Episode 24 :【〝雨津星龍雅〟という男】

 ――〈狭間はざま交信局こうしんきょく〉の内部には、武装した治安維持型が、ずらりと配置されていた。


 そのどれもが、敵意を宿した視線……いやレンズを、俺に向けていた。


 本来、人類に貢献することを目的に作られたはずの、機械人形ロボット


 それが、たとえ、そういう思考がプログラムされているとはいえ――奉公の対象である人間おれを、邪険に扱っている。


 だが、睨まれているだけ、まだマシとも言える。


 なぜならこの世界では、治安維持型達に捕らえられ、重い処罰しょばつを受けた人間が、一定数いるからだ。


 しかし、それ以上に恐ろしいのは――「人類に反抗的にもなれるフレンドよりも、《2050ニーゼロゴーゼロ・DDディザスター・デイ》の惨劇さんげきで誕生した《異形の怪物ヒューマネスト》の方が、はるかに脅威きょういである」……。


 そんな価値観が、もはや世界共通の認識となっていることだ。


 かつては、「人工知能が技術的特異点シンギュラリティを迎え、人類の知能すら超えてしまった時、我々人間の生活に、どんな変化が生じるというのか」と、名だたる学者たちが、頭を悩ませていた。


 今となっては、そんな議論すら微笑ましく思えるほど、この世界は変わってしまった。


 つまり、今俺が「フレンドに睨まれている」という状況こそが、この異常な世界・状況の縮図だと言えるのかもしれない。


 ……とはいえ、今の俺の関心は、そんな機械人形などではない。


 視線が向かう先にいたのは、目に映る全てが、印象的な男だった。


 190cmは優にある長身。筋骨きんこつ隆々りゅうりゅうな体格。たてがみのような栗色いろの髪、勇ましい群青色ぐんじょういろの瞳。


 他に人は見当たらない。


 ということは、先程監視カメラ越しに会話していた相手は、どうやらこの男らしい。


 あのときの印象よりも、実部はずっと貫禄があるようにも見えるが。


「ようこそ、〈狭間交信局〉へ!

 ……と言っても、俺はここの人間じゃないがな!」


 高校球児のような屈託のない爽やかな笑顔。


 爽やかすぎるその第一声に、一瞬言葉を失う。


 「じゃあ、どこの誰なんだ」という疑問はあったが、今は雨に打たれていた不快感の方が勝る。


 なのでまずは、手渡されたタオルで、れた髪や身体を拭くことに集中する。


 しかし、そんな俺もお構いなしにと、男は豪快な声で話しかけていた。


「俺は、雨津星あまつぼし龍雅りゅうが! 〈A.E.G.I.Sイージス〉という組織の、主任を任されている!

 年齢ねんれいは35歳! 用件は、君のスカウトだ!」


 誇らし気に腕を組みながら、男――雨津星龍雅は、さらに言葉を続ける。


「ここにいるフレンド達の報告を聞いて、驚いたよ。

 君は《ヒューマネスト》を単独で撃破したらしいね? それも生身で! 

 それが本当なら、〈御門みかど大江戸おおえど〉史上……いや、人類史上初の快挙だ!

 早速、証拠の動画を見せてくれ!」


 突然の展開に少し戸惑うが、ようやく本題に辿り着いた気がした。


 俺は証拠の動画を表示した状態で、彼に〝Future-Phone〟を渡す。


 再生中、「おお!」「むむ!」などとリアクションを挟みながらも、雨津星は内容に見入っていた様子だった。


「いやはや、凄い! 画面の揺れには酔ったが、それ以上に、君の天才的な戦闘センスに、れたよ!」

「……どうも」 

「君のような逸材を、放っておく手はない!

 早速、〝特殊とくしゅ構成員せいいん〟として、契約を――」


 勝手に話を進め、さっさと踵を返したその瞬間、俺は「ちょっと待て」と声をかけ、雨津星の腕を掴んだ。


 その感触は、脂肪でも筋肉でもない。妙に冷たく、硬質な感触。


 それは、まるで、HEROに近い――。


「む? どうした?」


「……その〈A.E.G.I.S〉っていうのはなんだ。説明しろ」


 腕の正体も気になるが、今はそれは後回しで言い。


 重要なのは、『この雨津星という男が、信用に足る存在かどうか』だ。


 だからこそ、俺は視線に力を込め、真っ直ぐその顔を見据える。


「ああ、確かにそっちが先だな!

 なら、せっかくだし、お茶でもれよう!」


 まるで気にも留めず、眩しいほどの笑顔で承諾した雨津星。


 そんな雨津星が慣れた手つきで、机や茶器を用意し、ほんの数分で簡素な茶の間を完成させてしまった。


「ささ、グイーッとやってくれ!」


「……お酒みたいに言うなよ」


 差し出された煎茶せんちゃは、にごりがない澄んだ緑と、穏やかな香り。


 機械人形フレンドたむろする無機質で堅苦しい空間でも、心が安らぐ力を持っている。


 俺でもわかる。明らかに〝ついで〟で出せるような代物ではない。


 そんな、高級感あふれるお茶を静かにすすりながら、雨津星はようやく、〈A.E.G.I.S〉という組織の全貌を、語り始めた。



「――〈A.E.G.I.S〉とは、〈御門大江戸〉政府直属の組織だ。

 正式名称は、超常ちょうじょう異能現象いのうげんしょう防衛機関ぼうえいききかん、〈Advanced Extraordinary Guardian Initiative Society〉――その頭文字を取って、〈A.E.G.I.S〉だ。

 〝イージス〟というのは、ギリシャ神話に登場する盾を指す」

「……つまり、《ヒューマネスト》から〈御門大江戸〉を守る、盾のごとき組織……ってことか」

「その通りだ! 話が早くて助かる!」


 真剣な顔をしたかと思えば、すぐに柔らかく笑う。感情表現が忙しい男だ。


「主な任務は、《ヒューマネスト》の迎撃げいげきと、〈御門大江戸〉の治安維持。

 ここにいるフレンドのように、〈アフターエリア〉の警邏けいらなども含まれているが……基本的には、〈御門大江戸〉に鎮座ちんざする形だな」

「……ザックリ言えば、警察と軍隊を掛け合わせ組織ってことか」

「かなりザックリ言えば、な!

 俺を含む〝特殊構成員〟は、〈御門大江戸〉の治安維持を主目的として、行動する。

 いわば、最後のとりでを任されているということだな!」


 誇らし気に胸を張る雨津星。


 この男に、その自信に見合うだけの実力があるかはさておき、嘘をいているようには見えない。


「……それじゃあ、アンタの目的は、俺をその特殊構成員とやらにスカウトする……ってことか?」

「その通りだ!

 実際に特殊構成員になるには、いくつかの手続きが必要になってくるが……全ては、君の返答次第だな!」


-----------


《次回予告》


《雨津星の説明を一通り聞いた時、俺の脳裏に浮かんだのは、一つの言葉だった。》

「……ちょっと待て。なんでそんな手術が必要なんだ。

 俺は、組織に入ると言っただけだぞ」

「この身体は、母さんがお腹を痛めてまで産んでくれた、唯一の形見だ。

 お前らの勝手な都合で……メスを入れていいものじゃない」


 次回――Episode 25 :【交渉決裂……?】


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