記憶と真実 1
……わたしの記憶が、戻る?
わたしの胸に、ふわりと期待が広がるのと同時に、記憶の中に残っているコニーリアス様の言葉が浮かんで来た。
――思い出させる方法がまったくないわけではありません。けれど、魔法省の長官としてそれは許可できません。その方法は、夫人、あなたにも負荷が……あなたの記憶が傷つく可能性がある。あなたは罪人ではない。そんなあなたに、この方法は勧められないし、してはならない。ご理解ください
わたしは以前、クリフ様が忘れている初恋の女性の記憶を思い出す方法はないかとコニーリアス様に相談した。
あの時コニーリアス様は方法はあるけれど許可できないと言った。
許可できない、ということは、忘却の魔法で忘れた記憶を戻す魔法もまた、禁忌魔法に該当するのではなかろうか。
わたしの記憶を戻すために禁忌魔法を使えば、クリフ様は今度こそ罪人になってしまう。
忘却の魔法は許可なく他人に使用した場合罪に問われるが、クリフ様の場合は自分自身に使用したので、前回はお咎めなしとなった。
しかし、コニーリアス様が許可できないとおっしゃった魔法をわたしに使用することは、法律で禁止されていることに抵触するかもしれない。
忘れたことは思い出したいが、わたしはクリフ様を罪人にしたいわけじゃない。
ふるふると強張った顔で首を横に振ると、クリフ様がわたしが何を懸念しているのかわかったようだった。
「アナスタージア、君の記憶を戻すために魔法を使う許可を出したのは陛下とコニーリアス長官だ。明日、コニーリアス長官がこちらに来て君にも説明してくれることになっている。その説明を聞いてからもう一度考えてくれないか? もちろん、説明を聞いた後で君が嫌だと判断したのであれば、無理にとは言わない」
「陛下とコニーリアス様が許可を出したんですか?」
「ああ。今回、君は完全なる被害者だ。そのため、陛下とコニーリアス長官が話し合い、君が望むのなら魔法を使用することを許可してくださった」
「そうですか……」
その方法がどんなものかはわからないけれど、危険はないのだろうか。
クリフ様の記憶を戻す方法にはわたしに負荷がかかるとコニーリアス様はおっしゃった。
わたしの記憶を戻す場合、それとは逆――すなわち、クリフ様に負荷がかかるということはないのだろうか。
どんな方法で記憶を戻すのかは定かではないが、このあたりはコニーリアス様に詳しく確認する必要がありそうだ。
わたしは、クリフ様が危険にさらされてまで、記憶を戻そうとは思わない。
「わかりました。コニーリアス様の説明を聞いて判断します」
期待はしないでおこう。
わたしは、思い出の中のクリフ様の顔を忘れてしまったけれど、生活に支障があるわけではない。
思い出したくないと言えば嘘になるが、過度な期待をすれば、そのあとの絶望も大きくなるだろう。
……大丈夫よ。もし思い出せなくても、きっと。
目の前にいる「クリフ様」はとても優しい。
いつか、改めて彼を好きになることもあるかもしれないから……だから、わたしは、大丈夫。
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