蒼刻の翼

アガペエな呑兵衛

第1話 未確認飛行物体


 ズダダダダダダダダダンッッ!!

 

 千葉県習志野の地下射撃場で、USP9mm自動拳銃の15発入り弾倉を20秒間に3つ立て続けに空にした佐伯二等陸曹は、手元のスイッチを操作して、30m先の標的を手元に移動させる


 合計45発の弾痕は、人型標的マンターゲットの頭部に全弾命中し、直径10cmの穴を形作っていた


「そんな速射をして、良く腱鞘炎に為らないな」


 隣の射座から東雲二尉が呆れた様に声をかけた


「鍛え方が違いますよ♪」

 銃を置いた佐伯は、人差し指をクイクイと動かして戯けてみせる


「あれだけの早撃ちで、全弾10cm圏内か …… 相変わらず腕は鈍って無いな。オリンピックなら金メダルだ」

「オリンピックに早撃ちラップショットは無いでしょ?それに、人も撃っちゃ駄目だし」


「お前が同僚仲間で、つくづく良かったよ」

 東雲は自分のUSP拳銃に11.4mm弾が12発装填された弾倉を装着すると、30m先の標的に向けて2発づつリズミカルに射撃を始める


 タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!

 2発づつ連射する、ダブルタップと呼ばれる射撃方法だ


 スイッチを操作して手元に寄せた標的紙の、人型の頭部には、両目と口部分に4発の弾痕で描かれたバツ印が出来ていた


「どうだ♪」

「先輩、サーカスに鞍替えしますか?」


「お前こそ、.45口径じゃ連射は出来ないだろ」

「弾数減るから嫌なんですよ」

「9mmじゃ防弾ベスト撃ち抜け無かっただろ」

「急所を外さなけりゃ良いんですよ」

 佐伯は眉間を指差して減らず口を叩く


「代償に腹撃たれてりゃ世話無えや」

 喋りながら二人共、銃身とスライドを外してクリーニングし終えている


 幾ら自衛隊とは言え、この様な自由な射撃訓練は許されない

 特別に選抜された特殊作戦群だからこそ、出来る事である


「例の噂、聞いたか?」

「空飛ぶドラゴンでしょう?まだTVじゃ報道規制されてるけど、SNSで炎上してますよ」


「マジ、なんだろうな …… 」

「レーダーに映らないらしいじゃ無いですか」


 昨日、突如として日本上空に出現した未確認飛行物体


 民間航空機の眼前を横切ってみせた漆黒の存在は、伝説に語られ、アニメやラノベに良く出てくる、所謂「ドラゴン」であった


 突然の航路変更を与儀無くされ、近隣の空港へ緊急着陸させられた航空機は、昨日だけで12機を数えた


 幾らパイロットが謎の空飛ぶ巨大生物ドラゴンに航行妨害されたと主張しても、どの管制塔も自衛隊のレーダーでさえ、ドラゴンの存在を確認出来て居なかった為に、運行停止処置の発令が遅れ、被害は拡大した


 出現範囲と想定される関東から中部にかけてNOTAM飛行禁止区域が設定され、事態を重くみた政府は直ちに航空自衛隊百里基地からF-15Jをスクランブル発進させたが、何しろレーダーに全く捉える事すら出来ずに、燃料切れになり手ぶらで帰還する羽目になった


 スクランブル一回で約800万の経費が飛ぶ


 万一マスコミに漏れたら「税金泥棒」やら「無能」「自衛隊不要論」まで炎上しかねない為に、徹底した報道規制がされる事になる


 それでも、始めの方の事故は乗客の目撃者証言やスマホ動画などがSNSに拡散されてしまい、揉み消すのも不可能な状況である


「でも空飛んでる相手じゃ僕等特戦群の出番は無いっすね」


「統合作戦本部はそうもいかんだろ、俺達も待機命令が出てるから、何かしらお呼びがかかるかも知れんぞ?」

「マジっすか!やたっ、ドラゴンスレイヤーに成るチャンス!?」


 出動命令が発令されたとして、一体どうやってドラゴンを倒す積りなんだろうな … 東雲は佐伯の能天気をある意味羨ましく思った


「先輩、官舎に戻ってシン ・ ゴジラのビデオ観て対策会議しましょうか!」

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る