くたびれ創造神シンの異世界記録 ーー退屈な神業務、でも転生者の人生は少し面白い

とりもも

第1話→創造神とやり直したい男

*****

助ければいい結果になる?

違うだろう。

彼らは自分で選ぶからこそ価値がある。

俺は“観察するだけ”の創造神――

それが仕事で、唯一の趣味だ。

*****



――俺はシン。


もう何千年も転生の“業務”を担うベテラン創造神だ。

世界を創るわけじゃない。命を“始め”させるだけの仕事だ。

だが、その中で俺の唯一の楽しみは、転生者たちのその後の人生を見守ることだ。


どんな人生を歩み、どんな景色を見て、どんな感情を抱くのか。

無数の転生者たちの物語は、飽きることなく俺の心を揺さぶる。


それでも俺は、彼らの人生の幸福を保証しない。

与えるのは“始まり”だけだ。あとは本人の選択と努力次第だ。


転生を望み、あるいはよくわからず流され、命を受け取る者たち。

そのひとり、橋本誠。45歳。日本の平凡なサラリーマンだった。


***


誠は薄暗い部屋で目を覚ました。

周囲の記憶は薄れ、彼の心は深い疲労と虚無に満ちていた。


かつての人生は長くて短い。努力しても報われず、孤独な日々が続いた。


愛する人ともすれ違い、いつの間にか人間関係は希薄になっていた。

死の間際、誠は本気で願った。


「幸せになりたい……変わりたい……もう一度、やり直したい」


だが、それが叶うとは思っていなかった。

死は終わりでしかないと諦めていた。


***


観測室の透明な窓の向こう。天界は静かに見下ろしている。

黒髪の見習い神ラニアが緊張気味に報告する。


「シン様、転生者、橋本誠さんが到着しました!」


シンは書類に目を通しつつ淡々と言った。


「来い」


誠が静かに現れた。まだ状況を飲み込めないようだった。

シンは表情を変えず、無機質に切り出す。


「橋本誠。お前は今、死んだ。そして転生を希望した」


誠は言葉を探し、震える声で返した。


「転生……? 俺は……幸せになりたくて、変わりたくて……でも……」


シンはそっと相手の目を見据えた。


「幸せになりたい。変わりたい。それは悪いことじゃない。だが、それは“与えられる”ものじゃない」


「え?」


「俺はお前に“始まり”を与えるだけだ。種を蒔くだけだ。芽吹くかどうかはお前次第」


ラニアが慎重に言葉を添えた。


「転生とは新しい人生のチャンスです。でもその後は、あなたの行動が未来を創ります」


誠は深く息を吸い、決意の表情を浮かべた。


「僕……本当に変われるのかな……」


シンは肩をすくめて言う。


「それはわからん。だがな、今のままじゃ変われる可能性はゼロだ。転生という“始まり”を活かすか殺すか、それはお前の手にかかっている」


誠は言葉を詰まらせたが、やがてゆっくり頷いた。


「わかりました。僕、もう一度やり直します。今度こそ幸せになりたい」


「その気持ちがあるなら、少しはマシだ」


シンは薄く笑みを浮かべ、手を掲げて転生の儀式を始めた。


***


観測窓の向こうに消えていく誠を見ながら、ラニアが尋ねた。


「シン様、あの方は本当に変われるでしょうか?」


シンは視線を遠くに向け、ゆっくり言った。


「わからん。だが何千、何万もの転生者を見てきた。望みと現実は時に残酷だ。だが、それでも人生は続く」


「シン様は、その人生を見守るのが好きなのですね」


「そうだ。ただの“業務”だが、俺の唯一の趣味でもある」


彼の瞳には、わずかに感慨の色が浮かんだ。

転生は始まりだ。人生の全てはその先にある。


そして、橋本誠(マコト)の新たな物語が、静かに幕を開けた。

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