分で返すのか聞きました。彼女は親身に、優しく聞いて、そして答えてくれました。
一つ目の道を譲ってもらったときもそうでしょう。
私は二度、優しさを受け取りました。
ですが誰かに優しさを返しませんでした。
しかもそれを苦にも悔いもしていません。
なのに許してほしいのです」
と言い終えた後は娘は泣きました。
私はどうしたらいいか分からず、ただ娘を見つめていました。人間はそれだけでいいのです。私が見つめているだけで、勝手に救われ立ち去っていく。何を言うこともすることもしなくとも。
けれど私は思うのです。
娘もまた、他の人間と同じだと。
次の日、私の前におばあさんがやってきました。
花柄のワンピースがよく似合う、きれいに日焼けしたげんきなおばあさんでした。
「私は罪を犯しました」
と崩れるようにしゃがみこみながら言います。
「私は今日、目の見えない人に自己満足をするためだけに声をかけました。
彼は杖をついて一人で歩いていたのです。道は広いですが車もたまに通り、地面はがたがたです。
眼の前に電柱がありました。
そこで私は、危ない、と声をかけました。
でもその必要はなかったのです。彼らは一人で長年そうやって生活してきていたのです。そう、本来は必要のない、ただのおせっかいでなんでしたら侮辱行為でした。
それをしたのです。
彼は私のために立ち止まり、私が離れると歩きました。そして電柱を杖で確認して、避けて歩いていきました。
私は今日も人を侮辱しました」
と言うのです。
おばあさんはしくしくと静かに泣いて、立ち去りました。
ここの村人たちは私に罪悪感や許されたい想いなどを置いていきます。けれど私には人間とは繊細すぎて、傷つけ合うもので許すということはよく分かりません。
私の何もしない、できない、という罪は誰に許してもらえばいいのでしょうか。
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