第16話 暴かれた目論見

 赤く光るフェデリコとモニカの解答用紙をギルド職員が回収し、無表情で確認し始める。


 その顔は段々と険しくなり、解答用紙自体の採点に間違いがないことを確認すると、今度は逆に目から光が消えた。


 一体何事かとその様子を見守っていると、ギルド長が扉を開け中に入ってくる。


 そしてフェデリコとモニカの解答用紙を確認すると、何とも言えない顔で眉間に皺を寄せた。


「ここまでとはな……」


 ギルド長もフェデリコとモニカの噂は知っていたが、予想以上に酷い試験の点数に暫し言葉を失う。


 どこからこんな答えが出てきたと首を傾げるしかない解答が並ぶ解答用紙に、絶句してただただ呆れるしかない。


 魔術薬ギルドである以上、試験は魔術薬に関する内容になる訳だが、どのような症状に効果がある術式かと問われ、戦闘系の魔術か何かかとしか思えない解答が多いのはどういうことだろうか。


 薬草の問題では、聞いたことがない名前が並んでいる。


 当然魔術薬ギルドで把握していない薬草に関する問題など出題する訳がない。


 何故このような解答になるのかと、理解に苦しむものばかりだった。


 それなのにフェデリコとモニカは、やたら自信満々な表情で得意げにしている。


 二人の解答用紙は不合格を示す赤色に光っているというのに、それを理解していないのだろうか。


 兎に角結果を知らせるしかないかと一つ息を吐くと、フェデリコとモニカに視線を向けた。


「フェデリコ・ガブレイト様とモニカ・アグイスト様は合格基準に達しませんでした。よってモニカ・アグイスト様には魔術薬の術式を開発するだけの実力はなく、特許を取得するのは不可能だと判断致しました」


 ギルド長は表情を引き締め、抑揚のない声でそう告げる。


 するとフェデリコとモニカは表情が一変し、烈火の如く怒り狂った。


「何で俺達が不合格扱いなんだよ! 俺は五点しか間違えてないんだぞ! どう考えても高得点で合格のはずだろう!!」


「私なんて三点しか間違えていないわ! それなのに不合格なんて有り得ない!!」


 二人のどう考えてもおかしな言葉に、アイリーン達は訝しげな目を向ける。


 解答用紙は赤く光っているのだから、間違えたのが五点や三点なはずがない。


 魔術薬は身体、言ってしまえば命に関わるものなので、魔術薬ギルドの試験は百点満点中九十点以上と合格点が高めに設定されている。


 なので間違えたのが十点以内であれば確かに合格ではあるが、学園でもそれぞれ学年最下位を独走する二人にそんな高得点が取れるとは考えられない。


 まさかと思い嫌な予感がするのと同時に、ギルド長が二人に冷めた視線を向けた。


「この解答用紙に表示されている点数は正解した問題の点数を合計したものです。間違えた点数ではありません」


 やはりそうだったかと頭を抱える。


 基本的に試験の点数は正解した問題の点数を合計したものであり、学園の試験でもそれは同様だ。


 まさか学園の試験でも今回と同じように考えているのだろうかと目眩がしそうになった。


「そんなはずはない! 優秀な俺達が五点や三点しか取れない訳がないだろう!!」


「そうよ! 私達がそれだけしか正解できないなんて有り得ない。だからそれは、間違えた分の点数なの。そうじゃなきゃおかしいわ!」


「お二人がどう考えようと、この点数は正解した分の点数ではあることに間違いはありません。よってモニカ・アグイスト様に魔術薬の特許を取得するなど不可能、アイリーン様が貴女からそれを奪うなど有り得ません。奪うもの自体が存在しないのですから」


 自分達に都合のいい持論を展開し始めた二人の言葉を遮るように、ギルド長は淡々とそう告げる。


 それを受け入れることができない二人は、彼を大声で罵り続けた。


 そんな二人を止めようと口を開こうとすると、ギルド長にそれを目線で制止される。


 それで仕方なく状況を見守っていると、ギルド長は二人に鋭い視線を向けた。


「お二人がどう思われようと、モニカ・アグイスト様に魔術薬の術式師となれるだけの実力がないと判明した以上、特許の権利に関する主張は認められません。これ以上の異議を唱えるのであれば、魔術薬ギルドとしても相応の措置を講じます」


「どういうことだ、それは!」


「だからそれがおかしいって言ってるでしょう!? お姉様が持ってる魔術薬の特許は私のものなの! だからお姉様の個人資産は、全て私のものになるべきなんだから!!」


 厳然とした態度で自身が下した判断を突き付けるギルド長に、二人は懲りることなく顔を真っ赤にして噛み付く。


 そんな二人を見ていたアイリーン達は、モニカの言葉にやはりそうだったかと冷めた目を向けた。


「成程、それが狙いでしたか」


「何よそれ! どういう意味!?」


「貴女がアイリーン様の個人資産を渡すよう何度も魔術薬ギルドに要求していたことは、私にも報告が来ています。貴女にアイリーン様の個人資産を奪うことはできません。残念でしたね」


「何ですって……!」


 ギルド長の嘲笑うような言葉に、モニカは憎悪の目で睨み付ける。


 だがギルド長はがらりと表情を変えると、モニカを底冷えしそうな冷淡な目で見据えた。


「これ以上騒ぐのであれば、王宮騎士団に捕らえるよう訴えます。何せ魔術薬の特許と個人資産を不正に奪おうとする行為ですからね、それが可能なのですよ」


「なっ…! 分かったわよ、帰ればいいんでしょ、帰れば! でも絶対に諦めない。今日はこれで引き下がってあげるけど、絶対に諦めないんだから!」


「あっ…、おいっ、モニカ!」


 悔しそうにギルド長を睨み付けた後、モニカが荷物を置いたまま走り去っていく。


 それを同じように荷物を忘れたまま、フェデリコが慌てて追いかけていった。


 それを呆気に取られて見送った後、アイリーンとテオドールはギルド長に近寄る。


 そして揃って深く頭を下げた。


「ギルドの皆様には多大なご迷惑をお掛けしました。深くお詫び申し上げます」


「いえ、お二人が謝罪される必要はありませんよ。どうか頭をお上げください」


 ギルド長は困ったように微笑むと、アイリーンとテオドールにそう促す。


 それに従い二人が頭を上げると、彼は労わるような眼差しを向けてきた。


「今回の結果は魔術薬ギルド本部に報告し、支部を含めた全てのギルド長で共有することになります。何せ特許に絡むことですからね」


「そうですか、承知致しました」


「それにしても全問正解とは流石はアイリーン様ですね。今日はお疲れでしょうから、また後日改めてお話しする機会を頂けますでしょうか?」


「私はいつでも構いません。ですが……」


 そう言ってエミリオを振り向く。


 するとすぐ後ろにいた彼はふわりと微笑んだ後、真剣な面持ちでギルド長に視線を移した。


「私達も同席させてほしいのだが、構わないだろうか?」


「勿論です」


「アイリーンに同席するのはここにいる三人だ。学園が終わった後や休日であればいつでも構わない。ギルド長の都合に合わせよう」


「承知致しました。連絡はどちらにすればよろしいでしょうか?」


「それは私の方へお願いします。平日は遅くまで学園におりますのでそちらへ」


 ローレンスがそれを引き受け、フェデリコとモニカの荷物を回収すると魔術薬ギルドを後にする。


 帰りも多くのギルド職員達に労わるような目を向けられ、何とも言えない気持ちになった。


 フェデリコとモニカの二人には色々と物申したいことがあるが、兎に角今は精神的な疲れが酷く少し休みたかった。


 だが今後二人が何を仕出かすかと考えると、のんびりなどしていられない。


 二人が勝手に自滅するだけならば構わないが、他に害が及ぶ可能性が高い以上、何も手を打たない訳にはいかないのだ。


 そんなことを考えているうちに邸に着き、同じく休日だったレオンに迎えられる。


 まずは今日のことを家族に報告だろうと、両親が待つ書斎へと向かった。

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