第32話:追放後の王宮

けがれが落としきれないだと? どういうことだ!」


 ルーベント王国王太子のロイドは、報告に来た聖女長を睨んだ。

 聖女を取り仕切る聖女長は、もう六十を越える老女だ。

 だが、孫のような年頃のロイドに震えながら頭を下げている。


「聖女たちは休みを返上へんじょうして祈っています。ですが、なぜか穢れがなかなか消えないのです……」


 国中の穢れを集める女神像は王宮内の聖堂に置かれている。

 毎日、当番の聖女たちが祈りを捧げ、浄化の力によって穢れを落とすのが日課だ。


 これまでは、夜には綺麗に一日分の穢れを落としきれていた。

 だが、ここ数週間ほど落としきれずに穢れが溜まっていくという。


「聖堂に行く!」


 聖堂関連は、王子であるロイドが最高責任者だ。

 そのため、ロイドは聖女と関わりが深い。

 マリサともそれで知り合った。


(くそっ、どういうことだ……!)


 マリサを追放して一ヶ月以上がたつ。

 陰謀をめぐらせていたマリサがいなくなり、国が落ち着くかと思えば逆だった。


 あちこちで貴族同士のトラブルが起こるうえ、聖女像の穢れは落ちない。

 荒々しく靴音を響かせ、ロイドは聖堂に足を踏み入れた。


「うっ……!」


 話には聞いていたが、聖女像はひどい有様ありさまだった。

 これまで、ロイドは純白の聖女像しか見たことがなかった。

 だが、今は泥をかけられたかのように、像のあちこちが黒い染みでおおわれている。

 その周囲では、聖女たちが必死で祈りを捧げている。


「皆、必死でやっているのですが……」


 聖女長がとりなすように言ってくる。


「原因は何か思いつくのか」


 聖女像から離れ、聖堂の片隅に来ると聖女長がおそるおそる口を開いた。


「マリサ・レーデンランドがいなくなってしまったからかと……」

「……っ。馬鹿な! マリサがければ支障をきたすほどの能力持ちだとは聞いていないぞ!?」

「え、ええ。私たちも気づきませんでした。彼女はいつも控え目で謙虚でしたので……」


 聖女長が決まり悪そうに言い訳をする。

 マリサは物静かで、聖女の中でもあまり目立っていなかった。


(だから、今でも信じられない。マリサがここまで必要な人材だったとは!)


「ナディアは?」


 マリサの幼なじみで、聖女でトップクラスの能力持ちだ。

 ナディアがいれば、大丈夫なはずではなかったのか。


「それが……実家の方で訃報ふほうがあったとかで里帰りをしております」

「こんな時に不在とは!」


 ナディアがいれば片付くはずではないのか、と言外ごんがいに伝えたが、聖女長は首を横に振った。


「ナディアがいても、状況はさほど変わらないかと……」

「何!?」

「ナディアがいた時も穢れは落としきれなかったので……」

「ナディアは聖女の中でもトップクラスの能力者ではないのか!?」


 美しい黄金色の髪と青い目を持つナディアの勝ち気な顔が浮かぶ。

 彼女はいつも、いかに自分が有能かアピールをしてきた。


「いえ……平均並みかと」

「なんだと?」

「その……ナディアは自分を大きく見せるのが得意というか、押し出しが強い子ですから、王太子がそう勘違いなされるのも無理はないかと……」


 聖女長が言いづらそうにもごもごとと伝える。


(つまり……俺はナディアを過剰評価していたのか)

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