これから
「こ、これからどうするんです?」
「ん? ああ、音操と一緒に旅をする……」
「いいですね! これまでずっと苦しめられてたんだから、自由を謳歌してくださいね!」
「と、思ってたんだが……」
「?」
「若熙。お前、俺の事が好きなんだって?」
「えっ!? あ、いや、あの、その、えっと、あの、だから、いや……その、ちが……」
「正直者だな、お前」
全部聞かれていたわけだから、告白も聞かれているのは当然のこと。
まさかの言葉に全身が一気に熱を帯びる。
しかし。
「あ、あの、確かにあたしは憂炎様が好きなんですけど、どっちかって言ーと、残虐帝時代の憂炎様が好きで……あ! 今の憂炎様を否定するわけやないですよ!? 野性的な魅力あって、好きな人は好きやと思います!! でもあたしは、なんちゅーか、こう、一見冷ややかなのに実はギラギラしてて胸に熱いものを秘めてる男が好きなんです!」
「お前、大人しそうな顔して結構やべーのな……」
そう、若樹が好きなのは死んでしまった残虐帝。クールな孤高の一匹狼な憂炎が好きだったのだが、今の姿はそれと真逆で、ガサツで野性味が溢れている。勿論嫌いなタイプではないが、長年拗らせていた残虐帝はこうであるという
「おかしいのはわかってますぅ。しょうがないでしょー。人の好みはそれぞれですぅ」
「なら、やることがなくなってフラフラする俺は好きじゃねぇってことか? 自分で言うのもなんだが、見た目は悪くねぇぞ?」
「た、確かに憂炎様の容姿はあたしの好みど真ん中なんですけど! でもそれはそれで逆に好みが全て揃い過ぎてて、あたしなんかじゃ釣り合わないし……ほんま神々し過ぎて触るのも勿体無い……憂炎様が汚れてまう……」
「逆じゃねぇか、それ。なんてったって俺の全身は数千人近くの人間の血に染まってるからな」
「戦争やったんやから仕方がないやないですか。趣味で人殺ししてた訳や無いんですし」
「起こしたのは俺だぞ?」
「小難しいことは正直わからへんけど、憂炎様が起こさんくてもいずれは起きてたんでしょ? やられる前にやるのは必勝法やって兄ちゃ……兄も言ってましたし。終わり良ければ全て良しですよ」
聞く人が聞けば激怒もののセリフである。だが今の若樹は前世の意識のほうが強く、以前の若樹の記憶はあるものの、戦争のことも含めて対岸の火事の如く関心は薄い。前世日本人の事なかれ主義が強く影響しているようだ。
「兄がいるのか?」
「はい。あと弟もおります。両親と兄と弟の五人家族なんです」
「何をしてるんだ?」
「父と弟は呉服店を、母と兄は飲食店を営んどります。あたしは両方を手伝ってた感じですね」
「へえ……仲は良いのか?」
「めっちゃええです。父と兄と弟の口癖は『嫁に出したくない』でしたから。母はあたしがちょっとお転婆過ぎて嫁に出したくない言うとりましたけどね」
「ほう。嫁に出したくない、か……。仲が良くて羨ましいな」
そう言って遠くを見るように笑う。在りし日の家族を思い出しているようで、その表情を見て無神経な発言に気づき、再び土下座する。
「すみません! どうでもいいあたしの身の上話なんかしちゃって……!!」
「いや、頭を上げろ、若樹。どうでも良くはないぞなんてったって。これから婿入りする予定だからな」
「え? もう結婚相手決まっとるんですか!? おめでとうございます!!」
憂炎から出た目出度い言葉に、ぱあっと華やいだ顔をあげる。憂炎はそんな若樹の笑顔を見て眉間にシワを寄せた。
「……お前。……俺のこと好きなんだよな?」
「え? あ、はい」
「ならなんで……俺が結婚するって聞いて喜ぶんだ? しかも相手が誰かもわかんねぇのに……」
「え、だって憂炎様がお選びになって女性……いや、御方ですし。あたしが口出しする権利も理由もありませんし」
「なんで女性から御方に言い直したんだ? 女に決まってんだろ」
「それは失礼しました」
音操の顔が浮かんでいたとは口が裂けても言えない。
「とにかく、あたしができるのは祝福の言葉……あ、ご祝儀もできる! 今手持ちはないんやけど、部屋に父から送られてきた諸々あるんで、今度お渡しします! これまで頑張った分、是非そのお方と幸せになってくださいね!!」
「ほー、そうかそうか。なら、幸せにしてくれよ、若樹」
「へ?」
少々噛み合わない会話にきょとん、と目を丸くする。何故今自分の名前が出たのか。若樹は見当もつかない。
そんな鈍感な様子を見せる若樹に対し、憂炎はニコニコと笑っているが口元が引くついており、何故か苛ついているようにも見えた。
それでも何も言わない憂炎に、意を決して疑問をぶつける。
「……ちょっと理解不能なんですけど、なんで今あたしの名前が出はったんです?」
「そりゃあお前、俺も若樹に惚れたからだ。両思いなら、夫婦になるのは道理だろ?」
「…………………………はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
本日三度目の若樹の絶叫が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます