15話

お姉に「歌枠の練習をするので付き合って」と言われたのでカラオケに付き合うことにした。

来月のにこぷれ杯は再来月のエピック大会の準備のために中止にして、急遽カラオケ大会をすることにしたらしい。提案しといて何だけど、なんか大事になってしまって申し訳ないやらなんやら。

レオナさんは軽く「出来る」って言ってたけど、実際に大会をやるには結構な手間とコストがかかるらしい。まぁ世界中で遊ばれててプレイヤーもワールドワイドでいるゲームなんだから、使いたいイベンターも当然多いだろうしね。

大人のお姉とかレオナさんやスタッフの人たちが仕事として対応してるんだから、学生の私が出る幕はないんだけども。


カラオケもなんか久々だなあ。学生の遊びとしては定番らしいけど、塾とか行ってる子も多いからうちのクラスではそんなに頻繁に行ってる子はいない感じ。テストの打ち上げとかでいくぐらいかな。

向かってる途中でお姉に連絡が来て、にこメン二人もカラオケに来てるらしいので急遽合流することになった。身内とはいえオフでホイホイ会っていいんだろうか。

お姉もレオナさんも気にしないでいいとは言ってたけど。



カラオケ店に到着。駅前にあるお馴染みの大型チェーンである。店名も看板デザインも徹底的にコスト省きました的なあのお店だ(実際にそうなのかは知らないけど)。

先方はもう部屋に入ってるらしいので受付とドリンクバーの注文を済ませて部屋に向かう。


ドアの前に小柄な女性が立っている。あの人かな。

近づくとこっちに気がついて手を振ってきたので、そうっぽい。


「蓮理ーこっちこっち、直接会うの久しぶりだね」


「元気そうね、小春」


「まぁね。そっちが妹さん?」


「ええ」


「はじめまして。中にもう一人いるから挨拶はそっちでしよっか」


どうぞ、とドアを開けてくれたので会釈して中にはいる。

座ってタブレットを眺めていた女性がこっちに気がついて会釈してきたので、返しながら適当に座った。


「改めてはじめまして。珈原こはらこまめをやってます、佐藤小春です。よろしくね!」


「はじめまして。名瀬かおりです。栞川まひろをやらせてもらっています」


「皆瀬 愛です。よろしくお願いします」


えーと、最初に挨拶したショートポニーの小柄なお姉さんが珈原こまめさん、中にいたミディアムボブのお姉さんが栞川まひろさんだね。

珈原こまめさんは「馴染みの喫茶店のウェイトレス」、栞川まひろさんは「古書店の店員のお姉さん」がそれぞれコンセプトだったはず。ふたりとも1期生だ。

身バレ防止のために実名で読んでほしい、と言われたのでそうすることにする。名前がふたつあるのって地味にややこしいな。


「とりあえず歌おっか! まずは肩慣らしで各自好きな曲にしよう」


早速だなあ。まぁ練習に来たんだから当然か。そのまえにドリンクバーで各自飲み物をとってきた。


んで、各自歌って30分ほど経った。

お姉はいつも通りV系、こまめさんはアイドルソング、まひろさんは10年代ぐらいのJ-POPかな。

私はボーカルが強くて歌詞をしっかり聞かせる曲が好きなので、割とアニソンが好きだったりする。アニメ自体はあんまり見ないんだけども。

流行りのやつとかも聴くんだけど、歌うのはちょっと難しい。


というかみんな上手いなあ。ただのカラオケじゃなくて人に聴かせるための歌になってるというか。お姉はいつも通り情熱的でカッコいいし、こまめさんは思わず一緒に歌ったり体を動かしたくなる、まひろさんは心の中の「こういうのでいいんだよおじさん」がうんうんと頷くような感じ(上手く言語化できない)。

んで練習なんだけど、歌枠といっても好きな曲を歌えばいいというわけではなく、やっぱりリスナーさんにウケる曲が望ましいらしい。定番はやっぱりボカロとアニソン、にこぷれリスナーは比較的年齢層高めだから0年代とかもいけるそうな。

じゃあその辺を歌っていこうって各自選んでる途中でこまめさんが言い出した。


「ねぇ、これ配信にしない?」


「え」


「いいですね、前哨戦ということにすれば宣伝にもなりますし」


「いちおう玲花に確認とるわね…わ、爆速で返ってきた。おっけー、むしろ参加したい! ですって」


「じゃあ告知するね。…スマホしかないからYooTubeは無理かな。Xtterのスペースにしようか」


音源利用って権利関係とかで色々あるっぽいけどいいのかなと思ったけど、ちゃんとそういう配信向けのサービス形態があって、以前から契約は結んであるからいいらしい。提供さえ明記すればいいんだって。



【緊急配信】カラオケやるよ〜【珈原こまめ/栞川まひろ/緋影レン】


「あーあーあー、聞こえてる?」


『聞こえてるー』

『大丈夫ー』

『急にびっくり』

『音遠い?』

『カラオケボックスか?』


「はーい、大丈夫そうだね。皆でカラオケ練習してたんだけど、せっかくなので急遽配信しまーす。珈原こまめだよー」


「栞川まひろです。ゲリラ配信にたくさん集まっていただいてありがとうございます」


「緋影レンでーす。妹もいまーす」


「いまーす」


『珍しい組み合わせ』

『まぁ配信は助かる』

『女4人、密室に』

『なにも起きないはずもなく…』


「じゃあ早速だけど歌ってくよー。練習だからあんまり上手い下手は気にしないでね」


『ペンライトないのが悔やまれる』

『マスク仕事しろよ』


さて、こういう流れなら私は賑やかしに回ったほうがいいかな。みんなライバーさんの歌を聴きたいだろうしね。



1時間半ほど歌った。3人とも上手だから見てるだけでも凄い楽しい。というか生ライブってファンからしたらお金払ってでも見たいレベルなのでは?

1度、某堂島の龍みたいな合いの手を入れたのだが死ぬほど不評だった(大爆笑はされたけど)のでタンバリンとかで盛り上げに徹する。SNSのほうも盛り上がってる、らしい(やってないので見方がよくわからない)。まぁ練習だからトチったりすることもあるんだけど、そういうとこも笑いに転換してしまうのは流石1期生だなぁ。

あ、時間的にも体力的にも、もう少しで終わりだね。


『妹ちゃんは歌わないの?』


「…ってコメントで言ってるよ」


「皆はライバーさんの歌を聴きたいのでは?」


素人の歌聴いたってしょうがないでしょ。


『1曲ぐらい聴いてみたいぞ』

『せっかくの機会だしいいんじゃない』

『ソロに抵抗があるならデュエットとか』


ふむ、デュエットか。

それならライバーの歌が入るし、いいのかな。


「おねーさんたちはちょっと休憩させてもらうから、どうぞどうぞ」


「私も少し興味ありますね。魔王さんがどんな歌を歌うのか」


「いや、魔王じゃありませんからね? じゃあお姉、あれやろうよ。サヨナラ=ウィング」


「あーいいわね、やろっか。いつも通りあたしが朱でいい?」


「りょ」


『わーわーわー』

『盛り上がってまいりました』

『好きな曲で嬉しい』

『久々に聞くな』


よーし歌うかー。



サヨナラ=ウィング。私の大好きなロボットアニメの劇場版のクライマックスでかかる曲。

パイロットの主人公と、青のアイドル、朱の歌姫の3角関係を中心にしたドラマは、劇場版ではふたりとも主人公と結ばれずに終わる、文字通りサヨナラの曲だ。

これねー2番からが好きなんだよね。私の好きな青のアイドルの主人公を想う歌詞が入ってきて、愛おしい、愛おしいって気持ちが伝わってきてね。アップテンポで疾走感のあるメロディーなのに歌全体は切なげなのも好き。

うん、お姉とは歌い慣れてるから息もピッタリ。青のアイドルの可憐で繊細な歌声とね、それを支える朱の歌姫の力強いボーカルの対比がね、また美しいんだ。


───う、うわぁ…

───これは…


んでサビの終わりからCメロに入るとこがね、また好きなのよ。Cメロはほぼ青のアイドルの独唱なんだけど、主人公とは結ばれなかったけど、それでも私は貴方を愛しているという思いがね、少し切なげなメロディで表現されててね、好きなんだよ。愛してる、のとこの情感がね、凄いんだよ。これを再現したくてめっちゃ練習したもん。


───え、鳥肌たってきた…

───私もです…


ラスサビがね、また最高なんだ。青のアイドルが恋に決着をつけて、未来を見据えて歩き出す決意。赤の歌姫の、病に蝕まれた体で命をかけて懸命に歌を届ける意思と覚悟。少しの悲しさと前向きな希望をね、シンガーさんが見事に表現していてね、凄い好き。歌ってるだけで胸に込み上げてくるものがあるんだ。

ラスト、アウトロに向けて階段を駆け上っていくようなメロディといっしょに10秒近いシャウトがあるんだけど、そこでトチったらクライマックスが台無しになる。頼むぞお姉。

────────────────────────♪ よし、綺麗に決まった!


───すご…

───なんか涙出てきました…


最後にタイトルをシャウトして終了! まだちょっとあるけどここで区切るほうが好きだから曲を終える。

ふー気持ちよかった。いえーい、お姉とハイタッチ。やっぱり好きな曲を全力で歌うのは楽しいね。お姉も過去イチいい声出てたし、組員さんも満足いったのではないだろうか。


「凄いよかったよーやるじゃん妹ちゃん」


「コメントもすごく盛り上がってますよ」


『なんか鳥肌たった』

『ちゃんとした音源で聞きたい』

『カラオケ環境なのが惜しくなるな』

『流石姉妹息ぴったり』

『原作見てくるか…』

『レンも凄いけど妹ちゃんも凄い』

『妹ちゃん感情こもりまくりで好きなのが伝わってくる』


よかった、好評だったらしい。


「妹ちゃん! 次! 次あたし! LI-ONいこう!」


「じゃあその次は私です。 Remember17は譲りませんよ」


え、えぇ…どうしてそうなった…?

目でお姉に助けを求めるけど既にジュースを啜ってリラックスモードだった。駄目だこりゃ。


『まだまだ宴は続くぜえ』

『歌いたくなってくるー終わったらカラオケいこう』

『気になった人はサブスクで原作見れるぞ』

『画面の前で一緒に歌う』


えーい、もうどうにでもなれ。

この後めちゃくちゃデュエットした。



後日、レオナさんから姉妹デュエットでの歌ってみた動画の収録依頼が届いた。

いや、なんでやねん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る