え?うそ?10年後の私の幸せな家庭

キャミー

第1話10年後の未来!?

「ママ~、起きて~。マ~マ~」


―平凡な高校三年生の山本真紀子の不思議な日々がこの時から始まった。


?が浮かぶまどろみの中で、私は小さな手で体をゆすられていた。眠い目をこすり、やっとのこと目を開けると、そこには目のクリッとした丸顔の4歳くらいの男の子。その子は私に対し、満面の笑みで「マ~マ~」と繰り返している。事態を理解できずに微動だにしない真紀子に、男の子は抱き着いてくる。


(何が起きている・・・?)


辺りをキョロキョロと見回しながら、頭の中の霧がはれていく。ドクンドクンと鼓動が高まる。声にならない声が口から漏れ出す。


「あ、え?・・・え?」


(ここは?この子は?私は?)


昨日はいつも通り家に帰り、ご飯を食べてお風呂に入って、ベットの中で友達とラインを交わしてそのまま眠りについたはず。しかし、今目覚めると知らない部屋で見覚えのない子供に抱き着かれている。私はその子を優しく引きはがすと恐る恐る聞いてみた。


「あの~、君は・・・?」


「ママ、おはよう♪」


私の問いを理解していないのか、男の子はキラキラと輝く瞳で挨拶をしてくる。私はやっとのこと「おはよう」と笑顔を返しながらも、先ほどから自分を呼ぶ「ママ」という言葉に息が止まりそうな驚きを感じている。そしてふと、自分の左手の薬指を見て頭の中が真っ白になった。


(これ結婚指輪・・、だよね?)


「パパー、ママが起きたよ~」


「パパ!?」


男の子が大きな声で叫ぶと、私の動悸が最高潮に達し、心臓の音がドカンドカンと響いた。完全に眠気は吹き飛び、耳を澄ます。確かに、部屋の外からは物音が聞こえてくる。テレビの音、あとはガスでお湯を沸かす音だろうか。


(パパというのは、ママと結婚した人。ママとは私のこと・・。つまり、パパという人は、私と結婚した人・・・、私の旦那さん??)


耳まで真っ赤にさせながら、私の頭はぐるぐるとパパという言葉が回り続けている。


「奏太朗~、ママを連れてきて~」


(うわ!?)


大人の男の人の声が部屋の外から聞こえてきて、私はとっさに布団に潜り込んでいた。


「ママがまた寝た~。起きて~」


奏太朗(そうたろう)と呼ばれた男の子が布団に潜り込んできて私の手を取って引きずり出そうとするが、さすがに5歳の男の子には負けない。

それでも、私は布団を頭からかぶりながら、足音を忍ばせてドアの前に。物音を立てないように静かにドアをほんの少し開け、隙間からそ~っと外の様子を覗く。


(いた。)


私は視界に人が写った瞬間にドアをバタンと閉めた。


(うわ~、うわ~)


興奮しながらも視界に入った男の人の様子を思い出す。ヤカンからカップにお湯を注いでいるすらりと背の高い男の人がちらりと見えた。ほのかにコーヒーの香りが漂ってくる。


「ママ、何やってるの?」


「あっ、待っ、・・」


不思議そうな顔で、奏太朗は部屋のドアを開けてリビングに入っていった。すぐにリビングから見られないよう、大きく開け放たれたドアの死角に隠れる。


(一人にしないで~)


布団にくるまりながら、どうしていいかわからずにいると、


「何してるの?」


(ぎゃーーーーーーーーーーー)


見上げると、真上で男がコーヒーを飲みながら見下ろしている。


「真紀子さんはコーヒー飲む?今パンは焼いてるから」


チンと鳴ったトースターの音を聞いて、男はリビングに戻っていった。私は何も言えずに固まっていた。心臓が大きく鳴りっぱなしで息苦しい。男は大学生くらいだろうか、細身で若々しく、少しつりあがった目が印象的な人。


(かっこいいかも・・・)


混乱しながらも、「自分の旦那様」という響きが高校三年生の女子の胸をときめかせた。自分の左手の薬指の結婚指輪を見てうっとりとしながらも、


(鏡が見たい・・)


周りを見回して鏡を探した。すぐに鏡を見つけたが、その隣にそれ以上に目を奪われるものがあった。


「結婚式の写真・・」


その写真は確かに、幸せそうなウエディングドレスを着た私と先ほどの男の人。


(大人だ)


写真に見とれながら、やはり何年か先の未来であることを理解し始めた。


「やっぱり・・・」


鏡を見つめながら大人になった自分の顔を触り、ほくろの場所などを確認していく。

ここまでくると、気持ちも落ち着き、どんな世界かという好奇心でいっぱいになっていた。


(彼と話したい!)


私は期待と少しの不安の中でリビングに行くと、あらためて男の人と朝の挨拶を交わした。

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