⑲天窓ありかの初コラボ
「おし、ありかっちののLive2D画面共有もおっけーっと。んじゃ、音量調整するから配信と同じくらいの声量でちょっと喋ってみてくれる?」
「は、はーい。こんばんは、ぼく天窓ありかでーっす。……こんな感じでいい?」
そんなこんなで、天窓ありかと
今の時刻は19時30分。配信は20時開始予定だけど、2人は事前の準備や流れの確認のためにちょっと早めにDiscordに集合していた。
ライカはいつもよりちょっと緊張した様子で、手を膝の上に置き、ぴんと背筋を伸ばしてレトと通話している。そして私はというと、横でVTubeStudio(Live2Dモデルを動かすトラッキングソフト)を操作しながらその様子を見守っている。流石に普段よりも少し表情がかたいけど、これまでの経験を活かせばきっとうまくできるはず! がんばれ、ライカ! 熱視線をびびびと送っちゃう。
「今日の配信内容の確認だけど、2人でお便りを読みながら雑談するって感じ。どうせならうちの得意なFPSを遊ぶーとかでも良かったんだけど、ありかっちってばゲームのこと全然知らないのね。」
「う、うん……お父さm……さんが厳しくって。」
「あー、そういう家庭あるよねえ。うちも実家いたころは全然ゲームさせてもらえなくって。で、その反動でいまハマっちゃってる。ありかっちもVTuberになったんだし、ゲーム配信にも興味はあるんでしょ?」
「うん、他の人がやってるとこ見るのはすごい好き……えふぴーえす? っていうのも、そのうちやろうかなーなんて……あはは。」
「いいじゃんいいじゃん! ありかっちもやってみたらきっとものすごい勢いでハマるよー? こっちの沼においでおいでー。」
レトの想像してる「家庭」と実際のライカの「家庭」はおそらく全然違うんだろうけども、不思議と話はなんとなく噛み合ってるようだ。
「よっと、今日届いてるマシュマロはこんな感じね。配信中はこれを読みながらお喋りしてくんだけど、なんかNGなのとかある?」
「た、たぶん大丈夫……だと思う。」
「まーだちょっち緊張してる? じゃあそうだなー、"最近ちょっとショックだったな"ってこと、ありかっちはある?」
画面に映し出された10個ほどのトークテーマから、レトはありかに話題を振ってくれた。自然な流れで軽いリハーサルがはじまる。
……この銃堂レトって子、デビューしてまだそれほど経ってないって話だったけど、それにしては受け答えや下準備がずいぶんしっかりしてる。いざ本番が始まって質問の内容が答えにくかったり地雷だったりしないよう、ちゃんとトークテーマを事前共有するなんて新人とは思えない。意外と歳いってる? もしかしたら社会人かも? 私は頭のなかのレト像を少し修正する。
「最近ちょっとショックだったこと? うーんと、うーんと……あ、元いた世界から追放されたと思ったら、VTuberやることになってた、とか?」
「あはは、いいじゃんいいじゃん! ロールプレイガチ勢だねぇ、ありかっち。」
「ろ、ろーるぷれい? ……っていうのは分かんないけど、とにかく本当にびっくりしたんだから! でも、初めてみたらすごい楽しくって……えへへ。」
なんかいい感じに勘違いをしてくれたっぽくて、聞きながらほっと胸を撫で下ろす私。ちなみにレトの言ってた"ロールプレイ勢"っていうのは、キャラクター設定を作り込んで、そのキャラを演じる要素を強めにやるタイプのVTuberのこと。VTuber黎明期にはけっこう見かけたんだけど、最近はストリーマー路線のVTuberが増えて相対的に数は減ってしまっている。
「そりゃ良かった。まずは楽しむのが一番だよね。」
「うん、良かった!」
「うんうん、しかも、うちみたいな美少女とも友だちになれたし?」
「い、いや、そこまでは言ってなくない!? っていうか友だちって……!」
「えー、うちはもうとっくに友だちのつもりだったけどなー? それとも、うちなんかが友だちじゃ嬉しくないっての?」
「う、ううん。嬉しい……。とっても。そっか、友だちかぁ……。」
そういえばライカにとっては、こっちの世界に来て初めての友だちになるのか。もともといた世界で友だちがいたって話も聞いたことないし、そりゃ嬉しいよね。
私は友だちっていうか保護者(?)みたいなもんだし、ちょっとだけ嫉妬しちゃう、なんて。
そうこうしているうちにあっという間に20分が経ち、2人のコラボ配信が始まった。同時接続数は30人と、天窓ありかの普段の配信の数倍もいる。コメント欄にはレトのファンの人、ありかのファンの人が2:1くらいで集まっていて、それなりに賑わっているようだ。
「ってわけで、始まりました! こんにちバンバン! きみらのハート撃ち抜いちゃうぞ! 銃堂レトでーっす。さて、今日は素敵なゲストが来てまーす! 新人VTuberの天窓ありかちゃん!」
「こ、こんにちはー! 天窓ありかですっ。初めてのコラボ配信ですごい楽しみにしてて、あと緊張もしててっ……あ、こんにちはじゃないや、こんばんは! とにかくよろしくお願いしまーす!」
「めっちゃ初々しくって可愛いでしょ~! 今日はこの2人で、マシュマロを読んでくね」
コメント
・こんにちバンバン~
・うわ、めっちゃいい声!!
・おれたちの前で初めて奪っちゃうのか……
・こんないい子どこでナンパしてきたん
「おーい、きみたちあんま好き勝手言ってんなよー? じゃあ最初のマシュマロはこちら! じゃん! "最近ちょっとショックだったこと"はありますか?」
手慣れた様子でコメントをさばきながら、レトは最初のトークテーマを読み上げる。このくだりはさっきやったし、ライカも余裕を持って答えられるよね。安心して聞いていると……。
「え、その質問ってさっきしなかったっけ?」
一瞬、時が止まる。
「さっきって……。」
そして、時は動き出す。
「ぶわっはっはっ!! どんだけ天然だーーい?! いや、もう才能でしょこれ!!」
机をバンバンと叩いてレトが大笑いする。いや、そりゃそうだよ! こっちの常識に疎いとはいっても、天然にもほどがあるぞ、この子っ……。私もコーヒー吹くかと思ったわ!
「あれは打ち合わせだから! 練習ね、いい? 今は本番だからね!」
「あ、もう配信始まってるんだったっけ!?」
「そう! そう! そうなんだよねー実は!」
「なんかこう、レトとずっと喋ってたから忘れちゃってた!! そっか、いまはもう配信中、配信中……。うん、わかった!」
コメント
・段取り全無視で草
・圧倒的ポンコツ……
「いやほんっっっっともう……見てくれてるキミたちも分かるでしょ?! 可愛いのよ、この子! まじで! って感じで、今日はやってきまーす!」
そんなこんなで天窓ありかのはじめてのコラボ配信がはじまった。ほんとに大丈夫なのか……いや、大丈夫だよね……?
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