第39話 ダブル・スロット

「でも、どうやってこの『手袋を買いに』で、ごんぎつねに立ち向かうの?」

『フロム先輩…クロスオーバー物のゲームじゃないんですから…。それに、悲しい物語だけど、ごんぎつねも好きな物語なんですよ、私』

「そ、そうか。ごめん、時奈ちゃん」


「ドリームズ・システムのダブル・スロット機能を使います」

『ダブル…スロット?』


「でも、いくら時奈ちゃんが巨乳で包容力があるって言っても、本二冊は挟めないんじゃない?無理矢理入れたら、左右のお胸の距離が離れちゃうよ…」

「そんな事しなくても…挟む場所はまだ空いてるじゃないですか」

 そう言って、心は時奈の体に向かって手を伸ばす。

「ストーーーップ!私がやるっ!!」

 前に時奈が心にひん剥かれた(胸の上部のみ)事を思い出した結愛が、心を制止し、代わりに時奈の服に手を掛ける。

「ふう…騒がしい人ですね。では、あなたが時奈の服のボタンを外しなさい」

『分かった!というわけで、いただき…じゃなかった、失礼するね、時奈!!』

 結愛は実に嬉しそうな顔をしている。きっとこういうのを役得と言うんだろう。

「もう、落ち着いてよ結愛…でも…どこまで脱げば良いんですか、私?」

 プチップチップチッ

 結愛は早くも時奈の学生服の上ボタンを三つほど外し、時奈の胸の谷間が露になっていた。

 心はその胸元をじっと見てから言った。

下乳したちちが見えれば結構ですよ。あ、ブラはずらしてください、下乳げにゅうが必要なので」

 …心がクールにスケベワードを言うものだから、三人はツッコミたくなる衝動に駆られたが、心が冗談を言う人間では無いことは分かっているのでツッコミはせず、結愛は時奈の胸の中心部に当たるボタン一つ残して、その下のボタンを順に開けていった。


(なんで今言い換えたんだろう…)

 …でも、心の中でこの件に関しては三人は突っ込んでおいた。


「ちょっとブラ上げるね!時奈!」

 結愛が時奈のブラを指で引っ掻けて、少し上にずらした。

 結果、ボタンただ一つを残して時奈の学生服は全開になり、上下の胸の谷間、それにお腹回りも露出させられた。


 ふと、図書室の窓から風が入り込み、時奈のはだけた学生服が風の向き沿って横になびいた。

 パタパタパタ……

 時奈の綺麗な南半球が風でめくられた服の下から現れる――

 本来なら、いやらしい、もしくは異常な光景だ。だが――

「…………」

 時奈は凛とした表情で、心の次の言葉を待つ。

 その表情と合わさって、いかに肌を出していようと時奈は爽やかさ、あるいは神々しさすら感じさせる佇まいだった。


「いつもの感じで、ドリームズ・システムをセットし、上の胸の谷間にごんぎつねを差し入れてください」

 時奈は言われるままに、変身の準備を整えた。そして――

「下の胸の谷間に、手袋を買いにを突き入れてください。本が開く様に、背表紙を上にして、ね」

 時奈は手袋を買いにの本を胸の下から突き入れる。

 グイイッ…!

(上下両方に入れると…結構圧迫するなあ…んんっ!)

 時奈はそう思いながらも、ぐぐっ!と下の胸の谷間にも本を入れ終える。

 手を離しても、胸の圧で本は落下しなかった。

「では…両方の本を広げて変身してみてください」

『変…身!』

 時奈はまず、上乳のごんぎつねの本をかっ開く!

「認証、ごんぎつね、変身開始します」

 そして、変身が終わったのち、下乳の手袋を買いにを開いた!

「ダブル・スロット認証、手袋を買いに、装着します」

 音声ガイダンスが終わると、時奈の新たな姿が現れる。


 ……といっても、大まかな姿はごんぎつね使用時と変わらない。

 ただ一つ、赤い手袋が装着されていたのが違いだった。


「わあ、あったかそう!」

 結愛がのんきな声をあげる。

「そりゃあったかい…というかまだ冬じゃないから暑いんだけど…」

 時奈が手袋を見回しながら結愛にツッコむ。手袋はふわふわで白いリボンが可愛らしく付いている。どこかサンタクロースを彷彿とさせるデザインだ。

「……ホントにこれがダブル・スロット…手袋を買いに、の力なの?なんかあんまり変化が……」

 フロムが心配になって心に問いただす。しかし、心は自慢気かつ満足毛だ。そして、自身もドリームズ・システムのチョーカーをセットし始めた。

「ええ、これがダブル・スロットの力……心配なら、試しに私に向かって撃ってみ――」



 ブオン!!ブオン!!

 ブロロロロロ……!!

 その時であった。学校のグラウンドの方から

 聞き覚えのある轟音が時奈達の耳に届いた。


「この音……!」

『うん、さっきのライダーだ!』


「ふむ、ちょうどあなたにとってのリベンジマッチと試し撃ちの相手が来たみたいですね。いきますよ、時奈」

 心はつかつかとグラウンドへと向かう。

「今度は……負けない…!」

 時奈達もその後を追う。


 グラウンドに着く前に、フロムは心に尋ねた。

「……私に向かって撃ってとかなんとか言ってたけど、どうするつもりだったの?」

 その問いに、心は振り返りもせず、しかし自信ありな表情で答える。

「銃弾斬りは刀使いのですよ、フロム」


(やっぱ、コイツ好きになれないや……)

 フロムは内心で心に毒づいた。











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