第18話 宇宙の祖
分光、周波数解析の結果、ヤトの身体はあらゆる周波数帯域の光子をも自在に変容出来る事が分かったが、その理屈は不明だ
「おそらく炭素ベースで、肉体を構成してるとは思うんだけどねぇ …… まさか透明に為るとは想像以上だ、一体全体どうなってるんだい?」
調べられる範囲で観測しながら、DNAの解析結果を待つ
「ヤト君が未知の新種であるのは間違い無いけど " 神 " として定義付けるのはまだ無理があるな」
そりゃそうだ
神とは信仰上の存在でしか無く、科学的には実在しない妄想の産物でしか無い
「しかし、歴史は神の実在を裏付ける奇跡に溢れている、ファティマ然り、発掘されたノアの方舟も血の涙を流すマリア像もそうだ、そして宇宙開闢と人間理論!指向性パンスペルミア説は正しい事が証明される!」
興奮して並べ立てる口上は、まるでオカルトマニアみたいだ
どれもまだ科学的に実証が完了していないが、学会で相手にされない日下部の持論はオカルト雑誌「ヌー」に良く掲載されていた
唯物論を支えとする既存の物理学は奇跡を否定する
科学とは宗教に支配された定理を否定する処から始まった、妄信的な信仰に対する反逆者だ
結果、大地は平面では無く丸かった
太陽が地球を回るのでは無く、地球が太陽の周りを回って居た
だから物質世界を理解した積もりの現代人にとり、非科学的な現象や存在に関しては否定的だ
多くの現代人にとり奇跡とは集団ヒステリーに依る妄想や幻覚と結論付けられ、それ以上調べる行為はタブーとされ社会的に抹殺される
物理学が奇跡を認めるのは、自らの根源を否定する事に他ならず、現代社会の崩壊を招く
「神戸の富岳使えれば、DNA解析も直ぐだけど生憎、停電じゃどうしようも無い」
日下部は海外の複数の研究所のネットワーク経由でヤトのDNA解析結果を待つ
スマホが繋がらないのは停電で基地局が停止してるからで、電話回線自体はまだ生きているし、この研究所の屋上には衛星通信アンテナが在った
九州や北海道では、未だ火力発電所が稼働して居たが、全国的に原発は何故か停止中である
再稼働させた筈の原発も、どう言う訳だか臨界を得られなく為っていた
我が国が誇るスパコン「富岳」も不測の事態に備え停止中だ
ここISEE( 名古屋大学宇宙科学研究所 )のサーバーは必要に応じ海外とリンク出来た
「そう言えば、もう誰も残って居ませんね … 」
研究所は日下部以外、誰も居ない
「うん、コンビニやスーパーから商品が消えた時点で皆疎開したよ」
「先生は何故残ったんですか?」
「そりゃ決まってる」
日下部は椅子をクルリと回して諏訪子に向き直ると、子供の様に目をキラキラさせる
「ドラゴンが現れたんだよ!これを調べたいと思うのは科学者として当然だろう!?」
白髪に為っても、諏訪子が学生当時から変わらぬ情熱の持ち主だった
常人とはちょっと視点が違う
だからこそ研究者で居られるのだろう
くうぅ〜
可愛らしくヤトのお腹が鳴る
「諏訪子、オニギリ食べたい …… 」
「あ、ご飯炊くから少し待ってね?先生、キッチンお借りします」
「うん、君が水を確保してくれて助かったよ、洗い物は雨水タンクのを使ってくれて良い、トイレもそれで流してる」
そうか、断水したらトイレも流せない
これ、街じゃ衛生状態も最悪だろうな
下水処理やゴミ収集も止まってる筈だ
感染症とか流行らなければ良いのだけど …
医療機関も機能していないだろう
この研究所自体は大地震を想定して自家発電も用意されて居たが、食糧不足への対応は為されて居なかった
病院も自家発電は出来ても、食糧や医薬品の供給が停まっては機能しない
炊飯器で炊いたご飯でオニギリを作り、インスタント味噌汁と梅干しを皆で食べていると、PCに解析結果が出力される
「ん、んんっ!?何て事だ、人間の何十倍もの遺伝子情報が在る …… 素晴らしい!!」
モニターに釘付けだった日下部がクルリと向き直ると、ヤトの両肩を掴んで迫る
「ヤト君、君は一体何者なんだ!?」
「あなた達が " 神 " と呼ぶもの …… ヤトは
「うん?やおよろず …… 君の他にも神様が居るのかい?」
その時、PCのモニターにPTP通信が入る
「Professeur Kusakabe, que sont donc ces données ? Que se passe-t-il au Japon en ce moment ?! ( 日下部教授、このデータは一体何なのだ!日本で今何が起きてる!? )」
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