きみに会いにいく。~きみのとなり。番外編~
🐉東雲 晴加🏔️
【作品No.1】きみに会いにいく。
※こちらは七夕にアップした短編ですが、ありす甲子園にも出したいのでこちらにも再投稿します。BL作品になりますので苦手な方はブラウザバックで。
ビルだらけでコンクリートジャングルなんて揶揄される
まだ七月の頭だと言うのに連日30度超えの気温のせいで、もはや8月と勘違いしそうだ。
「え? 月曜の予定?」
とてもじゃないが日の当たるところにはいられなくて、珍しい時間の着信に慌てて通話ボタンをタップして話しながらビルの日陰まで移動する。
『そう。七日の夕方から時間空いてさ。次の日もオフになったんだよね』
泊まりに来ない? と明るい声で話すのは、視界に入った建物の壁のポスターの中で微笑んでいる男だ。
「……家に行くのはいいんだけど。俺、火曜も普通に学校だけど」
世の中色んな職業があるが、その中でも特に休日がカレンダー通りではない俳優業の恋人は一般人とは少々曜日感覚がズレている。残念ながら週があけたばかりの月曜日に外泊する気は咲太郎にはない。
電話の向こうの男は解りやすいくらいの猫なで声を出した。
『そうなんだけどさぁ……どうしてもダメ? 火曜は朝学校まで送ってあげるし、ね? ね?』
せっかくのオフ、咲に会いたいじゃん。と電話から聞こえる声に、上目遣いで見上げてくる姿がありありと想像できて、咲太郎はスマホを耳に当てたまま眉間にシワを寄せて唸った。
(……会えるのは俺だってやぶさかではないけど、月曜に泊まって次の日無事に学校に行けるとは思えない……!!)
咲太郎の恋人、光は基本的には咲太郎の嫌がることはしないけれど、少ないオフと咲太郎の予定があった時は時々馬鹿みたいに知能指数が下がる時がある。……いや、元々そんなに知能指数は高くないが。
たまの休み、光に好きな事をさせてやりたいと思ってついつい彼の要求に答えてしまっている咲太郎にも問題はあるのだが、……なんせ光には何度か前科がある。咲太郎は心をぐっと鬼にした。
「……夕方からは時間開けてもいいけど、次の日ひとコマ目から講義入ってるから泊まりは無し。その日の内に解散ならいいよ」
えぇ~……と不満気な声が返ってきた。「本当にダメ? 絶対ダメ?」とグズグズとすがる声が聞こえてくる。
……これが二十歳も遠にこえた国民的イケメンの姿とは誰が信じよう。
「……いい加減にしないと部屋にも行かないからな」
周りの気温とは真逆の冷えた声で言ってやれば『わかったよぉぉ~! 咲とずっと一緒にいたかっただけじゃあああん!』と喚く声が聞こえてきた。そんなに自分と会いたいのか、と思ったらなんだかむず痒く、頬が緩んできそうになる。仕方ないな……と思わず言いかけて、いかんいかんと顔をきりっと引き締めた。……気をつけねば、これで何回も騙されている。
「じゃあ七日の夕方な! じゃ」
自分だってまだ光の声を聞いていたいけれど、これ以上話しているとなし崩しに全ていいよと言ってしまいそうで、咲太郎は無理やり通話を終わらせた。
「あっつ……」
外の暑さだけではない熱が体を熱くしたけれど、咲太郎はそれを都合よく夏のせいにした。
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大学を出たのは夕方の5時だった。スマホを見ると光から15時頃に『撮影押してる。6時過ぎそう😭』とメッセージ。
一度家に帰ろうかとも思ったけれど、早めに光のマンションに行ってエアコンを付けておいてやるかと、まだまだ照りつける太陽を手で遮りながら足を光のマンションへ向けた。
光のマンションへ着くと、手慣れた手つきで暗証番号を押しエントランスの自動ドアを開ける。冷えた風がさあっと流れてきて咲太郎はふぅと息を吐いた。エレベーターホールで光の部屋のフロアのボタンを押そうとした所で、ポケットのスマホが震える。
「もしもし」
『あ、咲。今どこ?』
「どこって、お前んちのマンションのエントランスだけど」
今まさにボタンを押そうとしていた咲太郎はフロアボタンを指さしたまま固まっている。
『なんとか6時までには帰れそう! このあと出かけたいから駐車場で待っててくれる?』
車で帰るから、と言われて咲太郎はエレベーターのボタンを部屋の階から地下駐車場に変更した。
(……出かける? 今から?)
今日中に家に帰ると宣言したはずなのに、今から出かけるとは珍しい。
咲太郎と光の付き合いは秘密の付き合いだから、基本的に会う時は光のマンションだ。外に出かける時は友人同士なら可笑しくないような場所か、外部の人が絶対に入ってこられないようなプライベート空間のみ。今日は会える時間が短いから、絶対に家でゆっくり過ごすと思ったのに。
前回光に会ったのは三週間前。
今日は泊まらない、と宣言したものの会うこと自体は咲太郎だって楽しみにしていたのだ。外に出かけると楽しくないわけではないが、身体接触がほぼできなくなってしまう。咲太郎はちぇっと唇を尖らせた。
自分の姿がエレベーター内の鏡に写る。その顔が、自分で見ても思いの外面白くなさそうな顔をしていて、咲太郎は誰も見ていないのに思わず顔を隠した。
「おまたせ!」
ほどなくして光の(兄の)車が現れ、開けたドアからは涼しい空気と久しぶりの光の笑顔が溢れる。撮影後すぐに出てきたのか髪型がいつもと違ってドキドキした。
さっと車内に身を滑り込ませてシートベルトを付ける。どこに行くか尋ねると光からは「奥多摩」と返ってきた。
「奥多摩ァ!?」
予想外の返答すぎて思わず大きな声が出る。
「今から!? 俺、今日帰るって言ったよな!?」
困惑する咲太郎に光は笑って言った。
「大丈夫だよ。往復四時間くらいだから。今日中には家にちゃんと送るよ」
「ええぇ……」
往復四時間と言っても、今はほぼ18時。深夜12時に家につくとしても移動時間以外は二時間しかない。咲太郎があからさまに眉を下げたのに気づいたのか気づいてないのか、光は前を向いたまま駐車場を出て奥多摩方面にウィンカーを上げた。
「咲、今日は何日?」
突然光がそんな事を尋ねてきて、内心少々拗ねていた咲太郎はぶっきらぼうに返す。
「ハァ? 何日って……七日だろ」
咲太郎の不機嫌な声とは真逆に、光は上機嫌でクスクス笑った。
「うん、そう。さて、七月七日は何の日でしょう?」
「……何の日って……あ」
そう言えばここに来る途中にもお店の前に笹が飾られていた。今日は七夕か、となんの気無しに思ったりしたのに。
「奥多摩にさ、ここから日帰りで星が綺麗に見られる所があるんだってさ。今年は天気もいいし、たまたま七夕に時間ができたから咲と見たいなって思って。いつも家の中ばっかりだし、星を見に行ったら周りも暗くて顔も見られにくいだろうしさ。それに、……そこに着くまでは車の中で誰にも邪魔されないし?」
そう言って、シフトレバーを握っていた光の手が咲太郎の右手に重ねられた。光の長い指で、人差し指と中指の付け根をそっと擦られる。
「……っ!」
急に上がった体温に顔が熱くなって、空いている左手で口元が歪むのを隠したけれど、年上のこの狡い恋人は咲太郎の気持ちなんてお見通しなようで、その端正な顔で笑って咲太郎の右手をぎゅっと握った。
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片道二時間のドライブは長いと思ったけれど、久しぶりに会ったから話題は尽きなかったし、光の言うように車の中では二人きりで何を喋っても問題ないのは気が楽だった。途中で夕飯をテイクアウトして車内でそれを食べるのも非日常な感じがして、気がつけばあっという間に目的地に着いていた。
あんなに高かった日も、奥多摩に着いた頃には暮れて辺りは闇が支配している。
乗ってきた光の兄のSUV車は国産の大型の車種で、ルーフにも窓がついていて星空観測にはもってこいだ。
奥多摩のダム横にある広い駐車場には、他にも星を見に来た車が何台も停まっている。光は車を駐車場の隅に停めるとシートを倒してルーフの窓を開けた。
「……すっげ……同じ東京とは思えない星の量」
頭上に広がる満天の星に、思わずため息が漏れる。
「七夕って……なんだかんだいつも雨が多いから、けっこうスルーしてたけど。こうやって見るとやっぱなんか感動するよな」
「うん。……スケジュールがさ、たまたま合って……兄貴の車空いてたから、今日は絶対咲と星見に行こうと思って」
仕事の合間にめっちゃルート練った、と笑う光に胸がきゅうっとなる。
出かけると聞いた時は、あんなに不満に思っていたのに。……我ながらゲンキンなやつだ。
光に握られた手をぎゅっと握り返して、小さく「ありがと、光」と呟くと、視界から空の星が消えて代わりにキスが降ってきた。
エアコンで冷やされた車内という快適な空間での星空観測のはずなのに、あっという間に息が上がって汗ばむ。
「ちょ……誰かに、見られたら……」
「みんな星かパートナーしか見てやしないよ」
そう言ってもう一度口を塞がれてしまったから、咲太郎はそれ以上反論はできなかった。
久しぶりに会ったせいもあって、お互い感情が高ぶり思わず危ない線までいきそうになったけれど、流石に人に借りた車では不味いとなんとか思い留まる。
エアコンの温度をもう少し下げて、ゴロンともう一度頭上の星空を眺める。
気持ちを落ち着けるように、光がはあーっと長い息を吐いた。
「……今ごろ、織姫と彦星は逢えてるのかな」
晴れてくっきりと見える天の川に想いを馳せる。
今年は雨も降っていないから逢瀬にはもってこいだろう。
お互いに握った手が熱かった。
行きよりかは言葉数は少なくなったけれど、スピーカーから流れる心地よい音楽と会話に帰りの道もあっという間に過ぎて行った。
行きは距離が長いと嫌だなと思ったのに、帰りはまだ着かないで欲しいと思うから人は本当に勝手だ。
咲太郎のマンション近くの公園の駐車場に着いたのは午前零時になる10分ほど前だった。
車を停めて降りなくてはいけないのに、二人とも繋いだ手がなかなか離せない。
「……帰したくないな……」
小さく零した光に、思わず「俺も」と答えたくなる。
けれど、明日の授業をさぼる選択肢は咲太郎にはない。咲太郎は、繋いだ手をそっと解いた。
光が苦笑いしたのが解る。
「オレ達、織姫と彦星みたいだよね。たまにしか逢えなくてさ。会っても、すぐに時間切れ」
ドアに手をかけて車を降りようとした咲太郎の背中に光が呟く。咲太郎は思わず振り返った。
「……あー、ウソウソ、ごめん。女々しいこと言った。わすれ――」
「俺、女じゃないから織姫にはなれない」
光の言葉を遮るようにして咲太郎が放った言葉に光が目を丸める。
グズグズとする光に怒ったのかと思ったけれど、咲太郎の瞳から怒りは感じられなかった。
「……それに、織姫と彦星じゃ、逢えるのは年に一回だろ。俺はそんなのごめんだよ」
咲太郎の黒い瞳が、真っ直ぐ光を見つめて光の心を刺す。
「……織姫と彦星にはなりたくないけど、どうせなるなら……俺はカササギになる。そしたら、自分で飛んで会いに行けるだろ」
そう言うと一瞬、咲太郎の唇が光に触れていった。
じゃあおやすみ、と咲太郎が車を降りて行っても、しばらく光はそのまま動けずにそこに固まっていた。
「~~~~~~っ!! あの子、なんで時々くそイケメンになるの!?」
もーーーー!! 好きっ!! と一人で吠えて、光はハンドルに突っ伏す。
帰って来た都心の空は濁ってもう星は見えなかったけれど、きっと咲太郎が自分でまた会いに来てくれると思ったら、もう次の約束が楽しみになったのだった。
2025.7.7 了
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