幕間

第4話〈幕間〉「お姉さん、オフモード」

夜。山の中の温泉宿。

帳(とばり)が降りるように、静かに闇が広がっていた。


湯けむりの中、私はぽつりと独り言を漏らす。


「……はぁ~~~、極楽」


誰もいない露天風呂。

肩まで湯につかって、私はしばし“お姉さん”の皮を脱ぐ。


「いないなー。やっぱり今回も……勇者じゃないか」


空を見上げると、星が滲んで見えた。

湯気のせいか、疲れのせいか、あるいは――ちょっとだけ寂しいのかもしれない。


「期待するだけ、損だよねー。そんな都合よく、勇者が現れるわけないって。……わかってんだけどさぁ」


誰にともなく言い訳して、ひとりで笑う。


「退屈。もうちょっとこう……ときめく出会いとか、ないもんかねー」


ぽちゃんと、湯に手を落とす。波紋が広がって、消えていく。


「ねえ、いたら教えてよ。――私が、ずっと探してる“それ”、どこにあるの?」


夜風が吹いて、湯気を揺らした。



湯から上がった私は、浴衣姿のまま宿の縁側に腰かけて、外の夜風を浴びていた。


虫の声。遠くに響くフクロウの鳴き声。

静かで、平和で、――ちょっとだけ退屈な夜。


だけど、ふと。

その退屈を破るように、目に入ったのだ。


暗がりの中、街道をフラつくひとりの影。

ボロボロのマント。見るからに世慣れていない足取り。

そして――


「……ん?」


私は身を乗り出す。


その影がふらりと立ち止まり、何かを探すように周囲を見渡していた。


「……あはっ。面白いもの、みーつけた」


口元が自然とゆるむ。

お姉さんの勘が告げている。


――これは、きっと退屈じゃない。

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