第35話 ごんぎつね
キーンコーンカーンコーン…
キーンコーンカーンコーン…
光成学園の終業のチャイムが鳴る。
女生徒達が帰路に着く、或いは部活動に出向いていく中、時奈は「銀行鉄道の夜」の本と、図書室の貸出カードを持ったまま、職員室へ訪れていた。
「はい…本を破損させてしまって…あ、いえ、目立ったキズとかがあるわけじゃ無いんですけど」
時奈は担当の教員に、本を破損させてしまったのでお詫びに買い取らせてほしいと持ちかけていた。
と言っても、時奈の言うとおり、見た目で破損しているわけでは無かった。
ただ、自分の胸の谷間に挟んだ本を図書室に返すのは、流石にどうかと思った次第であった。
別に自分の胸が汚い訳ではないが、生理的にダメだろう。下手をすればテロにも等しい行為である。故に責任持って買い取ろうと時奈は思った。
とはいえ、「すんません。おっぱいに挟みました!」とは恥ずかしくて言えなかったので、食事しながら読んだとか理由を付けておいた。
別に古い本だから返してもいいのに、と言う教員を何とか論破(?)し、「銀河鉄道の夜」を買い取った時奈。
「はあ…図書委員長失格だなぁ…」
ため息をこぼしながら歩いて、図書室に戻る時奈、
ガラガラガラ…
キィン!キィン!
ドアを開けると、そこには机に向かって何か作業をしている心がいた。
「あ、どうも。机借りてます」
心が軽く挨拶するが、机の上には折れた刀の刃が数枚散らばっており、心の軽い態度とは裏腹の異様な雰囲気があった。
「……何してるんですか……」
『そんなにこわばらないでください。ちょっと虎徹探ししていたところです』
「虎徹って…あの?」
『ええ、とにかく贋作が多い、あの虎徹です』
そう言いながら、心は二本の虎徹候補を両手でそれぞれ持って、お互いを打ち合わせ出した。
キィン!キィン!
「こうやっていって、最終的に残ったのが、本物の虎徹…と言う事にしておきましょう」
キィン!キィン!
パキン!パキン!
「あ」
二本の虎徹候補は、同じタイミングでポッキリ折れてしまった…。
「今回も本物は無し、か…」
『……終わったら、片付けておいてください』
「分かってますよ、図書委員長さん」
心は丈夫そうな鞄の中に、まるでケシカスでも捨てるかの様に、机の端から落として折れた刃を回収していく。
「ちょ、ちょっと、そうしたら机が傷つ……」
『ああ、失礼』
既に机にいくつかキズが出来上がっていた。
「……もういいです」
時奈はムスッとそっぽを向いて、戸棚の本の整理を始めた。
先日、時奈は心に強くなると誓ったが、思い付いた方法の一つが新たな「本」の力を手に入れるというものだった。
ニンジャ・ガイとの戦いでは、足場の悪さと相手のスピードの速さで上手く攻撃できなかった。
遠距離から攻撃できる手段があれば
そういった相手にも対抗できると踏んだのだ。
「でも…どの本だったらいいんだろう…?」
片っ端から本を胸に突っ込む→お詫びにその本を買い取る、という手段は取りたくなかった。
「あなたの好きな本…その中で飛び道具が出てくる本にすればいいんですよ」
いつの間にか片付けを終えた心が、時奈に話しかける。
「心…でも…」
『それと…本は新しく買うより、ここの本を胸に突っ込んだ方がパワー出ると思いますよ。ドリームズ・システムに必要なのはイメージ…それに思い入れですから』
「思い入れ…」
『まあ、学校には落丁及び損壊による本の入れ替えと言っておけば、角もたたないでしょう』
「………」
図書室の利用者と教員に申し訳ないと思いつつ、時奈は自身の力になってくれる本を探す。
「でも飛び道具が出てくる本ってそんなに…」
呟きながら探していた時奈に、一冊の本が目についた。
「ごんぎつね」
時奈はそれを手に取った。
「これは…でも…」
確かにこの物語には「銃」が出てくる。出てくるが…
「へえ、その本好きなんですか」
心が時奈に問う。
「…確かに良く読んでたし、私の力にはなってくれるかもしれない。けど…」
『まあ、ドリームズ・システムにはフィーリングも必要ですし、試してはいかがですか』
「う、うん…」
時奈は上着のボタンを外し、胸の谷間にを露にする。
夕方の日射しが時奈の胸にかかって、どこかノスタルジックさを醸し出していた。
ドリームズ・システムのチョーカーを付け、クリスタルに触れる。
クリスタルからの光が、胸の光をより一層美しく飾る。
「変身…」
時奈が小声で呟き、「ごんぎつね」を胸の谷間に突っ込む。
「「認証、ごんぎつね。変身開始します」」
そして本を開くと、一際大きな光が、胸とクリスタルの光と混ざって、時奈に新しい力を与えた。
「…重い」
変身を終えた時奈が、真っ先に抱いた感想を口にする。
その手には、大型のライフル銃が持たされていた。
だが、それ以上に、何か心理的な重みを時奈は感じていた。
「おお、出来たじゃないですか」
パチパチ…
そんな時奈の心理状態を知ってか知らずか、心は拍手で祝福した。
「次の実戦が楽しみですね」
『…私は好きで戦ってるんじゃありません』
「おっと、そうでしたね」
心は刃を片付け終え、一足先に図書室を出ようとする。
…が、その直前で立ち止まって時奈の方に振り返り言った。
「あなた、なんか泣いてません?」
(……え?)
時奈が返答する前に心は図書室を後にした。
時奈は鞄から手鏡を取り出し、自身の顔を見た。
両目の下に白いラインが下に向かって一つづつ走っていた。
時奈は目頭越しに目に軽く触れてみた。
じわぁ…と目蓋の裏が熱くなり、手に水分が少し付着していた――
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