第21話 気分次第で攻めないで


 パシッッ!

 鋭い音と共にガラスを突き破り、一発の銃弾が諏訪子の額に当たるレーザースポット目掛けて飛翔する


 ほんの0.04秒後には諏訪子の額に直径5.8ミリの小さな穴が開き、反対側の後頭部から盛大に頭蓋骨の破片と脳漿を撒き散らして物言わぬ死体と成る筈だった


 刹那と言える瞬間

 諏訪子の横で発射された弾丸を咥えたヤトが、対面の大学舎ビルを睨む


 ヤトは受け止めたライフル弾を口に含むと、狙撃手目掛けてプッ!っと弾丸を吐き出した


 その銃弾は、正確にQBU-88を構えた狙撃手の額を撃ち抜く

 ヤトは空間を捻じ曲げ、マッハ2で飛来した凶弾を己の歯で受け止めたのである


 長野の山奥で、佐伯二曹に拳銃で撃たれた時と同じ技だった


 アインシュタインの相対性理論では、光も重力場の影響で曲がるとされているが、ヤトはそんなもの関係無く弾道を変えて見せたのである


「何、今の …… !?」

「諏訪子、伏せてて」


 続けて発射された69式ロケット弾は、ヤトが手をかざすと弾道を変え、上の階に着弾する

 ズドオオオン!!

 ガシャン!パラパラ …

「きゃあっ!?」


 天井のボードが剥がれ落ち、照明器具がぶら下がる

「こりゃ、いかん!?」

 日下部は諏訪子を抱き寄せると、窓際の死角に身を寄せて伏せる


 ガシャシャパリパリパリン!!

 バシバシバシバシバシバシッ!

「嫌あっ!?」

 大学舎内へ侵入した支那の工作員は、対面のビルから無遠慮に撃ちまくる


 室内の様々な書類や備品が蹂躙され飛び散る様子は、ZOOMに依り世界中に生中継されていたが、カメラの着いたモニターが被弾して破壊され、途中で見えなくなる


 今は対面のビルからの攻撃だが、警備員も学生も居ないほぼ無人のビルだ

 いつ研究所へ侵入して来るか判らない


 もしかすると、此処へ足止めする為の攻撃かも知れなかった


 ヤトは弾倉交換の為か、1度銃撃が止んだ隙に、対面のビルに向けて火を吐いた


 ゴウッ!


 それはクシャミの時の様な可愛らしい物では無く、対面ビルの2階、3階、4階フロア全体から爆炎が吹き出す程の威力だ


 爆発音や銃声と炎に驚いたのか、隣接する動物園の鳥がギャアギャアと騒ぐ

 職員が残って居るのか、餌も貰えて居るのか分からないが、まだ全滅した訳では無さそうだ


 ドカドカドカ …

 大勢が廊下を走る足音が響く


 テロリストの別働隊が研究所へ侵入したのかも知れない

「大丈夫 … これは味方」


 ヤトが言った通り、入り口ドアを蹴破りやって来たのは東雲二尉と佐伯二曹のコンビだった


「ご無事ですかっ!?」

「東雲二尉!」

 腰が抜けて動けない諏訪子に手を貸し、脱出を試みる東雲

 佐伯は日下部に肩を貸そうとして、眼下で69式ロケット砲を構える工作員に気付く


「RPGッッ!!」

 東雲が諏訪子に覆い被さり伏せる中、佐伯は安全ピンを抜いて発射されたロケット弾をHK-417で狙撃した


 白煙を引き発射されたロケット弾の安定翼が展開した直後、佐伯の放った5.56mm弾が正確に起爆信管を捉え、その場で爆発する


 周囲に展開していた支那の工作員達は、爆発に巻き込まれ倒れたが、他にも多数の工作員が迫って居た

「糞っ、愛知県の◯村知事は支那から幾ら貰ってやがる!?」


「何なんですかあの人、ひょっとしてニュータイプ!?」

「朝霞のニュータイプ研究所出身かもな」


「朝霞!?理研はどうなってますか?」

 日下部が聞くが

「全員避難して機能していません、東京は此方より酷いですよ」 

 

 

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