異世界からこんにちは〜異世界の王女、高校生と地の底で出会う〜

高井真悠

第1話 冒険者セラフィの災難

私はセラフィエラ・アースガルド12歳。アースガルド王家に籍を置く王女だ。


王女という立場だから、当然私にも王位継承権はあるのだけど…もうね、ぶっちゃけ継承十位以下は居ないも同然の扱いなのよ。


アースガルド国王陛下には5人の妃がいて、其々に複数人の子供がいる。私は正妃アンジェラの末娘なんだけど、私の前に他の妃が子供を産んでいるので生まれた順に継承権が与えられるこの国では継承十一位という微妙な位置。あ、子供達の仲は意外と良いんだよ。生まれた子供には平等に教育を施してくれるし子供達は産まれてすぐに《翡翠宮》という王子王女専用の宮で一緒に育てられるからね。


その代わりにバチバチしてるのは妃達だけど、ギスギスというよりは良きライバルって感じ。ギスギスしてるのは妃の実家かな?


この辺はアースガルドという王国が古くからそういう方針だからとしか言えない。他所の王族とか貴族は色々邪推してくるけど、そもそも互いにギスギスしそうな妃は選ばないようになってるし、他の妃は正妃が父王陛下にお勧めするから揉めようがない。


だから、社交界では王子と年の近い女性がそれぞれ派閥を作っている。正妃のグループは他のご令嬢とは違ってグイグイガツガツしてなくて、周りからも少し浮いたような感じだったらしい。そこが父王陛下に刺さったみたいなんだけどね。


さて、そんな王家に生まれた私は継承権の低さから比較的自由にさせてもらえてる。どれくらい自由かと言うと…


「こんにちはー!」

「おー、。今日もか?」


慣れた道を一人で歩き、大きな建物へ入る。顔馴染みの職員に声を掛けると向こうも気安い感じで応えてくるけど、私の立場とかは知ってる人だったりする。その上でこの態度だから、市井における私の扱いがどういったものかは推して知るべしって感じだね。


私が訪れたこの建物は《冒険者ギルド》


冒険者というのは、様々な依頼を受けて報酬を得る者達の事。一つの国に留まらず、未知と報酬を求めて流離う者たちが、大昔に世界中を大冒険して一財産を築き上げた冒険者バレンガルドにあやかって《冒険者》と名乗った事から由来している。


そんな者達を取りまとめている組織が《冒険者ギルド》で、世界各国に支部がある巨大組織。国でさえ彼らを縛ることは出来ず、互いが不可侵の元に協力する事で成り立っている。


かくいう私も、冒険者ギルドに所属する冒険者でもある。王女だけど将来的には自分で生きていかなきゃいけないからね。婚姻って手もあるけど、家で大人しくしていられない性格なのは百も承知だし、家族全員が『婚約とか無理でしょ』という認識なので、こうして冒険者をしているというワケ。


「独り立ちする前に稼がないとね。で、討伐依頼はある?」

「それなら…《ゲルボア遺跡の掃除》はどうだ?報酬は一体につき銀貨3枚。遺跡内に調査団が入るから、安全確保をしてほしいんだとよ」

「ゲルボア遺跡?…そこって、《ハフィの森》で最近見つかった所だよね。」

「あぁ。つい先月だったか、大地が揺れた事があったろ?」

「うん、あれは驚いちゃったよ。大地の下にある地脈が変動した?とか何とかだっけ」

「おぉ、それだ。その時に学者どもが発見したのがその遺跡なんだが、長らく発見されてなかったからか魔物が多くてな。調査の邪魔になるから間引きをして欲しいんだとよ。あの辺なら余裕だろ?」

「りょーかい。んじゃ、手続きよろしく」

「あいよ」


首から下げていた冒険者証を渡すと、手元にある魔導具にかざす。冒険者証には個人識別番号と各種ステータス、賞罰の有無やコレまで受けた依頼の達成率や難易度なんかが登録されている。難易度別の達成率によって冒険者ランクが決まっていて、職員はそれを見て依頼を振ってくれる。掲示板に貼られた難易度の高い依頼を受けるのも個人の自由だけど、失敗した時のリスクが高いから依頼をオススメして貰ったほうが安心安全だし安定して稼げる。


手続きが終わったら、次は依頼の為の準備。今回は王都から日帰りできる程近い森の中だけど、最低でも2泊分の用意をするのが冒険者というもの。常に不測の事態に備えるのは生存率を上げる為に必要な事なのだ。実際に依頼が長引く事なんてだからしっかり準備をしておく。特に水と食料は生き残る為に必須だからしっかり揃えておかないとね。


私が持っている背負う鞄は上の兄様が作った特別仕様。何が特別なのかと言うと、この鞄、見た目以上に物が入るようになっているんだ。市井では《マジックバッグ》という名前で売られていて、容量は金額によって変わる。広く普及してるから駆け出し冒険者でも少し依頼を達成すれば容量2倍程度はすぐに買える。ただ、私の鞄は容量無制限・時間停止機能付き・所有者限定・位置追跡機能の付いた世界で一つだけのもので、王侯貴族がお金を積んでも買えるかどうか…という逸品。


性能もそうなんだけど、製作者である継承第三位のウェルダリア兄様が、魔導具や錬金術に精通した天才で世界中から様々な依頼が入るのに、気分で受けたり受けなかったりという方だから。同じ鞄を作ってくれと依頼されても多分受けないかな?何せ、私の為に作ってくれたものだからね。


ウェル兄様は私の実兄で、年の離れた妹である私を溺愛してくれている。私が王女でありながら、こうして危険な事も多い冒険者をしていられるのも、兄様が私の為に着るもの使うもの全てを用意してくれたから。というか、それが冒険者をする条件でもある。自由気ままな王女だけど、一応立場も慮ってるんだよ。一応ね。


とは言え、それで実力を疑われるのも嫌だから普段は最低限の身の守りだけ身に着けていて、後はすぐ着替えられるように指輪型の《着替えの魔導具》に入れてある。これもウェル兄様作。



鞄の中には色々入ってるけど、屋台や店舗を覗いて気になったものを購入して準備完了!


依頼場所へは馬車と徒歩。森の入り口まで乗合馬車で向かい、そこから地図と方位を確認しつつ遺跡のある方へ向かうと、魔物の気配がしてくる。出現するのはラビット種・ディア種・ウルフ種・ブル種。もっと奥に行くとベア系も出現するけど遺跡周辺での目撃情報はないから、注意するのはウルフ・ボアの2種かな。ウルフ種は集団で行動するからちょっと厄介だし、ボア種は子育て中だと凶暴さが増す。ウルフだと判断して、木の上に登って弓を取り出し気配を殺す。すると、徘徊していたウルフ種が3匹現れた。毛皮の色が緑だからこの辺でよく見る森ウルフみたい。爪と牙に要注意だけど木には登れないから上から弓で狙うのが定石。時々風の刃を飛ばすのと《咆哮》というスキルで相手を怯ませるけど、これも知っていれば対処できる。


矢に魔力を乗せてウルフの足元に放つと、そこから土魔法が放たれてウルフの足を絡め取る。動きを封じられたウルフは案の定風の刃を飛ばしてくるけど、同じように風魔法で相殺してから弓で急所をズドンッ。こんな感じで一匹ずつ仕留めて終了、お疲れ様でした。


穴を掘って血抜きをしてから、魔物用鞄に突っ込む。いくら中身は干渉しないとは言え、魔物の死体と食べ物は一緒に入れたくないもんね。気分的に。


遺跡の周辺はウルフ種の縄張りだったらしく、最終的に三十匹ほど倒すことになった。


周辺を索敵して、打ち残しが無いか確認。念の為に魔物避けの魔導具を周囲に配置したら依頼は完了。この時点で夕方になっていたから、持たされた通信の魔導具で兄様に報告して一泊する許可を貰う。近いとはいえ、平地より暗くなるのが早い森の中を今から移動するのは得策ではないからね。


「…遺跡の中ってどうなってんだろ」


好奇心は猫を殺す…という言葉があるけれど、ほんとにそう。


一晩過ごせる場所無いかな〜?って軽い気持ちで遺跡内に入り、広間みたいな場所を見つけた私。壁画のようなものを眺めていると不自然な切り込みを見つけてしまった。


触らない方が良いんだろうけど、何となく気になって手を置いた。


「あっ」


切り込みがズズンと奥に押し込まれると同時に、私は突然空いた穴に落ちてしまったのだった。

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