22.5話
そろそろ百合を書かないとタヒぬぜ、の詩子視点
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駅のトイレの鏡で最後のチェックをする。
前髪よし、メイクよし、服の乱れなし。
服は手持ちでいちばんかわいいのを選んだ。お父さんやお母さんにも何度もかわいいか確認した。お父さんは何度説明しても「男か!?」なんて騒ぐし、お母さんは5回目からは呆れてまともに相手してくれなくなったけど。
なんでこんなに気合を入れてるかと言うと、あーちゃんの家にお呼ばれしているからである。
夏休みに入って、今年もまた宿題がどっさり出た。
それ自体は見るだけでも憂鬱だったんだけど、あーちゃんが「ウチで一緒に片付けちゃおう」と誘ってくれたので宿題の山が宝の山に見える。
今日は午前中に宿題と戦って、お昼ごはんを教えてもらいながら一緒に作り、午後からショッピングの予定。つまり1日デートだ。
気合も入るというものである。
トイレから出て改札に向かうと、外のベンチで待ってるあーちゃんが見えた。
夏休みに入って早速染めたらしいミルクティーブラウンの髪色に、ロングパーカーとショートパンツに厚底サンダルのラフな組み合わせ。
……かわいいしサマになってるんだけど、その身長の割に長い生足を投げっぱなしはどうかと思う。通りすがり男の人がチラチラ見てるし。本人は視線に気づいてるのかいないのか、スマホをじっと見てるし。まったく、変なところで無防備なんだから。
一刻も早く保護しなければ、と急いで改札を出る。
こっちに気づいて軽く手を振るあーちゃんに駆け寄る。
「おはよ、あーちゃん」
「おはよー、今日はおめかしさんだね」
「いかがでしょうか、先生」
「よく似合ってる、かわいいよ」
うん、その言葉と笑顔だけで頑張った甲斐があった。
★
雑談しながらあーちゃんの家に向かって歩く。
日傘は大きめのものを持ってきたので相合い傘だ。暑いよー、と言いながら腕を組んでくるあーちゃんがかわいい。広がって歩くと他の人の迷惑だからね、これは仕方ない、うん。
というか本当に家が学校から近くてびっくりした。歩いて10分もないんじゃないかな。学校からも見える大きめのマンションの6Fがあーちゃんの家だそうだ。
マンションのエントランスを通ってエレベーターに乗る。
ちょっと緊張する。ご両親と離れてお姉さんと二人で暮らしてるのは聞いていたので、お義姉さんにきちんと挨拶をしなければ。第一印象は大事だからね。
「あ、今日はお姉いないよ」
……それはつまり、二人っきりってこと?
エレベーターを降りて廊下を歩く。一番端の部屋があーちゃんの家らしい。
景色も綺麗だし、マンション自体の内装も落ち着いた良い雰囲気だなあ。家賃もかなりお高いんじゃないだろうか。家がお金持ちなのか、お姉さんの稼ぎが凄いんだろうか。お姉さんが国立出てるって話は聞いたことあるけど。
玄関を開けてもらってお邪魔すると「にゃーん」とかわいらしいお出迎えがあった。
直接会うのは初めてだけど、動画では何回もみた飼い猫の平蔵くんだな。
「ただいまー平蔵くん」
サンダルを脱いたあーちゃんが抱っこすると平蔵くんは頭を擦り付けて甘え始めた。
「おー? どうしたどうした。寂しかった?」
うわぁ……その顔は反則だよあーちゃん。普段そんなデレッデレの蕩けた笑顔見せたことないじゃん。
これは危険だ。男子や同類の女子に見せたら一撃で落とされかねない。
根回しの成果もあって学校ではわたし達の間に入ってくる人はほぼいないけど、これは強力すぎて介入してくる人が出てきそうだ。絶対に人に見せないように言っておかなくちゃ。
……それはそれとして、とりあえず写真撮っておこうね。
★
部屋に通してもらうと、あーちゃんはお茶取ってくるねと席を外した。
一緒に残された平蔵くんが、ふんふんとわたしの匂いを嗅いでたり前足でちょんちょんと突いてきた。とりあえず嫌われてはいないみたいで一安心。
ぐるっとあーちゃんの部屋を見渡す。かなり広い部屋だ、わたしの部屋の1.5倍ぐらいありそう。
PCデスクと大きなデスクトップPC。モニターには、ゲーム機も接続されてるみたい。
普段勉強しているであろうローテーブルの上にはペンスタンドや文房具入れが並んでいる。
ベッドはシンプルなシングルベッドで、小さい本棚には参考書がずらっと並んでる。マンガとかはあまりないっぽいけど、小説の類はいくつかあった。
ハンガーにはさっき来ていたパーカーの他に色々上着なんかがかけてあって、その後ろに大きなウォークインクローゼットがある。
あとは小さめだけどメイク道具やドライヤーなんかがずらっとならんだドレッサー。
全体的にこう……シンプルな部屋だ。モノは多いけど飾り気があんまりないというか。ベッドの傍らに随分とくたびれたサメのぬいぐるみがあるぐらいで、小物の類はほとんどない。
あーちゃんらしいといえばらしいけど……同い年というよりもっと年上の女性か、下手をすれば男性の部屋(入ったことないけどそれっぽいイメージ)みたいにも見える。
「おまたせー」とあーちゃんが帰ってきた。
「麦茶でよかった?」
「ありがとう、いただきます」
コップに注がれてる麦茶を二人でいただいた。キンキンに冷えてて、暑い中を歩いてきた身体に染み渡る。
ポットに入ってるのは常温のものみたいだ。あんまり冷えすぎても身体に悪いからね、気遣いがありがたい。
「じゃ、早速やろっか。平蔵くんはハセガワと遊んでおいで」
「ハセガワ……?」
「ハセガワ」
あーちゃんはサメのぬいぐるみを指した。
……あの子ハセガワっていうんだ。なんでハセガワなんだろう。
あーちゃんなのかお姉さんなのかわからないけど、ネーミングセンス独特だよね……。
宿題にとりかかる。
内容は基礎固めと復習が中心だけど、とにかく量が多いのでテンポよく進めていかないといつまでも終わらない。プリントや問題集の他に論文系もあるし。
更に休み明けにこの内容を踏まえた小テストもあるから適当に埋めることも出来ない、とにかく気が抜けないのだ。進学校は辛い。
それでも二人でやるのは気持ち的に楽だ。一人だとついスマホや本棚に目が行ってしまうけど、お互いに監視しあってるからそれもないし、わからない部分は教え合う事もできる(わたしが教えてもらってばかりだけど)。
集中してやれば予定してた分は終わらせられそうだ。
集中できればね……。
パーカーを脱いだあーちゃんは上がノースリーブのタンクトップ1枚だった。もちろんね、その下は見えないタイプなんだけど、鎖骨とかモロ出しだし、ちょっと動くと隙間からね、ちらっと見えるんだよね。
いけないけない、集中しよう。良かれと思って声をかけてくれたあーちゃんに申し訳ない、うん。
……ライトブルーか……。
★
なんとか理性を取り戻してノルマ分を終わらせることが出来た。
やっぱりあーちゃんは教え方も上手だ。家庭教師のバイトとかやったら大人気になるんじゃないかな。
お昼ごはんはナポリタンを作るらしい。理由は材料がシンプルで包丁や火の扱いが勉強でき、失敗しにくいから。あと単純にあーちゃんがパスタ好きだから、とのこと。
具ははタマネギ、ピーマン、ソーセージ。
まず比較的扱いやすいソーセージを切ることになったんだけど
「待って待って待って、怖い怖い。一緒にやろう」
わたしのド素人丸出しの包丁の扱いをみたあーちゃんが手を添えて一緒に切ってくれた。少しひんやりした肌の感触にドキドキする。て、手汗とか大丈夫かな。
パスタを茹でるタイミングとか具材の炒め方にちょっとしたコツがあるらしいんだけど、そこはベテランの先生がいるから安心。
出来上がったナポリタンはとっても美味しかった。
これ二人の共同作業だよね、うん。一緒に暮らすようにできたらわたしがあーちゃんに作ってあげたいなあ。
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