ビッグ一派

 シンは煙の中、いくつかの村が潰されたことを聞いた。この冬のことだそうだ。レイが薪を蹴飛ばしてくれなければ、燻製になるところだったなと涙を流しながら思った。


「他の村人は院長の制止も聞かずに領主に逆おうとした。村が取り上げられて、村の連中はすべて消えた。儂ら含めて他の村々は怯えてしもうてな。今は院長殿に頼るしかない」

「あの人は死んだ」とレイ。

「何と!」


 村長が驚いた。

 シンの背後から、若い二人がふらふらと出てきた。自分たちが院長に止められた本人だと告げた。


「死んだんですか」

「ええ」とレイ。

「院長殿は近々、力のある剣士が現れて、コロブツを覆い尽くしていた呪いを解いてくれるだろうと話してくださいました。もうしばらく我慢してくれと仰いました。もし剣士が現れなくても、わたしがどうにかするとまで。死んでしまうなんて」

「殺されたのよ」


 戦いがはじめにあるのは、シンは変だなと考えた。普通は話し合いの次に戦うのではないのか。ウラカの行動を思い起こすと、話し合いなどする気がないように思えた。

 村長が杖のコブをひねった。

 琥珀の粒が現れた。


「院長殿は白亜の街の使いが持ってきてくれたと渡してくれました」

「教会は塔の街にはないと聞いていましたが」


 シンが尋ねた。


「信じている者はおるということです」


 レイは粒を返した。


「わたしたちは塔の街から来た。この剣ともう一つの剣を携えてね。そのもう一つはイモジに奪われた。だから行かなければならない」

「ビッグ一派の若造か」

「ビッグが支配している。ミタフの呪いについて聞きたいんですが」


 シンは尋ねた。


「そもそもミタフの民が悪い。聖女教会のことはご存知かな」

「院長のことしか知りません」

「ずいぶん昔のことになる」

「あの……もし話が長くなるようでしたら、降ろしてくれませんか」

「聖女教会が来るまでは、ここは湿地だけの不毛の地でな。湖の近くは泥沼で、遠くは枯れる。何もできん土地だったそうな」


 レイが手刀で縄を切ると、シンは下に重ねた薪の上に突っ込んだ。


「教会は我々のために呪術や技術をもたらしてくれたそうだ。しかしいざ民がすべてを手に入れたとき、我々はミタフ村を中心に団結して教会を追い出したのだ。以来ミタフは呪われたと聞いておる」


 後ろ手の縄もほどいてくれと言いたいところだが、村長や村人の湿気た空気に満たされて言えなかった。


「いつの領主の話?」


 レイは尋ねた。


「わからんのだ。昔から伝わる戒めの話にすぎんかもしれん。こうして貧しいままなのは、今にして考えると、そういうことかもしれん」


 シンは納得していない。昔話を今でも信じているくせに、カネのために落ち武者狩りは平気でする。


「たぶん領主らのものです。矢を持った連中と兵士が水路沿いの道を行きました。で、しばらくして空に矢を射かけたんです。風を斬る音が凄くて驚きました」

「シン、それがとうかしたの」

「なぜ僕たちのいるところがわかるんだ。ここは畑しかないのに正確に狙われた。レイ、縄を……」


 レイはハッと気づいた。


「わたしたちは監視されてる。こんな何もないところで、どこから来るかわからないわたしたちに、正確に矢を射かけるなんておかしい」


 レイは次々に考えた。


「でもわたしは信じない。ズミやトマヤは悪くない」


 村人が怯えた。レイの眼が妖しく輝き、本人は気づいていないが、一帯を喰らうように照らした。


「僕は今さら誰がどうしていたとしても気にしない。もう領主とやらに会うしかないんだ」


 シンが言うと、レイは動じながらも頷いた。しかし長老から領主のいるであろう敷地へ入るのは至難の業だと言われた。入口がどこにあるのかすらわからないらしい。


「儂らも知らん。領主なんぞも見たことがない。こんなところに教会の偉いさんがいるとは思えん」

「だから領主の代理人がいるんだろう。ビッグ一派が。連中が好きにしてるんだ」

「おまえさんらは、教会の代理人のビッグ一派を敵にする気か?」

「どうでもいい」


 レイが答えた。レイは誰が相手であろうともいい。ここに守るべき人がいるんなら何でもすると答えた。


「ウラカの恨みも晴らしてやる」


 レイは拳を軋ませた。

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