水の利権

「もう観光じゃないよな」

「教会へ捨ててくればいい」


 レイは今度こそ街道を歩いた。まだ賞金首ではないようだ。この世界の月はいくつあるのだ。街道を歩いていると、青空に三つの月が見えていた。知られたくないことはある。


「シン、あんなこと気にするな」

「あれは気にしてない。もう僕たち二人とも呪われてるんだ。考えても意味がない」

「疲れたのか」

「やけにやさしいな」


 レイが尋ねた。腰に手を添えてくれているので、何とかしてやりたい。白亜の塔でも相当なキズを負っていることはわかるくらいだ。ただシンは我慢して言わないもわかっていた。


「大丈夫なの?」

「次の駅まで少しだろうから」


 レイは前から来る行商人風に尋ねた。すると少しだと教えてくれた。この世界の距離感は信じられないなとシンは呟いていた。


「どこかで休もうか?」

「じいさんに見えるのかよ」

「そういうわけじやないけどさ」


 くたくたで道の駅にたどり着いた。

 馬車や荷車が行き交い、途中では馬に休憩させる駅もある。駅にはそれで暮らしている人たちの集まる家々も並んでいた。ただこれが落とし穴でもある。彼らがすべてが良い人なわけではないことなど、後々知ることになる。

 レイはまだ知らない。


「そもそもわたしは悪いの?国王と女王を殺したのも、塔を壊したのもシンだしな」

「この期に及んでそんなこと言うんなら、貴族街を薙ぎ払い、屠殺場を壊したのは誰だよ。レイの方こそ悪意あるぞ。堰も壊しただろ」

「証拠あるのか」


 レイの反論にシンは真顔でレイに話して聞かせようとしてきた。よかれと思ってしたのに、どうしようもなくなることはある。レイの気持ちもわかるんだけどと言いつつ、シンはひょうたんに入った水を求めた。ひょうたん水とでも言うのだろうか。二人広場の隅っこの腰掛けの一つに座ると、彼は怒るともなく話してきた。


「レイ、怒るわけじゃない。水はうかつに触らない方がいいんだよ。これ、少し甘いね」

「水は上から下へ流れる」

「でも流れるままでは使えないんだよ。これはいつの世でもあることなんだろうね」

「もともとは雨だよね。そんなのみんなのもんだと思うんだけど」

「レイの言うように水はみんなのもんだ。でも水路とかため池とかさ、やっぱりどこかの誰かが作るわけだ。だから人の気持ちが複雑に絡み合うんだ。そうなると揉める」

「揉めるのか」

「ひょうたんと同じだよ。このひょうたんを作る人、水を汲んでくる人、詰める人、売る人とかたくさん関わるだろ?思いが集まるとそれぞれに揉めることにもなるんだ」

「よかれと思って塔を壊したみたいな」


 レイは答えた。

 シンは組んだ足の上で頬杖をついた。


「考えるよね。何もすべて壊さなくても何とかできたんじゃないかななんてね。百歩譲って壊さなきゃならないとしてもだ」

「言いすぎた。でもあの村は喜んでたよ」

「上の村は領主様やらと一触即発だ。ばあさんも喜んでたが、白亜の塔では開けてはいけない箱の蓋を開けた気もする。この世界は闇に覆われようとしている。あちらを立てればこちらが立たずだ。世界か村かの違いだけだね」

「闇で覆われれば、焚き火でもすればいいんじゃないか。わたしは気にしない。シンは気にするのか」

「少しは責任あるかな」

「責任ってたくさんとか少しとかいうもんなの。あるかないかじゃないかな。責めてるわけじゃないよ。シンに責任なんてないもん」

「レイにはあるけどね」


 レイは少し考えた。水はたくさん流れているのに、なぜ揉めるのだと。揉める前にたくさんのとこらからされぞれ水路を引いてくればいいのにと思う。もしレイならそうする。山から流れてくる水など冷たくて気持ちいいし、湧き水なんていくらでも掘ってこれる。雨を貯める池を作っているところもたくさん見てきた。


「あ……」


 村でも揉めていたことを思い出した。上の畑の連中が水路を封鎖してしまい、下のものは迂回した水路を作ったところで、大人たちか一触即発になっていて記憶がある。子どもながらお互いにわければいいのにと思ったものだ。


「なぜシンはそんなこと知ってるの?」

「詳しくは知らないけど、僕たちの世界でも揉めてるんだ。お米を作るんだけど、水は冷たすぎてもダメらしい。ため池も崩れないように管理しないといけない。草刈りとかね」


 シンは覗き込んできた。


「もし偉そうに聞こえたらごめんよ」

「全然平気よ。わたしはシンに教えられてばっかだなと思ってる。でも……」

「でも?」

「やっちゃったもんはしようがない」

「そうか。何も言わん」

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