7話

「ほわあぁぁぁ」


お昼を食べてお腹いっぱいになったら眠気が一気にきた。

慣れない配信活動で思った以上に疲れがたまってるのかもしれない。ゲームしたりする時間を配信に宛ててるから睡眠時間自体は変わってないんだけどね。


「あくびおっきい」


一緒にお昼を食べてた志津木詩子ちゃん、しーちゃんが笑いながら口にお菓子を放り込んできた。あむあむ、マシュマログミおいちい。

しーちゃんは仮にこれが恋愛漫画の世界なら第一ヒロインの座が約束されてるような、ザ・正統派ヒロインみたいな子。黒髪ロングでスタイルよしの清楚美人で文武両道、性格も素直で明るいと文句のつけようがなし。クラスカーストがあったら一軍エースを確約されてるだろう。ちょっと腹黒いのはご愛嬌。オタク男子たちは「ラノベヒロイン」とか呼んでた気がする。

これだけの人材が特別目立つわけでもないのが、うちのクラスの人外魔境ぷりを表してるな。


「実力テストも中間考査も終わったし、気が抜けちゃった?」


「うー、そうかも」


テストはまあいつも通りの手応えって感じだった。順位もいつも通り。ちょっと伸び悩んでるなあ。勉強の仕方を改善する必要があるかもしれない。


「ちょっと寝たら?」


しーちゃんが膝をぽんぽんしながら言う。膝枕してくれると。しーちゃんの太ももは程よく肉付きがよくて柔らかそう。

午後の授業に響きそうだし、お言葉に甘えようかな。


「苦しゅうない。お礼に平蔵くんの寝落ち動画セレクションを授けよう」


「ありがたやー」


秘蔵の動画を集めた共有ドライブのURLを送って、ブレザーの上着をスカートにかけ、椅子をくっつけて膝枕してもらう。

うおーめっちゃいい匂いする…感触も柔らかい…あ、頭撫でてくれてる…気持ちいい…スヤァ。



起きたらしーちゃんがめっちゃニコニコしてた。動画はお気に召したらしい。うちの平蔵くんはかわいいだろう。

あと周りの男子たちが赤くした顔を一斉に逸らした。なぜか一部の女子とギャル山さんも顔赤くしてた。花ちゃんは目をキラキラさせてサムズアップしてきた。

え、ぱんつ見えてないよな?

気にしてたらしーちゃんが「ぱんつは守ったよ」と小声で言った。守られたらしい。

しかしちょっと寝てすっきりした。頭のボヤッとしたのが消えた気がする。

しーちゃんにお礼を言ったらめっちゃツヤツヤの笑顔で「こちらこそ」と返された。

…?そんなに平蔵くんの動画が気に入ったのかな。平蔵くんはかわいいからね、仕方ないね。また集めておこう。

あと太もも様を「柔らかかったです、あとめっちゃいい匂いしました」と拝んでおいたら、しーちゃんが真っ赤になって「やめてよー」と照れていた。かわいいなこの女。あと男子ども聴き耳立ててるのバレてるぞ。


そういえば平蔵くんの名前って配信で口に出していいんだろうか。クラスで度々話題にしてるから仲のいい子は名前知ってるけど、身バレに繋がらないのかな。

お姉にRINEで聞いたら

【ノブタメで通してるよ】

と帰ってきた。んな安直な。



帰宅したら平蔵くんが出迎えてくれた。今日は塾だから着替えてすぐ出ないとだけど。お姉は出かけてるっぽい。

平蔵くんの顎をゴロゴロしながら、試しに「ノブタメ」と呼んでみた。

そしたら急に目をくわっと開いて、シャーッと顎を撫でる手をめっちゃ猫パンチしてきた。あ、これ怒ってるやつだ。しかも大分マジなやつだ。

いや駄目じゃんお姉! 全然気に入ってないよこの名前! それにしても嫌いすぎじゃない…?そんなに嫌か、宣以。

荒ぶる獣をちゅ~るで宥めつつ自動給餌器と給水器をチェックして、着替えて軽く前髪とメイクをなおして家を出た。

そうか、あの甘えたがりの平蔵くんが寝落ちしてるお姉を放っていたのは、ノブタメ呼びが気に入らなくて不貞寝してたのか。

納得できたような、出来ないような。



塾から帰ってごはんとかお風呂とかノルマ分の勉強とか諸々終わってゆっくりしてたら、お姉から誘いが来た。今日はマシマロ消化がてらの雑談だそうな。

ゲーム配信以外で私の需要とかあるのかなと毎度思ってるんだけど、コメントも概ね歓迎してくれるぽいので出ることにした。



【好きな服のブランドとかありますか?】


「あたしはENVY ROYALEとかLA DIOSAとか好きよ」


「私はBADBITZとかDOPE ANGELZとか。最近のブランドだとBLACK LiPSとかIRONY KISSとかもお気に入り」


「もうそのへんはさっぱりだわ…」


「てかお姉は最近守りに入りすぎ。スタイルいいんだからもっと攻めるべき。選んであげるから見に行こう。お店はチェックしてあるから」


『服のことになるとめっちゃ喋るな妹ちゃん』

『ブランドで大体どんなのが好きなのかわかるw』

『あんまり派手なのはアラサーにはキツイの…』




【ゲーム上手くなるコツは?】


「めっちゃ私宛てに来てないこれ」


「割と多いわよ、あんた宛てのやつ。で、どう?」


「ゲームは基本的にロジックで出来てるから、まず要素を分解して要点を整理する。んでキーになるポイントを抑える。んで再構築する。アクション系なら反復して指で覚える」


『出来たら苦労しないんだよなあw』

『考え方が完全に理系のそれ』

『ふえぇ…おじさん直感でしかプレイできないよぅ…』




「ごめん、ちょっとお花摘み行ってくるわ。繋いどいて」


「えぇ…」


仕方ないとは言え、主役がいなくなって素人だけ残してどうすんの…?


『妹ちゃんと一緒だとお嬢もリラックスしてる希ガス』

『せやな。声とかいつもより柔らかい』

『¥200 場繋ぎ代』


「え、あ、aaaさんありがとうございます…で、いいのかな?」


『¥500 スパチャ読めて偉い』

『¥1200 妹、成長したな(腕組み)』

『¥800 リアルJKに名前読んでもらえると聞いて』

『¥1500 俺が先だ』


「わっ、わっ、一気に来た…これ全部お金なんですよね。凄い世界だ…」


『¥500 スパチャは初めてか?力抜けよ』

『それ微妙にセクハラだから…』


「あっははは…えっと、bbbさん、cccさん、dddさん…」




「あ、こら。いたずらしたら駄目だよ…っ…ノブタメ」


平蔵くんがマイクの風防をてしてしし始めた。てかあぶな、平蔵くんって呼んじゃうとこだったよ。

ノブタメ呼びが気に入らないのか、わざとらしくにゃーにゃー鳴きながらこっちの言う事を無視してひたすらぽすぽすしてる。


『にゃー』

『にゃー』

『にゃー』

『猫ちゃんくるとIQ下がる組員好き』

『ノブタメくんかわゆす』

『猫ASMR』


「もう、駄目だってば」


強引に持ち上げて膝に乗っける。マイクに乗らないぐらい小さな声で耳元で「平蔵くん」って呼んであげたら落ち着いた。そんなに嫌かノブタメ。


「あぁ、マイクに毛がついちゃったよ」


手で触るとガサガサしちゃいそうだし、息で飛ばすか。

ふーーーっと。


『!?』

『うおおおおおおおお』

『ぞわっときたー』

『なんかエロい…』

『¥3000 イヤホンするからもう一回!』

『¥10000 助かる』

『¥5000 ワンモア』


「えっえっ、何!?どうかした!?」


「ただいまー…うお、何この流れ」


「ど、どうしようお姉…!?」


「…とりあえず、もう一回ふーってしようか」



今日も、配信は楽しい。

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