第6話 田中さんらしくて泣けてくる

「でさ、久し振りにデマチしようかと思って!」


 ブリックパックのジュースをパコパコさせて唐突に田中さんは宣う。


「えっ?!」と思わず声が出てしまったが、田中さんの話は止まらない。


「和田くんも知ってるよね?!『怪獣28号』」


「えっ?! まあ何となく……」


「だよね!今、アニメ化されてんじゃん! で、主人公の黒人コクトの声が私のイメージ以上でさ!!」


「……そうなんだ」


「そうなのよ!CV声優をね!マサヤ様がやってらっしゃるのよ!!」


「へえ~」


「何!その反応!!マサヤ様を知らないの?!」


「うん、まあ……」


「っんと!和田くんは!しょうがないなあ~!! でも聞いてよ!」


「聞くよ」


「マサヤ様ってすごく大人な方なんだけど、とってもかわいい所があるの!!」


 かわいい?? そんな事、言われて“マサヤ様”は嬉しいんだろうかと思ったが、田中さんに言ったら殺されそうなのでオレは『貝になる』


「でね、マサヤ様がね!クリスマスコンサートをなさるの!!」


「ひょっとしてチケット取ったの?!」


 このオレの言葉が終わらないうちに田中さんから『何!コイツ!』って目をされて……オレは自分がまた地雷を踏んだのを思い知らされた。結構、落ち込む。


「それで和田くんに相談があるの!」


 んー??? どういう脈絡だ??


「オレにできる事なら協力するよ」


「ありがと! クリスマスプレゼントをね、マサヤ様に差し上げたいのよ! だから選ぶのを手伝って欲しいの! できるでしょ?!」


『エエエエエ!!!!』

 心の中でオレは絶叫した。

 何が悲しくてのプレゼントを選ばにゃならんのだ!!!

 でもオレは笑顔を取り繕った。


「おう!ヒマだし付き合うよ!」



 ◇◇◇◇◇◇


 マサヤ様のプレゼントを田中さんと選びに行って……選んだ商品がクリスマス包装される。

 店員が田中さんに商品を手渡すと田中さんは少しはにかみ、そのプレゼントをオレに差し出す。

「実はこれ、和田くんへのプレゼントなんだ!」

 って……田中さんに限っては100%無いよなあ~

 オレがこんな不毛な妄想をしながらメロンパンの袋やカツサンドのパッケージをゴミ箱に捨てていると山本から声を掛けられた。


「なんだ!購買行ってたのか? お前誘って学食行こうってみんなで話してたのに~」


「ワリイ~ 田中さんと打ち合わせしてた」


「お前ら“おしどり夫婦”だもんな!つうか……和田が田中さんにコキ使われてる?」


「ハハハハハ、そう見える?」


「言われてみればね」


「『言われて』って、誰に??」


 こう尋ねると山本は辺りを窺ってそっと耳打ちした。


「揣摩さん。“不愉快オーラ”が漂ってたから気を付けた方がいいぜ」



「気を付けろ!」かあ……どう気を付ければいいんだか……

 クラス委員はこういう気遣いも必要なんだなあ……



 ◇◇◇◇◇◇


 その揣摩さんからいきなり声を掛けられてさすがにビビった。

 しかもその内容が……


「あの! 田中さんの“片思い相手”へのプレゼントを選んであげるってホント??!!」


「うぇえ?! なんで知ってるの??!!」


「田中さんが明美に話したから私に伝わった」


「ああ、そうなんだ……まあ、事実だけどね」

 こう返答したら揣摩さんが薄くため息をつくものだから……オレはクラス委員としてどう返答して良いものかグルグル考えた。


でいいんだけど……私のも選んで貰っていいかな?」


「えっ?!」


「私……二つ上に兄が居るんだ。和田くんのところもお姉さん居るんだよね」


「うん!いっこ上」


「ブラコンとか言われそうだけど……兄のクリスマスプレゼントで悩んでいるの」


「へえ~仲いいんだね」

 どうやらクレームでは無い様なのでオレはホッとしたが、これもやっぱり不意打ちだ!

 だいたいプレゼント選びなんてやったこと無いし……そうだ!


「ウチの姉ちゃんがそういうの得意だから紹介しようか?」


「それは……ちょっと恥ずかしいから……ダメ?!」


「いや、ダメでは無いけど……チャラいオレなんかとウロウロする方が恥ずかしくない?」


「和田くんはチャラくなんか無いよ! それに田中さんにはちゃんとOK貰ってるから!」


「ああ、そうなんだ……なら、オレは……構わないよ」



 田中さんの塩対応と二人のプレゼント選びの重責で……さっき食べたメロンパンとカツサンドが胃もたれするオレだった。




                         第7話へ続く





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