世界のカケラ 2/5 湖の呪い編 聖剣捨てたい

へのぽん

聖剣、川へ捨てる

 扱いがひどい。

 愚痴は言いたくないが、街の出入口である市門では、毎日たくさんの人や物が行き来しているというのに、シンたちは盗人などが使う秘密の出入口から厄介者のように追い出された。


(異世界へ喚ばれて、これだよ。自分で来たとも言えるし、何とも文句も言えないけど)

「二度と来るもんか!」


 レイが叫んだ。シンは塔の街としても二度と来てほしくないだろうなと思いながら歩きはじめた。


 ひとまず剣をどうするかだ。


 三日ほど、シンたちは山沿いの街道を歩いた。山脈の頂には、まだ雪が残っていた。雪解け水が塔の街へと流れ、ときどき吹く風は川を撫でて僕たちを冷やした。旅をするには、まだ少し早い。

 久々に野宿をした。

 帆布の外套と革の外套を重ねて寝ることにした。革は風を防いではくれても、保温性はほとんどない。

 しばらく乾燥肉をとパン、少しの葡萄酒を飲んで食いつないだ。カネはあるが使うところがない。


「いいように追い出されたな」

「こんなことなら街ごとぶっ潰せばよかったんじゃないか。わたしはシンがいるならどこでもいいし。思い出すだけでムカついてきた」

「剣のこともあるし。ほとぼりが冷めるまで旅でもする。もっとこの世界のこと知る機会だ。行けるところまで行くか」

「わたしは旅は好きだ。村を追い出されたときは心細かったけど、今は村へ戻る気にもならない」 


 シンは火の勢いを調節して、革の外套で寝床を準備すると、レイは隣に入ってきた。腕にしがみつくように寝るのは変わらない。


「星がきれいだ。この世界は丸いのかな」

「丸いよ。まさか端っこは滝になってるとか思ってるとか。真ん丸だよ。真ん中には大きな蛇が棲んでいて、それがグルグルと動いてる。だから蛇がぶつからないように世界は丸い」


 レイは眠そうに話した。


「蛇ねえ。レイは蛇が使えるよね」

「何でかな」

「わかんないの?」

「わかんない」

(危ないな)


 レイは一つあくびをして、すぐに寝息を立てていた。シンはレイのぬくもりを感じ、小さな火が爆ぜる音を聞きながら眠りに就いた。


 ☆☆☆☆☆

 シンはぐっすり眠った。久々の野宿でも気にならない。街では野宿よりもひどい暮らしをしていたのを思い出した。レイはすでに朝食を準備していた。シンは寝惚け眼でレイと剣について話した。


「シンが使えばいいのに」

「使えれば使うんだろうけど、生きる力を取られるような気がするから怖いんだよ。てかこんなものどこで使うんだよ。もらった額飾りもレイの力を封印するんだろ?」

「似たようなもんかな」

「売る。教会へ行く必要なんてないと思うんだけどな。捨てるか」


 レイはシンに同意した。

 塔の街で売るのは難しい。買えば捕まるどころか厄災まで背負い込むかもしれない。では誰が買うんだということで、捨てることにした。


「川にでも捨てるか」


 シンは雪解けの流れを見ながら呟いた。レイは捨ててみればと言うので、朝焼けの中、シンは両手剣の女王の剣をぶん投げてみた。瞬間、地響きがした気もしたが、剣は川の流れに飲み込まれて消えた。ついでに国ノ王の剣も捨てた。呆気なく済んだなと思って見守った。


「これからどうする?」

「村へ戻る気にもなれないし、塔の街へ戻るわけにもいかんし、コロブツとやらに行くか。遠いのかな」

「三日くらいじゃないかな」

「意外に近いな。観光がてらに行ってみるか。何かあるのかな」

「湖だよ」

「湖か」

(琵琶湖のようなものかな?)

 

 レイは鞄からしわくちゃのガイドマップを出してきた。縮尺がわからないので、コロブツの湖の大きさもわからないが、町を守る門から西側に建物らしき印がたくさんあった。


「何でこんなもん持ってるんだ?」

「もらったのかな」

「行くまでの地図はないのな」


 二人は川沿いを歩いた。

 夜、土手で野宿をした。川に魚がいるか調べたが、水が冷たすぎてすぐに二人とも諦めた。乾燥肉と乾いたパンを流し込んで寝転んだ。レイは焚き火に枝をくべた。


「ばあさん、もっと早くに会えてればいろんなこと話せたのかもね」

「二人ともこの世界を良くしようとしていたのはわかるからなぁ」

「シンの世界はこの世界と比べて平和?」

「世界は広いからな。僕がここに来て気づいたことは、どこも同じだなということだ。訳わからん力やら生きものがいるけど、レイが僕の世界に来ても同じように思うはずだよ」

「行けるかな。シンは戻るのよね。わたしも一緒に行きたい。迷惑かもしれないけど」

「迷惑じゃない。戻るときはレイも連れて行く気でいる。まず戻れるのかわかんないけど」

「シンの故郷見たい」

「実際は親に見捨てられたんだからないけどね。レイと同じだ」

「うん」


 教会に行けば異世界から戻れるかどうかはわかるかもしれない。白亜の塔だけが、この世の中のすべてではないということが知れたのはいいことだ。そう思うしかない。


「白亜の塔が潰れるときに世界を頼むみたいなこと言われたけど、世界てどこまであるのかすらわかんないもんな。僕には荷が重すぎる」

「世界なんてどうでもいい」


 シンたちは寝ることにした。冷える前に眠ってておかないと、まったく眠れなくなることもある。眠れないまま起きているのはつらい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る